祝!!戦闘!漆黒の魔女!?
第6層はミリーのライトが無ければなにも見えない程の暗闇だったのが、第7層は少し進めばあちこちが空間の歪みから放たれる光により眩しかった。空気が変わった。第7層へと踏み入れた瞬間、そのような感想がよぎった。これはなんだ?寒気?それは目の前に広がるガラスが割れたように歪む空間のせいなのか、それとも――
「あら、お客様かしら?こんなに深いところまで来れるなんて、すごいわねぇ」
歪みに歪んだ空間の中から姿を現したのは、一人の女性だった。夜をそのまま切り取ったような黒髪のロングヘア。フリルやレースがふんだんにあしらわれた真っ黒なドレス。あーあれだ、俺の記憶が間違いなければ『ゴスロリ』なんて言われるヤツを着こなした、お人形さんのように整った容姿の~魔法使いだろう。多分。
胸の前で上品に手を組み合わせ、うっとりとこちらを見つめる彼女の瞳は、怪しいアメジスト色に輝いていた。その瞳にはなにか残酷な意志が宿っており、目が合うと背筋に氷水を流されたような感覚に襲われる。
「ちょっとテッドさん、あの人怖いんですけど」
「俺も、ベルトは?」
「うーん、情熱的な人じゃないか」
小声で囁き合い円陣を組み始める3人。絶対今することじゃないだろ。目の前のヤバ女に集中して俺を守ってくれ。思い届かず「でもなんか魅了されるなぁ」という能天気な言葉が聞こえる。
「キレイでしょう?ここはね、空間をギューっとねじって世界で一番キレイな場所にしていてね?何人かご招待してあげたの。」
頬を染めあらぬ方向を見上げる彼女の狂気っぷりに思わず一歩引いた。
「ここまで分かりやすいクロっているか?」
「ご丁寧に自白までしてくれるたぁ話が早ぇ。おいお嬢さん、何罪か知らんがとりあえず逮捕!死刑!」
「あら、警察さん?私と遊んでくれるの?」
くすくすと上品に笑う彼女が、ここの結晶と同じものを埋め込んだ杖をかざした瞬間、俺たちの周りの空間がバリバリと音を立てて歪みだした―。
俺以外の3人は冷静でいるが何故冷静でいられるのか俺には理解できない。
「おねーさーん!ここに一般人がいまぁーす!!」
このまま超人共の戦闘に巻き込まれ引き潰されることだけはごめんだ。這うようにして離れようと試みるも、部屋が狭いし出口もしっかり塞がれていた。
「ショウ、離れんなよ」
「ふっ、言われなくとも」
滑るような動作でテッドの後ろに隠れ、一息つくと辺りの様子を観察した。至るところに割れ目が生じ、この先では違った空間が怪しい光を放っていた。
「ミリー、コイツは触れていいやつか?」
「うむむむ、多分ダメなヤツですね。触れたとたんに身体がバラバラになっちゃいます」
「ひょぉお怖」
「それなら、スマートに済ませよう」
ここにきてからベルトの調子が良いな。おおかた報酬金で車の修理ができると浮かれているのだろう。剣を引き抜き弓を引くような体勢で低く構えた。テッドも続いて指を鳴らしている。
「戦闘開始、です、か。俺は戦えねぇからここで見守ってるぜ!」
背中に隠れたショウから情けない一言を片耳で聞き流しながら俺は口元に不敵な笑みを浮かべた。
「うっし、ミリーはショウを頼む。ベルト、ついてこれるかぁ?」
「はいな!」
「もちろんだよ」
最っ高じゃねぇか!まったく、つくづく頼りになる仲間だ。目の前にいる魔女ボコって帰ってパーティーとしゃれこもう。相変わらず完璧な人生設計。我ながら惚れ惚れする。
「ふふふ、受けきれるかしら?」
杖を振り彼女の周りに弾幕が現れ、ものすごいスピードで迫ってきた。たまに蹴り返しながら後ろへ下がると、隣を涼しい顔でベルトが剣を振り払い肩越しに、
「結構やるね。僕が球を弾くから、テッドくんは後押しを頼めるかい?」
「おうよ、一発デケェのかましたらぁ!」
合図も無しだが、2人で息を揃えて同時に踏み出す。飛んでくる球は全てベルトに任せ、避けること無くまっすぐ対象へ走った。
「まぁ、とってもお互いを信頼しているのね。素敵だわぁ」
「そりゃあどうも!おら、死んどけ…いや、おくたばりあそばせ!」
レディーに対して荒っぽい言葉を使うべきではない。本で読んだお嬢様雑誌で培った知識であくまで上品に拳を放つ。
(スカ☆)
捉えたと思ったが景気の良い空振り音を奏で俺の拳はあえなく虚空を殴った。どうやらあの魔女は周りにごまんとある時空の裂け目を通り、別の時空の裂け目にワープしたっぽい。その証拠に後ろから球を撃たれ、被弾する。
「楽しいでしょう?まだまだ遊んでいたい…ふふ」
「っつ~いってぇなぁ。加減しろっての」
一旦休憩入りまーす。距離をとってベルトと内緒話をする。
「大丈夫かい?」
「おう、でもよぉあのワープはうぜぇぞ。せっかく頑張って近付いたのに一瞬で離されちまう」
2人揃って頭がいたくなる程の弾幕を捌きながら考えた。そこで天才的な発想が俺の脳内を駆け巡った。
「そうだ!目には目を魔法には魔法だ!ミリー。行ってこぉい!」
「ふぇ!?あ、あ、はい!」
「ちょっとまてぇーい!俺の護衛はどーすんだ!?」
「んなもん俺がやったらぁ!やったねラッキー!」
「嫌ぁあ!こんなヤツに護衛なんてされたくなーい!」
頭を抱えもんどりをうってその場でうねうね暴れるショウの隣に座り込んで戦況を見守る。サポートはベルトがしてくれるし、俺の出る幕はないかな。このまま寝っ転がって鼻でもほじっていようそうしよう。
「ふぇえ…ベルトさん。私の攻撃が全然届かないんですけど…」
「可愛いわねぇ。ほら、もっとちょうだい?」
あ~?ミリーのしょっぼい球は魔女に当たる数秒前に向こうの球で相殺されてしまい、「てい!」「とう!」などと気合いの入った声をだし球を撃つミリーのメンタルは球と共に砕け散った。
「だぁクソらちがあかねぇ!術式解析してこのうざってぇ歪みを消せ!」
「わかりましたけど、この規模だと時間掛かっちゃいます!お二人で何とか時間を稼いでください!」
俺が言うやいなや前線から下がれることに喜ぶような笑顔を見せ速攻後ろに下がって宣言する。後でボッコボコにしてやっからな。しかしアイツの解析が無けりゃあどうにもならん。重い腰を上げ現場に戻ろうとしたら今度は俺の裾を握る手があった。
「待ってぇ俺どうなっちゃうの?」
「うっせぇなぁさっきまで嫌がってたじゃねぇか!」
「あれは気の迷いで出ちゃった言葉なんだよぉ!」
「シャダップ!無様にタップダンスでもしてろ!」
「チクショオォオオオ!!」
叫ぶショウを無視してもう一度ベルトと一緒に突撃する。今度はなるべく長引かせるように、かつミリーにヘイトが向かないようにという繊細な作業だ。遠くから「アキィイー!」、「ヒョイヤァア!」と小動物のような悲鳴が聞こえてくる。
「なんだ、避けれるじゃねぇか」
「感心している場合じゃないよ。なるべく早く終わらせよう」
「そうよぉ。早くしないとあのおちびちゃんが死んじゃうかもしれないわよ?」
確かに万が一って言葉があるように、モタモタしてたらショウがうっかり被弾してポックリ逝っちまうかもしれん。
「ミリー!後どんくらーい?」
「んー多分もうちょっとー!」
「適当こいてんじゃねぇーえ!!」
「はは、それは結構なことだ」
んだよ多分もうちょっとって!『多分』と『もうちょっと』という不確定要素盛り沢山の単語2つのダブルパンチが俺の横腹を殴打した。てかベルトもなに笑ってやがんだ!
「うふふ、さっきから私の術式を組んでるみたいだけど、術式を組んでいるのはあの子だけじゃないのよ?」
「な、ナニィ!?」
「おっと」
身体に重りを付けられたような感覚に襲われ、2人揃って地面に屈した。
「なんだぁこれ!?動けねぇ!ベルト、そっちは?」
「ぼ、僕もだ。マズいかもね」
爽やかでいるがその表情には苦悶の色が見えた。
「エッエェエ!?2人とも?どうしちゃったんですかぁ!?守ってくれる人いないとヤバいんですけど!!今動けないんですけどぉお!!」
慌てふためいてその場で足踏みするミリーに向かって無情にも溜めモーションに入る魔女の杖の先は今までの非にならないほど強く光る球が出来始めていた。すまん、ミリー。さよならバイバイ。心のなかでミリーに敬礼していると、
「テッド!依頼書持ってるだろ?よこせ!」
「え、あぁ右ポケットん中だ。でもどうすんだ?」
有無を言わさず俺のポケットからくしゃくしゃになった依頼書を取り出すと俺から見ても早いと思う速度で折り始めた。
「よっしゃできた!うぉおおいそこの魔女!これを見ろぉお!」
「ん?なぁに?」
視線が向いたのを確認するとショウが依頼書で出来た『紙飛行機』をぶん投げた。
「これが俺の!『ブレイブバーダースズメ2号』だぁああああ!!」
ただの紙飛行機を意気揚々と飛ばしたショウはどこかやけくそになっている様子だったが、時間稼ぎには十分。
「間に合いました!『スペル・ブレイカー』!」
唱えなくても良い魔法名を唱える癖はなんとかしてほしい。ミリーの手から淡い光が放たれ、忌々しい空間のねじれが無くなっていき、俺たちを悩ませていたとんでも重力も消えていた。
「あ……」
魔女は呆気にとられ呆然と口を開けている。チャンス!
「テメェの敗因はぁ!俺が強かったことだぁあ!!」
逃がさん!全身全霊を込めた―でも殺さない程度に―一撃をぶちかまし、鈍い音が空間いっぱいに鳴り響いた。
「あぁ、楽しかった…」
そう呟き魔女はぐったりとその場に倒れた。息はある。気絶したみたいだ。すぐに手錠をすると息をいっぱい吸い込んで、
「サイコパスヤバ魔女。討伐かんりょー!!」
「皆、お疲れ様」
「うわぁーい!」
俺たちは肩を組んで笑いあった。
助かった…?最初に感じたのは倒したことによる爽快感よりも自分の命があることの安堵だった。
「よぉショウ、やるじゃねぇか!」
「あ…あぁ」
正直俺が最後に投げた紙飛行機はミリーが言ったように、俺が唯一使えるレベルの紙飛行機をちょっと遠くにとばす魔法を使ったわけではないまったくのシラフ状態だった。あれは賭けだった。彼女のこれまでの言動でどこかわがままな子供っぽい感情が見られた。ガキが喜ぶもので思い浮かんだのは直近で耳にしていた紙飛行機だけだった。
「危なかったよ、君の咄嗟の判断がミリーを助けたんだ」
豪快に、あるいは爽やかに左右から褒め言葉が覆い被さる。
「まぁ?俺の天才的な閃きで?どうにかなっちゃったみたいな?」
ふんぞり返って威張っていると横からミリーが爆弾を落とす発言をする。
「あ、でもショウさん。実はショウさんが『なんとかかんとかスズメ号』?を投げる3秒くらい前にもう解析が終わってたんです。魔法をなんて叫ぼうか迷ってたら時間掛かっちゃいました!えへへ」
そう言って頭を搔きながら舌を出した。
「は?じゃあ俺の機転は?」
「完全に余興だな。お疲れショウ」
なんだよそれぇ…。いい気分だったのに水を差され落胆し、座り込む。
「どちらにせよ、お手柄だよショウくん」
気休め程度の声を俺に掛けると、
「さて」
ベルトが倒れている魔女を一瞥すると、俺たちに微笑んだ。
「目的は達成したし、ここもしばらくは安定するだろうね。そろそろ帰ろう。我が家に」
「キレイに締めようとすんな」
「あはは…だめかい?」
なんというか、危険な任務だとわかっていたけどここまでとは思わなかった。とんだとばっちりを受けたみたいだ。どうして俺はこんなに運が悪いんだろう。
帰り道はビックリする程静かで、第1層まで戻ると住民たちから歓声が上がった。行方不明になった人は魔女を倒したのと同時に裂け目から帰ってきたみたいだし、結果オーライか…。大破したと言われても文句の言えない車の前まで帰ってくると、まず言うことがあるだろう。
「んで、4人乗ってクソ狭いのに5人乗れんのか?」
「しゃあねぇ。車の天井に張り付けようぜ」
「お前結構容赦無ぇところがあるよな」
「皆さん早く早く!たくさんの報酬金が私たちを待っています!」
「そうだね。君ももうすぐキレイになるからね。あっ今もとってもキレイだよ」
甘く囁きボンネットを撫で回す変態を運転席へ促し、慣れ親しんだロードリーの街へと帰還し始めた。
帰り道、またモンスターに襲われながら――。
~続く~
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
今回はいよいよカレイド・アビス完全攻略編でした!まさかの黒幕登場に私自身ドキドキさせられた所存でございます(笑)。
次回は念願の報酬金を頂きます。かなりの割合がベルト君の車に掛けられるでしょうが、有意義なお金の使い方をしてほしいものです。次回もお楽しみに!
ではまた来週~。




