祝!!ドッキドキ!夢の地下生活!?
一旦鎮火したものの、真っ黒コゲになってしまった警察署だったものを見ながら呟いた。
「直るまでどうやって生活すればいいんだ?凍死しちまうぞ?…あとジャージ返して。死にそう」
「そうだね……そういえば地下の独房は?金属製だし扉も頑丈だからそのまま残ってるんじゃないかな?」
確かにそうだ!一筋の希望の光が見えた…けど、
「地下の…独房……?ぁあっ!あ…ああああああああああああ!!」
甦るトラウマ、沸き上がる恐怖、叫ぶ俺、似合う言葉は阿鼻叫喚。テッドの足もガタガタと震え立っているのもやっとだ。
「えー…っとショウくん?」
「ちょっとショウさん!?どうしたんですか!」
「2人はその場にいなかったから知らないだろうが、実は俺とショウはあそこにとんでもないトラウマを抱えていてな…」
「ハハ、なんとなく予想が出来るよ」
ベルトは手を口に当てて笑った後、俺の方へ手をさしのべた。
「嫌だあああああ!!俺はあんなとこ行くくらいなら凍死した方がマシだぁあー!!」
「気持ちはわかるがショウ!背に腹は代えられねぇんだよぉ!!」
テッドは雪の上で大の字になって号泣する俺の足を、もって引きずって行く。
「大丈夫ですショウさん、寒かったら私が温めてあげます!」
そう言って俺にくっつきながら、魔法で生成した火を首に接触させた。本人は単なる親切心かもしれないが、俺から言わせてみればただの拷問だ。
「アーッチッチッチッチッチ!!わかった!わかったからそれしまってくれ!」
さしもの俺も観念して、うなだれつつも渋々歩きだした。
独房への扉は全くの無傷で、先の悲劇など気にもしていない様子だった。
「なぁ、早く開けてくれ、寒ぃ。」
「わっわかってらぁ!でも、でもよぅっ!クソッ手がッ!震えやがるんだ!」
「ショウさーん!私も早く入りたいんですけどー」
「まぁまぁそう急かさないであげなよ。ところでショウくん、いつまで掛かるんだい?」
「ファーーック!事情も知らねぇヤツァ黙ってろぃ!」
ギャーギャー騒ぎながら、ロックを外して扉をぶち破るように開ける。中へ転がり込み、階段を降りて行く。
「ぬぉおー!風が無いだけでずいぶん違いますね!」
「ひとまずこれで凍えることはなさそうだね」
ベルトは優雅に髪を揺らしながら頷く。返してもらった情熱ジャージも心なしか嬉しそうにその蛍光黄緑を光らせていた。一息付ける。そう思った。
「…ぁあ~…ラララ~…♪」
「…うふふふ…あはは…!」
「ひっ!」
思わず首をすくめた。かすかにだが奥の方で悪魔たちの鳴き声がする。テッドの表情もいくらか曇っている。冷や汗が頬を伝う感覚だってあるのか無いのか自分でもわからないレベルで恐怖が俺の身体を支配した。
「むー?ノイマンさんの声ですかね?」
「テッドくんたち、ギターを返したんだね。楽しそうに歌っているよ」
まだ近くで歌を聞いていないミリーとベルトは顔を見合わせ微笑んだ。これからどんな地獄が待ち受けているかも知らずに…。
「ショウ…行くぞ」
「あぁ」
奥へと進むにつれ声がはっきりしてくる。地下は音がよく反響してヤツらの声が全方向から聞こえてくるようだった。
「おんやぁ?これはこれはシャッチョサンじゃありませんか!お久しぶりデース!」
相変わらずダセェ赤バンダナを装着して満面の笑みを浮かべている。
「テメェ!社長さんじゃねぇって言ってんだろ!しょ・ちょ・う・さ・ん!!」
「オゥ!すみませんシャッチョサン!」
「だからぁ!」
ノイマンと言い合いをしているテッドを見ていると、クスクスと笑う声がした。
「ふふふ、今回は皆来てくれたのぉ?」
独房の暗がりでララが自分の魅惑的な白い足を撫でながら上目遣いで俺たちを見つめてきた。初見は興奮するかもしれんが、俺は知っている。ノイマンと意気投合したイカれ女だってことを。
「あー…ノイマン、ララ。信じられないかもしれないけど、実は上でちょっとした大火事が発生してな。端的に言うと警察署が完全に直るまでここで住まわせてもらうことにしたんだ」
頭を搔きながら言い終えるとノイマンが立ち上がり、
「ということはシャッチョサンたちがワターシたちが寂しい思いをしないようにあえて警察署を燃やしてやってきたんですね?これぞ本当のファミリーデース!!」
目を輝かせながら歓喜の声をあげた。
「別に退屈なんかしてなかったけど、嬉しいわぁ!これから皆で楽しく過ごせるのね!」
胸の前で手を組んでなんとも無邪気な笑顔を見せた。
「バカヤロゥ!誰が好き好んでお前らみたいなイカれ野郎どもと一緒に寝食を共にすんだよ!」
「あら?なら毎日温かくて美味しいご飯をくれて優しくしてくれるのは何故?」
「…どんなクソ野郎にも最低限の権利は認められるべきだ」
人情に厚いヤツだ。どれだけ苦しめられようと最低限の扱いをするテッドに感動していると、ノイマンがこれ見よがしにギターをジャカジャカ弾き始めた。
「そんな照れ隠しは必要ありません!ファミリーになった記念にワターシの新曲をお聞かせしましょう!!イェャア!!?」
「「やめろぉおーー!!」」
俺とテッドの抵抗虚しく最低最悪のリサイタルが開催された。ノイマンの呪いとも呼べるノイズにさっきまでのほほんとしていた健常者2人が悶絶し始める。
「にょわぁあーー!!なんですかこの精神攻撃魔法は!!」
「うっ…なんだか頭が痛くなってきた…」
(ジャァアン…!)
どれだけの時間が経っただろう…。無限に感じた地獄リサイタルが最後の不協和音と共に終了した頃には、両手を付いて咳き込むミリーと顔色を悪くして壁を背にずり落ちていくベルトの姿があった。
「フゥ、出しきりました。ワタクシの歌はソウルに届いたでしょうカ?」
額の汗を爽やかに拭いながら感想を求めるバンダナ親父に心底殺意が沸いた。
「本当、素晴らしいわノイマン!聴くたびに新しい自分に生まれ変わったような気分よ!」
拍手喝采するララ。
「だぁクソ!っとにイカれてんなララ!見ろ!初見の2人が重傷じゃねぇか!」
「うっうぅ~…ショウさんやテッドさんが浮かない顔をしていた理由がよくわかりました。これは合法の歌じゃないですよぅ…」
涙目になり這いつくばって俺の足にしがみついてくる。
「これは、なんとも恐ろしい…」
二日酔いしたオッサンみたいにその場で三角座りしながらベルトが消えそうな声で呻いた。
「ゲホッまずは居住スペースの確保だ…」
早くも耐性が付き始めたようで、比較的軽症ですんだテッドが血を吐きながら指示した。
それから数分。独房からは布団だけしか見受けられず、それぞれ1つずつ独房を当て、そこで寝ることになった。
「なぁ、俺たちこれじゃ囚人じゃねぇか?」
「嫌ですよぉ!こんなところで寝るなんてもうお嫁に行けなくなっちゃいますよぉ!」
「グチグチ文句言ってんじゃねぇ!そんでミリー、お前がお嫁に行けるわけねぇだろ!」
「ヒドイ!なんでそんな意地悪言うんですか!」
またケンカし始めた2人をよそに、ベルトは静かに自分の部屋(独房)に入るなり布団にくるまり冬眠を再開した。
「そしたら買い出ししてくらぁ」
「私も行きたぁい!」
うわキモ!急に仲直りして急に買い出し行く精神キモ!理解できない。手を繋いで買い出しに行く2人の背中を見送ると、ふと気付く。
ちょっと待てよ?2人は買い出し、ベルトは冬眠中。実質ノイマン&ララのモンスターペアレントに板挟みされている状況だ…。
「シャッチョサンとミリー女史、行ってしまいましたねぇ」
「ベルトちゃんは眠ってるみたいだし、ショウちゃんとノイちゃん、私だけのお留守番。ドキドキするわねぇ」
うっ!なんとかヘイトを集めないように静かにしていたのに!名前を出されて心臓が跳ねる。てか知らん間に変なあだ名まで付けている。
「ねぇショウちゃん、起きてるんでしょう?私たちとお話ししない?」
ここで声を出せばめんどくさくなることこの上ない。黙っておくが吉。
「も~う、黙りなのぉ?せっかく私が男の子が喜びそうなお話しをしてあげようと思ったのにぃ」
グラグラと心が揺らぐ。正直気になる。気になって気になって夜も眠れなさそうな程に。しかし、俺は鋼のメンタルで堪える。
「まぁララ、ショウ男史がそのような話が好きとは限りません。別の話題にすれば良いのでは?」
「あらそう?ふーん、私がお風呂でどこから洗うかのお話しは興味ない?」
「詳しく聞かせてください」
しまったぁあーー!!ショウがないだろ!―ショウだけに…すいません―ここで聞かないのは男としてダメな気がしたんだ、この愚かな俺を許してくれ!
「オゥ!ショウ男史、良い食いつきデス!ワタクシはギターの調整があるので2人で楽しんでください」
ノイマンには性欲がないようで、いくらイカれているとはいえナイスバディなララと一緒の独房にいても、自分の音楽がわかる良き理解者としか見ていないようだった。
「うふふ、やっぱり興味あるのね。お風呂に入ったらまず――」
「おぉっ!」
もはや、理性など無い。あるのはただ1つ!素晴らしい情報を追い求める野心だけだ!
「たっだいまーー!!」
ララの言葉を遮り、ミリーが袋をぶら下げて帰ってきた。
「何のお話しをしてたんですか?」
「私がお風呂でどこから洗うかについてのお話しよ?ミリーちゃんも聞く?」
「んだそれ俺にも聞かせてくれ!!!」
ミリーの後ろからやってきたテッドは光の速度で地面に座るとモジモジし始めた。
「なっ何てハレンチな!ダメですよララさん!女の子がそんなお下品なお話しをしたら!」
顔を両手で覆い顔を真っ赤にして叱責する。
「んーミリーちゃんがそういうなら仕方ないわね。このお話しはやめておくわ」
「はぁあーー!?ちょっと待ってくれよ!俺のこの気持ちは一体どこへぶつければいいんだ!」
「そうだぜミリー!何て事してくれたんだ!」
2人して激しく憤慨し、ミリーに詰め寄る。
「えっえぇえ!?私何か悪いことしちゃいましたか?なんでそんなに怒ってるんですか?」
買い物袋を抱き締めて目に涙を浮かべる。
「あったりめぇだ!男のロマンを邪魔しやがって!死刑じゃ死刑!」
「俺たちのささやかな安らぎを奪ったんだ!」
俺たちの言い分を理解したようで、左手を腰に当てて右手の人差し指を斜めに立てて先生のように、
「いいですか、2人とも!私たちは今、警察署が燃えちゃって地下での生活を余儀なくされているんです!言わば崖っぷちの状況なのに何が『お風呂でどこから洗うか』ですか!警察署と一緒に脳みそまで全焼しちゃったんですか!!」
正論の洪水が俺たちを襲い、付いた火はあえなく鎮火された。
「燃えた原因の一端はお前も担いでるけどな」
「……持ちつ持たれつです」
しゃあね、これでお互いイーブンだ。
「そっそうだ!今日のご飯を買ってきましたよ!」
微妙な空気に耐えかねたように袋から干した肉とカッチンコッチンに凍ったローカルなパンを出してきた。
「なぁ、これ凍ってるってレベルじゃねぇぞ。石じゃん。歯折れるぞ」
「冬の買い出しはこれくらいしか残ってねぇんだ。我慢してくれ」
テッドが諦め顔でそう諭す。買い出し組の2人と情熱ジャージの俺、モンスターペアレントの2人、冬眠中のベルトにはお供え物のような形でそれぞれに飯を配給した。
「食うしかねぇのか…このパン」
「顎鍛えるチャンスだと思ってくれ」
豪快に凍ったパンをかじるテッドを見て俺もいけるんじゃないかと錯覚した。覚悟を決めてかぶり付く。
(――ガキッ!)
脳天を貫くような衝撃が俺を襲い思わず気絶するところだった。味がどうこうよりも先に俺の命がどうこうしそうだった。干し肉にいたっては噛めば噛むほど顎が悲鳴を上げる。前の檻を見ればミリーも半泣きでモソモソと牢屋飯を食らっている。
そんな涙のディナーを終わり、地下の気温が一段と下がる頃、いよいよお休みの時間がやってきた。
「それじゃあ皆お休み。凍死しないようにしっかり布団に入るんだよ…」
一瞬だけ冬眠から抜け出しそう忠告するとすぐに自分の繭へと閉じ籠った。ミリーも「お嫁に行けない、お嫁に行けない…グスン」と呟きながら布団に入る。明かりが消え、完全な夜が訪れる――ハズだった。
「うわ、眩し!」
突如として地下全体がまるでエレクトロニックなダンスホールに様変わりしたように光り輝き始めた。
「暗いと気分が上がらないでしょう?」
「ブゥウウラボォオオウ!!ララ女史、なんという素晴らしき光!ワターシのソウルが今、解き放たれる!」
隣の部屋から不穏な会話が聞こえてくる。マズい。この流れは本当にマズい。
「夜はこれからデース!!ファミリーの絆を深めるスペシャルライブ、開催デーース!!!」
響き渡る昼間以上の爆音の不協和音。それに合わさり目が痛くなる程の過剰なライトアップ。目と耳両方に投げ掛けてくるメッセージ性の高い状況に絶望した。
「うっギャアアーー!?俺の頭がおかしくなるぅうー!!」
「わぁあーー!うるさいし眩しいし何なんですかコレェーーー!!」
せっかく寝ていたテッドとミリーが飛び起き、自分の頭を抱えてのたうち回る。冬眠中だったベルトは「こ…こは、あの世?」とうわ言を漏らしてうなされている。
「誰かアイツの弦を全部引きちぎれ!この地獄を誰か終らせてくれぇえええ!!!」
鉄格子をガタガタと揺らしながら、俺は涙目で絶叫した。
全焼した警察署、カチカチの石パン、そして終わらない深夜のビカビカ大リサイタル。俺たちの眠れない地下暮らしは今、始まったばかりだ。
~続く~
ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!
住居が燃え尽きてしまいどこで生活するのぉ?と不安がっていたショウ君ですが、まさかの新住居は地下の独房でした(笑)。地上の極寒からは逃れられたものの、地下も地下である意味極寒でした。にっちもさっちもいかないショウ君、生きて帰れるかな?
ではまた来週~。




