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祝!!大金!夢の200万ゴールド!?

(カーン、カーン、カーン――)

 ここは第三部隊警察署地下の独房。前回なんとか討伐した魔女をぶちこむため冷ややかな金属製の床をテッドと魔女、そして何故か俺の3人で歩いていた。

「オメェなぁ。動機が「キレイなものを見たかった。」じゃなぁ。あんまり人様に迷惑かけんなよ」

「うふ、ごめんなさい、でも楽しかったでしょう?」

「楽しかねぇよ。そんな俺はお前にメロメロ。なんつってな!ガハハ!」

「お前の情緒はどうなってんだ…」

 死闘を繰り広げたばかりなのにもう打ち解けてやがる。この世界の住民は距離感がバグってるんじゃないか?すっからかんの独房たちをズカズカ通りすぎていくうちになにやら人の気配を感じた。

「おや?シャッチョサン!ようやくワターシのギターを返してくれるんですか!」

「だからいっつも言ってんだろ!俺は『社長さん』じゃなくて『所長さん』!」

「オゥ!それは失礼しました!で、ワタクシのギターは?」

 騒がしいな。普通こんなとこにいるのは荒くれ者どもの巣窟なんじゃないのかよ。いるのはボサボサに伸びた髪を生やした頭に派手な赤のダッセェバンダナを取っ付けたみすぼらしいオッサンただ一人だけだった。まったく合わない真っ白のスーツがいかにもコイツがワケアリだと物語っている。

「違ぇよ。今日はお前のお友達を連れてきてやったぜ。おら、入りな」

 俺ならこんなイカれたオッサンと同じ独房なんてまっぴらごめんだ。しかし、イカれた者同士引かれ合うのか、魔女は嫌がる素振りを見せずなんなら興味深そうにオッサンの顔面を覗き込んだ。

「あなたが私とこれから一緒に暮らすお友達ね?」

「これはこれは、お初にお目にかかります。ワタクシは『ノイマン・アルケイマー』と申します」

 胸に手を当て深々と礼をすると、魔女も嬉しそうに笑い、

「あら、ご丁寧にどうも。私は『ララ・ルミエラ』よろしくね」

「お近づきの印に一曲…おっと、ワターシのギターは無いんでした…」

 残念そうに肩をすくめるノイマンを見て、テッドも気まずそうに顎を搔くと溜め息をついて近くのギターを差し出す。

「しゃーねぇーなぁ。ほら、コイツやるから2人で大人しくしててくれ」

「ムゥッヒョォオオ!!ワターシのギターではありませんか!!では一曲歌わせていただきます!ララーー!!」

 それから始まったのは耳を塞ぎたくなるようなヒッデェ歌で、初めて聞く曲…まぁコイツの作詞作曲なんだろう。それでも音が外れているのがわかるし、歌詞だってもうヤバい。「君の両親にラリアットアンドアクセント」?意味不明。キ、キショイ~。隣で同じく地獄歌を聞いているテッドも顔をしかめている。このオッサンがなにしたか知らんが、コイツは独房に入れておいた方が世のため人のためであろう。

「フゥ、どうもありがとうございました。いかがでしたでしょうか?」

 息を切らせて満足そうに魔女へと感想を求める。俺なら顔面に向かって思いっきりドロップキックをかますところだろう。さよならオッサンおつかれさん。ところが、彼女は怒るどころか手を大きく叩いて賞賛した。

「素晴らしい!とっても面白いわ!何度でも聞いていたい!」

「やぁあっとワターシの曲の良さがわかる人が現れました!そうなのです。ワタクシの曲はスンバラシイのです!」

「うん、そうか。そりゃあよかった。ほらテッド行こうぜ。邪魔しちゃ悪い」

「ソ、ソウダナーハヤクイカナイトナー」

 機械的な動きで踵を返しその場から立ち去る。2人の姿が見えなくなった瞬間俺たちは全力ダッシュし始めた。そうでもしないと耳が腐っちまう。

 後ろではノイマンの絶叫とララの楽しそうな笑い声が悪夢のようにこだました。

「う、うわぁあああああ!?」

「うぉおおおおお!?」

 怖すぎる!これほどの恐怖はガキの頃に見た心霊番組以来だ。あまりの恐怖に男2人は情けない裏返った悲鳴を上げて、地下通路を走り抜けた。

 無限とも思える道のりを抜けていつものオフィスに出ると、俺たちは地下の出入り口を三重に施錠してずるずるとその場に座り込んだ。

「はぁ、はぁ、あんな場所二度とごめんだ…」

「それな」

 心臓のバクバクが収まりかけた頃、ミリーの元気そうな声が耳に入る。

「テッドさん、ショウさん!いいところに来ましたね!報酬金がやってきましたよー!」

 普段は雑音としか思えないミリーの声が今の俺たちにとって精神安定剤となった。

「あ、あぁそうか…ぉぉぅふ」

 楽しそうにジャラジャラ音がなる袋を振り回すミリーの後ろでは、見慣れない人物がベルトとなにやら話し込んでいた。変な声が出たのは決してセクシー姉ちゃんがいたからではなく、セクシーとは真逆のいかつい巨男がいたからである。

 制服を見るに同じ警察官なのはわかった。身長は間違いなく2メートルを越えていて、きっちり着こなした制服の上からでも山のように隆起する筋肉が自らの存在をアピールしていた。

「―おっと、戻ってきたかな?」

 ベルトと話していた巨男がこちらに気付き、ゆっくりと振り返る。視線が向いた瞬間、俺の背筋はノイマンとはまた違った意味で凍りついた。テッドの後ろに隠れようと思ったが、

「全員揃ったところで改めて礼を言おう。此度、我々が不在で対応できなかったカレイド・アビスでの調査、誠に感謝する。事情が事情なので報酬金には色を付けておいたぞ」

「ヒャッホーイ!やっぱ持つべきは太っ腹な上司だよな!」

 地響きのような重低音ボイスでありながら優しい印象を与える声色で俺たちに語りかけ、ペコリと頭を下げた。状況を整理していると、ベルトが俺の隣へやってきた。

「あの人は第一部隊警察署の所長さんだよ。まぁ早い話、この国の警察官でトップを張ってる人だね」

「ふーん、てっきり人造人間かと思ったぜ」

「ハハハ、まさか」

 ベルトと話に花を咲かせていると、代表さんは前へ歩みでて丸太のような腕を差し出した。

「君が新しくやってきたショウくんだね?私は『ツェナー・ブラウムス』だ。先々で同じ時間を過ごすこともあるだろう。よろしく頼む」

「ハッハイ、ヨロシクオネガイシマス」

 ビビってねぇし?ちょっと足元が気になって下しか見えないだけだし?だから後ろで笑うなお前ら!

「フッ、そんなに緊張しなくていい。私たちは志を同じくした仲間なんだ」

 そう言って俺の肩を優しく叩いて微笑んだ。悪い人では無いんだろうけどやっぱし怖い。ま、そのうち慣れるか。ツェナー所長は去り際にもう一度俺の背中を叩くと、体躯に見合わない静かな足音を立てて帰っていった。

「…ぶっは!我慢できねぇ!お前ビビりすぎだろ!ギャハハハハハ!!」

「なっなぁに言ってんだ!別にビビビビビってねぇし!」

「ハハハ!生まれたてのモンスターみたいだったね」

「でもでもショウさん、ツェナーさんに名前を覚えてもらえるなんて大大大出世ですよ!」

「うっうるへぇー!いっ今は報酬金だ報酬金!」

 そうそう、今はそんなしょうもないことを言っている場合では無い。なんてったって多額の報酬金があるからな。

「へぇへぇ、こんぐらいにしといてやるよ。んで、肝心の報酬金はいくらなんだ?」

「そうだねぇ…おお!これはすごいよ。ざっと数えて200万ゴールドだ」

「200万!?すごいですよこれは!しばらく仕事しなくてもいいじゃないですか!」

 200万…ッ!圧倒的…大金…ッ!これまで雀の涙程度の給料しか入っていない―まぁほとんど仕事してないのが理由だろうが―俺にとって、これは見たこともない巨万の富であった。

「よし、ここは男の山分けだ!お前ら、コイツを何に使う!言ってみろ!」

 テッドが腕を組み鼻を鳴らしながら仕切っていると、

「はいはいはーい!前から気になってた高いおやつを買いまーす!」

「ヨゥシ!俺にも分けろ、次!」

「僕はもちろんフィアンセの修理さ」

「あんま魔改造すんなよ、次!」

 さて、困ったぞ?金が無いとは言ったものの、特に欲しいものって無いなぁ。あ、そうだ。

「あ~俺は服かなぁ。こっちにきてからまともな服この制服しかねぇしな」

「普通!」

 えーえー、普通でいいですよ普通で。テメーのクソくだらねぇ金の使い方をするよりよっぽど有意義だね!

「それじゃあお前ら!思い思いの目標を掲げて、解散!!」

 まばたきするとオフィスにはもう俺しかいなかった。なんとも欲に忠実なヤツらだ。俺かて街の服屋へと歩みを進めているわけだが…。


「いらっしゃ~い♡」

 先に断っておこう、決してセクシーなお店ではない。まぁ吐息混じりでねっとりした喋り方をするムチムチお姉さんが対応してくれるので勘違いするかもしれないが、ここはれっきとした服屋である。

「ショウくんが1人で来るなんて珍しいわねぇ、何をお探し?」

「あ~そうだなぁ、普段からスッと着れるような軽めの服ってあります?」

「ちょっとまっててねぇ~」

 服で出来たジャングルの中へと潜っていくと、それはそれはすーんごい蛍光色な黄緑色の上下ジャージを持ってきた。申し訳程度の白で縁取られたジャージは今にも「買ってくれぇ~」と言い出しそうな年季を感じられた。こんな派手なジャージなんか誰も買いたがらないだろうが、俺の好きな色のうちに緑があってよかったな。

「これなんてどう?動きやすい服といえばこれよねぇ」

「一応聞いておきますが、何でこの色なんです?」

「う~ん、ショウくん似合うと思ってぇ~」

 そう言って店員さんはジャージを抱き締めくねくねしながら顔を恍惚とさせた。おかしいな、俺は服を買っているだけなのに何故だかイケナイことをしている気がする。

「まっまぁこれいいですね!これでお願いします」

「えぇ、次来るときはなるべくミリーちゃんを連れてきてねぇ?あの子ってすっごく可愛いじゃない?最近全然抱っこさせてくれないのよぉ~」

 目が怖い。服を買うのが好きなミリーだが、毎度毎度誰かしらを連れていくのはこういう理由だったのか…俺ならいくらでも抱っこさせてやるのに、なんて言葉を発する度胸なんて俺には無い。

「善処します…」

 度胸なんざこれから付ければいいさ。お会計を済ませてそそくさと退出しながらそう決意するのであった。

「さて、次はどこ行くかな?」

 服の入った袋を片手に持つとして、もう1つ空いた手に何か持っておきたい。買い食いでもすっかな。幸い商店街には様々なバリエーションの食い物が揃っていて、店の外へ出ると食い物の良い香りが俺の鼻腔を刺激し、自然と腹が減ってくる。

「肉、食うか」

 異世界といえばでっかい肉だよな。うん、きっとそうだ。思い立ったが吉日、ロマンを求め肉屋へ行くことにした。

 麺類、甘味ときて屋台からは香ばしいタレの焦げる香りが漂ってきた。そうそうこれこれ、こういうのでいいんだよ。吸い込まれるように屋台へ近付くと、

「おう兄ちゃん!どれ食ってくかい?つっても1種類しかねぇけどな!」

 そんなんでどうやって続けているのかいささか疑問だが、今俺の腹はこのおっちゃんの作る肉を求めている。

「ほらよ、一丁上がり!」

「うぉお!すっげぇうまそう!…でもおっちゃん、これ何の肉?」

「兄ちゃん。この世の中にはな、知らねぇ方が幸せなことってのがあるんだよ」

「食い物の正体は知っといた方が幸せに決まってんだろ!実際俺はお前が正体を明かさないせいで不安に駆られてんだよ!」

「今のところ俺の作った肉食って死んだヤツは1人もいねぇよ。ま、丸2日寝込んだヤツは両手じゃ足りねぇけどな!ナハハ!!」

「はぁクソ潰れちまえこんな店!」

 異世界に転生した時のためアドバイスをしてやろう。地球の常識なんてのは捨てちまえ。そんなもんクソの役にも立たねぇ。

「…クソ、うまいな」

 ジューシーでありながらさっぱりした肉の旨味を多すぎず少なすぎずの量のタレが引き立たせる。非の打ち所の無い完璧な肉が無性に腹立たしかった。最後の1口を噛み締めながら味わい飲み込むと、残った木の串を近くのゴミ箱へ捨てる。正体不明の肉という最大の不安要素はまだ飲み込めていないけどな。気が付けば辺りはすっかり赤色に染まり、人通りも心なしか少なく感じられた。

「腹一杯食ったし、目標の服も買った。帰るかぁ」

 俺にしちゃあ贅沢な1日を過ごせたことだろう。人知れず満足して歩行速度を緩める。まだ地下での恐怖はまだ頭の片隅に残っていたが、我が家のドアが見えてくる頃にはすっかり頭から消え失せていた。

「ただいまー」

「ムググ、ンググググ!」

 出迎えてくれたのは、大量のキラキラ光るお菓子のなかで口の周りをクリームだらけにしたミリーだった。

 なんだあのメタボディ、一瞬モンスターが入り込んでいるもんだと錯覚してしまった程だ。

「テッドとベルトは?」

「…うぷっ。テッドさんはまだギルドの辺りでお酒を飲んでると思いまふ。ベルトさんはずっと車の前でぶつぶつ言っていまふよ。ゲプ…」

「そうかよ」

 誰も嫌な気分にならない完璧な1日だ。よく「何気ない毎日が一番幸せなんですよ」と言うクサイセリフがあるが、今日はその意見に賛同する。今俺は最高に幸せだ。――そう思った次の瞬間だった。

(ゴロゴロゴロゴロ……ッ!!)

「ハァッ!」

 直後、俺の腹に激痛が走った。と同時に浮かんだのはさっきのおっちゃんの顔。

『丸2日寝込んだヤツは両手じゃ足りねぇけどな!…足りねぇけどな!……足りねぇけどな!』

「あんのクソジジィイーー!」

 それから丸2日、買った服に袖を通すこともなかった。ただひたすらにトイレの守護神として個室に籠り、便器と熱い二人三脚の日々を過ごすことになったのは言うまでもないだろう。



 ~続く~









ご一読ありがとうございます!

大金を手にしてウッキウキだったショウくんですが、まさかのトイレの守護神エンド…。異世界の謎肉恐るべしと言ったところでしょう(笑)。いつかショウくんには100パーセント笑える1日を過ごしてほしいものです。

ではまた来週~。

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