祝!!大掃除!?
牛さんたちの群れに揉まれ、2度目の異世界転生を果たしかけたあの大惨劇から数日。
オフィスには兄の踏み場が無い程に物が散乱していた。しかもぜーんぶ怪しい。嫌な予感しかしねー。
「よし、みんな集まったね。特にすることも無いから、これまで集めた押収品の整理を始めようか」
どっから持ってきたのか、ホワイトボードの前に立ち、先端に指の付いた棒でホワイトボードをぺんぺんと叩いた。
「なんだ、まだ残ってたのか。変に頑丈なヤツらだぜ」
「これはチャンスかもしれませんよテッドさん。もしかしたらお金になるのが出てくるかも…!」
よく知らないが押収品って元は他人の物だろ?それを勝手に売っぱらって自分の懐に入れるのは中々香ばしい香りがするのだが…
「ショウくん大丈夫かい?ずいぶん顔色が悪いけど、前みたいに巻き込まれるのが怖いのかい?大丈夫だよ、危ないものはテッドくんが責任持って外に放り投げてくれるからね」
「あーうん、なんでもねぇよ」
ここらの制度なんて知ったこっちゃねぇし、知りたいとも思わない。ここの事はここのヤツに任せればいいか。俺は頭を搔いて仕事に当たることとした。
「…お!ショウお前、これ似合うんじゃねぇか?」
「なんだ?…おいおいやめろ!?」
いかにも怪しげに笑う顔が貼り付けられたお面を俺に無理矢理取っ付けた。
(…カチリ)
時限爆弾のような音が鳴ると、なんの固定器具もないのに仮面は俺にガッチリくっ付けやがった。
「むー!むーー!?」
やばーい!!どんだけ力を込めても一向に離れる様子はない。息だってできねぇし…あぁ息できる、勘違いした。
「ぶっははははは!!えー?なんだってー?聞こえねー!」
「笑ってねぇでこれ外せ!ぶん殴るぞ!」…って言ったつもりだったんだが、実際に出た声?いや、音は―
「プピィー!プププピィー!」
俺の意思とは反してガキ用の靴みたいな甲高い音が発せられ、テッドは身をよじって笑い出す。
「アハハ!なんですかそれ!面白~い!!」
ついでにミリーも。
「それは『擦連の呪面』だね。外し方は2つ。お面が割れるくらいの強い衝撃を与えるか、別の人に顔面を擦り付けることで仮面を押し付けることができるよ」
――擦り付けるだと!?
ニヤリ、俺の顔(仮面被ってるけど)が歪んだのを周囲は察知できただろうか。視線の先にはいまだ笑い転げているテッドの姿。
「ププ、プピィィーーーー!!」
全身全霊のスピードで俺はテッドの顔面めがけて突撃する。
「うわ!?なんだショウ!だぁあやめろやめろォ!」
(…カチリ)
ガチ恋距離での格闘の末、小気味良い音が聞こえる。
「プピピ!?ピィー!!」
「ハーッハッハッハ!お返しだテッド!あー空気がうめぇ!!」
大の大人が情けない音を出しながらもがき苦しむ姿は実に滑稽であった。
「テッドくん、それを外したかったら仮面が割れるくらいの強い衝撃を与えるといい―」
「ピピピピィー!!」
ベルトの助言を最後まで聞かずに仮面を外すべく壁に突撃しやがった。
(ドゴォオン!)
「だから新築だって言ってんだろォ!」
早々に穴が空いてしまった壁を見ても全く悪びれる素振りの無いテッドが砂煙の奥から出てきた。
「ふぃ~、ヒデェ目にあったぜぃ」
両手をプルプル振りながら、粉々になった仮面の破片をその辺にポイっと捨てた。
「ねえねぇみなさん!これなんてどうですか?とっても面白そうです!」
ミリーが誇らしげに持ってきたのは、レトロで怪しげな装飾の施されたマイク付きのラジカセだった。スピーカー部分がチカチカ点滅している。怖。
「気を付けろよな。こんなとこにあるくらいならヤベェもんの可能性大だぞ?」
「ショウさんは心配しすぎです!やってみなきゃわからないんですから!」
眉をひそめて睨み付けてやったが、ミリーの目は以前キラキラ輝いており、聞く耳を持たない様子でスイッチを入れた。
「おいバカ!何やってんだよ!」
「ちょっと歌うだけですから、ね?ね?」
ミリーはマイクを両手で包むように握りしめ、コホンと可愛らしく咳払いをした。その姿はまるでアイドルのステージ直前のよう…まぁこんな感じのことをミリーの名誉のために言っておく。
「~♪」
彼女が口ずさみ始めたのは、軽快でポップなメロディ。割りと澄んだ歌声がラジカセを通じて響き渡った瞬間、スピーカーから7色の光波が放たれた。
「――っ!?」
直後、俺の身体に異変が起きた。自分の意思とは無関係に、右足が勝手にステップを踏み出した。
「な、なんだこれ!?身体が止まらねぇ!」
「ナハハ、ショウ!お前ノリノリじゃねぇか…ってうわあああ!?俺の手が勝手にフリツケをぉ!?」
隣ではテッドも同じく見事なバックダンサーとして才覚を発揮している。
「そうか…死んだじいちゃんが言って…『ワイの若い頃はキレッキレのダンサーじゃった』って。うぅ…じいちゃん…ッ!」
「バカやろう!あのラジカセの仕業に決まってんだろ!なんで今になって死んだジジィが憑依してくんだ!!」
「あーそりゃあれだ、ダンサーの血が騒いだとか?」
2人してくだらねぇ言い合いをしていると、
「ふふふ、みなさん上手ですね!もっと盛り上がっていきましょー!」
俺たちが楽しんでいると勘違いしたのか、ミリーは満面の笑みでさらにステップを踏み、歌声に熱を込める。
「クソ、ベルト!何とかしてくれ!!」
ベルトの方に目をやるとアイツだけ優雅に耳栓をして黙々と片付けを進めていた。とうに俺の声など耳に届いていないらしい。
「ド・キ・ド・キ愛してる♪」
ベッタベタな歌詞を右から左へと聞き流しながら望まぬ鮮やかなターンを決めていた。テッドにいたっては見事なムーンウォークを披露している。全身がこの前の打撲で悲鳴を上げており、脳内では緊急避難命令が発令された。
「ショウ、じいちゃんが…じいちゃんがバックで踊れって言ってる!」
「うるせぇ!ジジィの幻聴に付き合ってる暇はねぇんだよ!よく聞け、これを止めるためには多分ミリーをぶっ飛ばすかラジカセぶっ壊さねぇといけねぇ」
「ふんふん、なるほどな」
激しいステップを踏みながら作戦会議をした。この手の術は大体ぶん殴ったらなんとかなるからな。
「フォーメーションを変えるぞ!ダンスを装ってジリジリ近づいていくんだ!」
「オーケー相棒、乗ったぜ!」
俺たちはまるで一世を風靡したダンスユニットかのように、息の合ったバックステップで距離を詰めていく。ミリーの歌がサビに入ったようで、リズムが一段と激しくなる。それにともない俺たちの身体もさらにキレを増したターンを披露。
目標実に2メートル、いける!
間合いに入った瞬間、俺はダンスの流れをそのまま利用し、身体をよじらせた。ステップの勢いを全て右足に乗せ、高々に足を上げる。
狙うはミリーのマイク――ではなく足元のラジカセただ1つ!
「イェヤァア!!」
放ったのは、ダンスのポーズに見せかけた、軌道の読めない鮮やかなブラジリアンキック。
俺の足先が見事にラジカセのスピーカー部分を捉え、強烈な一撃を叩き込んだ。
(ドガシャァアアン!!)
派手な破壊音とともにラジカセが粉々に砕け散り、オフィスに一瞬で静寂が戻る。
「だはぁ!と、止まったぁ」
「ハァ、ハァ…じゃあな、じいちゃん…」
操り糸が切れたように、その場で座り込む俺とテッド。こりゃあ明日から打撲と筋肉痛の痛みと戦いだな。
「あぁ!?私のラジカセがー!もうすぐ良いところだったのにぃ!」
ミリーがマイクのコードを握りしめたまま、ショックで頬を膨らませ抗議してくる。
「…おや?急に静かになったね」
ようやく異変に気づいたベルトが耳栓を外し、書類の山から顔を上げた。床に転がって虫の息になっている男二人と、大破した魔道具を交互に見つめる。
「やれやれ、また壊したのかい?これじゃあ片付けにならないよ」
「誰のせいだと思ってぇ…っ!」
歯を食い縛り目から血を流しながら、必死に怒りを抑える。片付けなんて気にせず、何もかも窓に放り投げたい気分だ。
「これ以上、貴重な押収品を破壊されてはたまらないからね。ここからは安全第一でいこうか。ミリー、もう怪しい魔道具のスイッチを押さないように」
「はーい…。ごめんなさい、ショウさん、テッドさん」
さすがに反省したのか、ミリーがシュンとして頭を下げる。その殊勝な態度を見せられたのなら、もう怒る気にもなれない。
「…これで仲直りだ。ほらテッド、いつまでもジジィとの別れを惜しんでねぇで働け」
「うぅ…腰が、腰がサヨナラを告げているぜ…」
ブツクサ文句を言っているテッドのケツをひっぱたいて、ようやくまともな片付けを開始した。
まずはベルトの指示に従い、散らかった押収品をジャンルごとに分別する。
「これはただのガラクタ」、「これは一応、危険性の無い美術品」、「要注意の魔道具」――。
「ショウ、見てくれよ。この箱食いもんが入ってるぜ。食うか?」
「食うわけねぇだろバカ。んなもん食ったらあの世にひも無しバンジーに決まってる」
「あぅ…いえいえ食べようとなんてしてませんよ!あ、ショウさん、この可愛いぬいぐるみはただのおもちゃですよね?」
「ミリー、なんでもかんでも触り回るな。俺の心臓が持たん」
また何か起きるんじゃないかと冷や冷やしながらも、お面やラジカセの時のような大惨事は起きず、作業は思いのほか順調に進んでいく。段ボール箱に綺麗に収まっていく物品を見て、少しずつオフィスの床が見えてきた。
「ふぅ……。なんだ、やればできるじゃないか」
「みんなの協力のおかげだね。予定よりずっと早く終われそうだよ」
額の汗を拭い少しの達成感に浸る。
床を埋め尽くしていた怪しい品々は全て分類され、段ボール箱にキッチリ収まっている。ようやく元の広さを取り戻したオフィスを見渡し、テッドが深くため息をついた。
「なんとか終わったぜ…自室に籠ってゲームとしゃれこもう」
「綺麗になると気持ちが良いですね!」
ミリーも満足そうに微笑んでいる。ベルトは仕分けられた箱を見てフムと頷いた。
「みんなお疲れ様。これで我がオフィスの平和も守られたわけだ」
「平和」という言葉を聞いて、俺の肩から力が抜ける。色々あったが、今日も生き延びることができた。
「あ?んだこれ」
そう言ってテッドが拾ってきたのは、まだ分別しきれていなかったアンティーク調のリモコンのような機械だった。
「裏面にボタンがあります」
「おいテッド、頼むから押さないでくれよ?」
嫌な予感が脳裏によぎり、全身の毛穴が収縮する。
「大丈夫だろ、多分古い通信機かなんかだろ」
「押すなっつってんだろ!!」
(ピッ)
静かなオフィスに、無情にも小さな電子音が響いた。
直後、床に積み上げられていた「危険性のない美術品」や「ただのガラクタ」の箱から、一斉にブーーーンという不穏な駆動音が鳴り響く。それらが連動して怪しく明滅し始めた。
「「「「あ」」」」
言葉にすらならない声を漏らした瞬間。
(ドガァアアアアン!!!!)
オフィスの窓ガラスが全て吹き飛び、凄まじい爆風と派手な白煙が部屋を包み込んだ。新築の壁に、今度はさらに巨大な大穴が追加される。
一般人の俺を除いた全員は全くの無傷。全身が炭のように焦げ、髪の毛がアフロヘアーに変化したのは俺だけだった。いっつも割を食うのは俺なんだね…
「テッド、1つ言わせてくれ」
「なんだ?」
「くたばれ」
テッドのじいちゃんが、今度は本当に天国から手を振っておられるようだ。俺は静かに白目を剥き、今度こそ意識を手放した。
~続く~
ご一読ありがとうございます!
ども、全ての元凶、作者です。「爆発オチなんてサイテー!」みなさんこう思ったことでしょう。私だって思いました。書いてる内に気が付いたらショウ君がボコボコになってしまったんです(泣)。私は悪くありません。しかし、私はいつだってショウ君の幸せを願っていることをご理解いただければと思います!
ではまた来週~。




