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祝!!出張!カレイド・アビス!?

 どうも、俺です。ショウです。みなさんは「格差」なる言葉を知っているでしょうか?俺はその「格差」を今日、ガツンと感じることとなった。

「あぁーはいはい、そんな感じね。おっけー、んじゃ頑張って~。うんじゃまたな」

 電話から伸びる糸を指でくるくる回しながら適当な相づちを打つテッド。あらかた終わったのか、受話器を置くなりこちらへ振り返りふんぞり返った。

「ふはははは!やったぞお前ら!俺たちの実力が認められて出張の依頼が来たぞ!」

「え!?ホントですか?どこ?どこなんですか?」

 ミリーはいつもの調子でテッドの周りを飛び回っているが俺は引っ掛かるところがあった。「実力が認められて」?んふふ、んなわけあるかバカ。

「んで?実際何て言われたんだ?」

「特別にマネしながらやってやるよ。」

 そう言って渋い顔を作るとこれまた渋い声で話し出した。

「現在我々第一、第二部隊は隣国からお越しになる王族のボディーガードとして手が離せない状況にある。一分の隙も認められない極秘任務だ。今頼れるのが君たち第三部隊しかいないんだ。管轄外なのは重々承知で頼む。すまないが『カレイド・アビス』で現在調査して欲しいことがあるので至急向かって欲しい」

「そんだけ?」

「そんだけ」

「………」

 なるほど、その第一、第二部隊の野郎はお偉いさんの護衛というなんともありがたーいお仕事をしていて、余った俺たちは手が回らん仕事を押し付けられた訳だ。──いや、百歩譲って押し付けられたのはいい。下っ端だしな。だが問題は、その送り先だ。俺はテッドのデスクに放り出されていた依頼書へと目を落とす。そこには、およそこの世のものとは思えない街の概要が書かれていた。

『カレイド・アビス』。地上が過酷すぎるために地下に作られた、万華鏡のように光り輝く迷宮都市。そこまではいい。オシャレで幻想的で結構なことだ。だが、その後に続く説明が頭おかしい。曰く、「重力反転エリア多数」「上下の概念が消滅しています」「狂暴で厄介なモンスター多数」──。

 ふざけんな。なんでちょっとよその街に行くのに、命がけでアクロバティックな警察業務をしなきゃならないんだ!

「おいテッド、ちょっとその濁りきった眼球でこの書類を見てみろ。どこをどう解釈したら『実力が認められた』になるんだよ。完全に『あいつらならバカだから、あの重力イカれ都市に放り込んでも馴染むだろ』っていう押し付けだろうが!!」

「まぁまぁショウさん、そんなにピリピリしてたっていいこと無いですよ?ほら、私のおやつ分けてあげますからそれで落ち着いてください」

 かじったあとのある菓子パンを差し出されたので七割程残っていたのを全部たいらげ残った袋を丁寧に畳んで返した。涙目になり襲いかかってくるのをいなしながら、

「そういやベルトは?」

「アイツならガレージで出張の準備中だぜ」

 ガレージ、てことはこの世界にも車があるみたいだ。てっきり馬車で行くもんかと思ってたが、正直馬車で行きたかったなぁ。

「俺、馬車に乗りたい気分なんだが」

「かぁー!俺たちみたいなジョウキュー国民は馬車なんてものには乗らずに、ハイテク技術にあやかるんだなぁ。」

 腰に手を当て首を傾けながら肩をすくめて見せた。

「はいはい、やっぱなんでもいいからガレージ行こうぜ。早くこの呪縛から逃れたい。」

「…それもそうか」

 俺にしがみつき唸り声をあげる少女を見て苦笑しながらテッドは歩き始めた。


 メタリックで無機質な通路をテッド先頭に、まだ少しぷんぷん怒っているミリーと俺が並んで後ろをついていく。テッドは気分良く鼻唄を歌っているが俺はというと隣の猛獣をなだめるのに必死だった。

「なぁ、悪かったって。今度買ってきてやるから」

「むぅ~。食べ物の恨みは怖いんですよぅ?それだけじゃ足りません。私が満足するまでおんぶしてください。」

 なんとも幼稚な要求だ。お嬢ちゃん精神年齢いくつ?赤ちゃん言葉で喋った方がいいでちゅか?街に振り回されるよかよっぽどましなので俺は腰を下ろして小さな身体を受け止めた。悲しいくらい胸の感触が無い…。(かぐわ)しい香りがミリーから漂っているし、太ももの柔らかで滑らかな感触を感じるが、な~んか全然ドキドキしない。テッドも「世間一般では美人で可愛いと言われているかもしらんが、俺は何故かアイツをそういう目で見れねぇ」と言っていたのでこの謎が解明されることは無いだろう。

「わぁ~!これが高身長の世界なんですね!」

 俺身長167センチかそこらなんですけど…。目測ではあるがミリーは150センチあるかどうか、コイツから見りゃ高身長か。

「うし、着いたぜ。」

 鉄でできた重苦しい扉を開けるとベルトのスマイルが俺たちを出迎えた。

「やぁ、ショウ君とは初めて会うことになるかな?これが僕のフィアンセさ。」

 やんごとない動作で後ろへ下がりながら道を開けるとそこにはスーパーとかにあるガキが乗るような黄色いちっせぇ車があった。ところどころへっこんでるし黒ずんでいる。なんかどっかの怪盗が乗ってそうだな、なんてツッコミは伝わらないのでやめておく。

「ベルト、わりかし身長の低い俺たちは大丈夫だと思うがお前は狭ぇだろ。」

「なに言ってるんだい?この子と僕は一心同体。バッチリさ」

 爽やかに前髪をかきあげるイケメンは自信満々に宣言した。バッチリなわけあるか!んだこのちゃっちー車は!そもそも車と呼べるのかすら怪しいぞ!俺の頭で様々な言葉がよぎった。

「よっしゃっ!野郎共、乗車だ乗車ァ!」

 荒っぽく助手席に身体をねじ込むと同時に車が悲鳴を上げる。おい、フィアンセが泣いてるぞ。

「ショウさんショウさん。私たちは後ろの席ですね!」

 俺の肩をバシバシ叩いて車の後方を指差す。なんでそんなに楽しそうなんだ。あとそろそろ降りてくれ。渋々中へ入ってみたもののまぁ狭く、ちょっと頭を下げなければ納まらなかった。

「おい、ここでお前を降ろさねぇと乗れねぇんだが?」

「しょうがないですねぇ。おんぶは少しの間お預けです。」

 残念そうにうなだれて俺から降りるとスッポリ車に納まった。このときばかりは身長が低い方がよかったなぁとしんみり感じた。

「さぁみんな、シートベルトは付けたかい?それじゃあ行こうか。」

 愛おしそうにハンドルを握り鍵を回す。景気のよいエンジン音がするかと思えばすぐにプスプスと黒い煙を吐き出し始めた。

「だっ大丈夫かよこれ?爆発したりしねぇのか?」

「ふふ、この子は大人しい子だからね。大丈夫だよ。」

 さっきからなんだその人形に話しかけるおままごと的なスタンスは。冗談はこのボロ車だけにしてくれ。心配事が後をたたないまま、無情にも車は走り出した。



 なんだかんだ言ったものの、のどかな道のりを走る車に乗るのは悪くなかった。鼻唄を歌うベルトと豪快にイビキをかいているテッドという状況がしばらく続き、辺りの景色が岩だらけになり「そろそろ目的地だね。」とベルトが言い出した頃。

「なんか、崖の方から聞こえねぇ?」

 というのも両側が崖になっておりその間を通っている訳なのだが、両サイドからなにやら音が聞こえた。まるで生き物がうごめいているような…。

(ガコォォン!!)

 天井からとんでもない轟音が聞こえ見上げるとそれはそれは見事にへっこんでいた。

「う、うわぁあああ!僕のフィアンセがーー!」

 珍しく絶叫するベルト、よほどショックなのだろう。

「テ、テッド君!早く起きて!僕のフィアンセを守ってくれ!」

「んが?なんだよベルトォ。」

「くっ!多分この辺でこういうことをしてくるのは『グラビティラット』だと思う。」

 またイカれたモンスターか?にしたってグラビティラットか、おおそれた名前してやがる。ラットって言うくらいだからネズミ系モンスターなのだろう。

「俺の出番かぁ!やったりましょかい。」

 窓から身体を出して曲芸じみた動きで天井まで登る。

「テメェか!」

 ガチンと金属の削れるような音がしたかと思えばフロントガラスに天井をへこませた犯人が落ちてきた。フォルムはネズミそのものだが、目が怪しく光っており、身体はいかにも固そうな毛で覆われ、光を反射して光沢を放っている。

「やっぱりだ!テッド君!コイツらは自分に掛かる重力を自在に変えて来るから気を付けて!」

 先程の質量攻撃は高速で落下してきたのが原因だったのか。しっかし重力を変えて襲いかかるだなんてぶっ飛んだモンスターだ。大変不本意ながら重力がイカれてるカレイド・アビスに近付いているという事実を認識させられた。

「ッシャア!かかってこいドブネズミどもぉ!」

 気付けば崖の上はおびただしい数のネズミで覆われていた。俺がネズミ嫌いじゃなくて心底よかった。向かってくるネズミを次々と弾き飛ばす度パコォン!ベシィィン!とコミカルな音が鳴る。いい感じと思ったが、テッドが踏ん張る度だんだん天井が下がってきていることが判明する。

「待てテッド!お前が力むせいで天井が下がってきてるんだが!もっと優しく出来ねぇのか!?」

「無茶言ってんじゃねぇ!精一杯やってらぁ!そうじゃなかったら今頃この辺クレーターだらけだぜ!」

 クソ!どうにかならねぇか?ベルトはずっと魂の抜けたような青い顔をしていて放心状態だし使い物にならない。

「そうだ!ミリー、防御魔法を展開してくれ!」

 そうそう、この世には地球とは違う魔法なんていう便利な代物があったんだった。結界を張ればモーマンタイ…だと安心した…のだが…。

「くー、すぴぃー。」

「んぐぅ~コイツゥゥウウウ!!!?なんでこんな状況で眠れるんだ!起きろ!起きて結界張れ!おい!うぉーい!?」

「うぇへへ~とってもおいしぃれす~。」

 よだれをたらしながら眠るミリーを揺らしたりひっぱたいたりしたんだがなにをしても彼女が起きることはなかった。

「チクショウ!」

 ミリーを座席に投げ飛ばし頭を抱えた。どうする?この状況を打破するには…。

「おいベルト!このままだったらお前のフィアンセが中古車になっちまうぞ!」

「僕の…フィアンセが…中古車…?」

 すぅっと目に漆黒の光が宿る。

「そんなこと、僕が絶対にさせない!」

 器用に狭い車内で剣を抜きどうやったのか半径15メートルくらいにいるネズミを全て切り刻み思いっきりアクセルを踏み込んだ。

「え!?急に!?うわっ!どわぁあぁあああ!?」

 ハムスターのように車上から転げ落ちたテッドを無視して車はぐんぐん進んでいく。

「ちょちょ!テッド置いてってるって!」

「そんなことより僕のフィアンセの方が大事だ!」

 苦楽を共にしてきたんじゃないのか?あっさり見捨てられたテッドに、合掌。


 きしむ車体に鞭打ってなんとか目的地であるカレイド・アビスの入り口にたどり着き、しばらくまっているとあちこちボロボロになったテッドが茂みからノソノソと出てきた。

「あー…ごめんねテッド君。別に見捨てるつもりはなかったんだ。」

 申し訳なさそうに両手の人差し指をちょんちょんしているベルトに身体を向けると、

「……さん」

「え?なんだい?」

「ユルザン!!」

 その瞳は赤く光っており目の前の敵を抹殺するという意思をガンガン放っていた。完璧な体勢でヘッドロックをかまし、テッドの脇の下でベルトが「ごめんよぉ、許してよぉ」と弱々しく呟く。

「お前のせいだからな。」

「うぇ?なんでですか?」

 俺たちが死ぬ思いで戦っていたなか1人気持ち良く眠っていた戦犯は悪びれる素振りも見せない。コイツこそヘッドロックを喰らうべきだ。

 まだスタートラインにしか立っていないのにもう俺たち(1人を除く)は満身創痍だった。

「……不安だ」

 空を仰いで1人呟き、俺はこれから迎える地獄に想いを馳せた。



 ~続く~









ここまで読んでいただきありがとうございます!

実は今回のお話では、馬車で移動する予定だったのですが、気付いたらベルト君のフィアンセに乗せられてしまいました(笑)。

いよいよ次回はカレイド・アビスに乗り込み事件を解決します!あってないような週一回のパトロール以外では初めてのお仕事になるショウ君。無事に生きて帰れるのでしょうか?次回もお楽しみに!

それでは、また来週~。

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