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祝!!討伐!超巨大モンスター!?

 思えば俺が異世界に来てからしばらく経った。これまでのことを振り替えって思うことがある。

「この世界のモンスター、デカすぎね?」

 今まで出会ったモンスターのほとんどが規格外のサイズで、毎度のごとくチビってしまう羽目になった。しかし聞くところによると、あれでもまだ小さい部類のようで、山のようなモンスターもいれば、大陸レベルにデカイモンスターもいるって話だ。狂っているとしか言いようがないここの生態系に舌打ちしつつ、俺はようやく事務仕事に一段落ついたベルトと草原へ散歩に行っていた。

 ここへはもう二度と行かないと決意していたのだが、テッドの独り言が俺を突き動かした。「これは俺の独り言なんだけどなぁ?東っ側の草原にはたまーにすーーんげぇ美人な妖精が出るんだぜ~?」そんな口車に乗せられホイホイ来てしまったが後悔なんてさらさらしていない。

 過去のことをフラッシュバックさせながら呟くと、ベルトが天才的な閃きをしたような顔をして話しかけてくる。

「う~ん、そうだ!じゃあ僕がその山クラスのモンスターのとこまで案内してあげるよ。」

「いらないお気遣いをどーもありがとう!ようやくできた新人を早々に死なせたいならえぇどうぞ!」

 ベルトの冗談はよくわからないものばかりで、この会話内容とバッチリ周波数を合わせられるテッドはどんなギャグセンスをしているのだろうかといつも苦悩している。冗談…だよね?

「ま、案内するって言ってももう到着してるんだけどね。」

「ん~?」

 唐突すぎる発言に俺の脳内の処理が随分遅れてしまった。もう到着してるだって?山クラスのモンスターなんていったらどんなに遠くからでも目視できるだろ?俺の目がおかしくなければ辺りはのどかな草原で、そこには綺麗に咲いたお花くらいしかなかった。…まてよ、…もう着いている?てことは…。ハハ、まさかな。そのまさかだった。なにを血迷ったか、ベルトが腰に装備していた剣を引き抜くとズダァン!と地面に突き立てた。暫くするととてつもない地震が俺たちを襲った。

「うぉお!?なんだ!地震か!?」

「違うよショウ君。周りを見てごらん。」

 そう言われて辺りを見回すと、さっきまで見渡す限りの草原だったのが一面青空になっていた。恐る恐る下を見てみると、驚愕の事実を目の当たりにする。俺たちのお散歩コースはまさかの超巨大モンスターの頭上だったのだ。

「なんじゃこりゃあぁあー!!?」

「全体像を見てみようか。」

 有無を言わさず俺の腰に腕を回すとベルトはモンスターの頭からひも無しバンジーをしやがった。

「ぎぃいやぁあ!なにしてんだよお前!シヌシヌシヌシヌ!!」

「あはは、大丈夫だってショウ君。なにも心配いらないよ。」

 数百メートルから自由落下(しかも俺を抱えながら)したが、ベルトはあり得ない身軽さで優雅に着地した。

「あ、あれ?生きてる?イキテルー!」

「ほらね?大丈夫だっただろう?」

 にこやかに微笑んでくるベルトに微笑み返すと俺は優しい声でこう言った。

「二度とすんなよ。」

 改めてモンスターに目をやると今まで出会ったモンスターの何十倍というサイズ感に圧倒され、思わず卒倒しかけた。

「ギィイニャアアア!」

 空気を震わせ亀型のモンスターは雄叫びをあげた。うるせぇ!耳を塞いでも尚、鼓膜に直接叫んでるのではないかと言うほどの衝撃が俺のプリティな耳を襲った。

「あはははは、どうだい?すごいだろう!」

「えぇ?何だって?全然聞こえねぇ!!」

 耳鳴りの止まない俺の肩にポンと手を置いてきた。何事かと見上げるととんでもないことを口走る。

「そうだ!せっかくだから今日のご飯はこの子にしよう!『タイタン・トータス』の甲羅の裏からとれるお肉は極上の出汁がとれてね、とても高額で取引されているんだ。ちょうどよかった。今日テッド君が「今日俺はスープをがぶ飲みしたい気分だ!」なんて言ってたからね。いやぁ、よかったよかった。」

「お前イカれてんのか!そんなテッドのクソオーダーに答えるために山一つ消滅させようってのか!?」

 おそらく彼の「料理長魂」に火が付いてしまったのだろう。俺の絶叫なんて風の噂ほども気にしていない様子で全く動作を止めること無く剣に手を添えた次の瞬間――。

(リィィイインッ!)

 心地のよい澄んだ金属音が響き渡り、ベルトが振り替える。

「おい、ベルト?なにこっち見てんだよ。早くアイツをどうにかしねぇとお前は大丈夫かもしれんが、俺がどうにかなっちまうんだが。」

 そう突っ込んでいる俺の声は、ベルトの背後からの大崩落で掻き消された。

(ドガガガガガシャアアン!!)

「ギガャォオウ!?」というモンスターの悲鳴すら途中でぶつ切りになるほどの神速で切られたらしく、神話級のモンスターは超巨大な肉塊として崩れ落ちていく。俺の方へ爽やかスマイルを向ける背景では、そんな地獄絵図が繰り広げられていた。完全に度肝を抜かれ、魂の抜けた声で話しかける。

「…なぁ、ベルト。」

「どうしたんだい?ショウ君。」

「今度テッドが「焼き鳥が食いたい。」何て言ったらフェニックスでも絶滅させる気か?」

 ベルトは「まさか」と楽しそうに笑うだけであったが、実際テッドの要望でこんな事態になっているのでこれからテッドには考えて発言してもらわなくてはならない。ある程度自分のなかで整理がつき、至極当然の疑問を投げ掛ける。

「それで、この大量の肉はどうすんだ?俺たちだけじゃ食いきれねぇと思うけど。」

「そうだね、街のみんなにも分けてあげようか。」

 ベルトがそう言ってから、事態はさらに俺の常識を置き去りにして加速していった。

 結論から言うと、山クラスの肉塊は、街の冒険者ギルドや職人たちが総出で解体・運搬することになった。街の門を潜る際、巨大すぎる肉のせいでちょっとした渋滞が発生しており、住民もゾロゾロ出てきたが、心配する様子を微塵も感じさせなかった。それどころか「ベルトの旦那が土産を持ってきてくれたぞ!」やら「祭りだ祭りだぁ!」などと口々に笑い合っている。あーあ、常識があるのは俺だけで、どいつもこいつも頭のネジが吹き飛んでる。広場にはタイタン・トータスの甲羅の一部を使用した巨大な鍋が設置され、残った甲羅は全員分の皿として利用された。

「ガーーッハッハッハ!!見ろよショウ、俺の夢が叶ったぜ!」

 甲羅の皿でもかなりのデカさだが、それでは飽き足らずバケツを抱えている。豪快に笑うと俺の背中をぶっ叩いてきた衝撃で背骨が折れるところだった。

「お前の軽い一言で大自然の一部が消滅したんだよ!味わって飲め…いや、浴びるように飲め!」

「おうよ!待ってろぉ、『無限の胃袋』テッド様、いざ行かん!」

 ガバガバスープを飲み干しながら更なるおかわりを求めて猛進していった。全く悪びれる素振りのみせないテッドに頭を悩ませながら俺は配られたスープに恐る恐る口をつける。

「…美味っ…なんだこれ、濃厚なのに後味が上品だっ!」

「だろう?甲羅の裏肉はじっくり煮込むことで旨味が溶け出すんだ。ショウ君の口に合ってよかったよ。」

 いつの間にかコックコートに着替えたベルトが満足そうに微笑んでいる。周辺では肉を焼き酒を酌み交わし、楽器を鳴らして躍り回るというお祭り騒ぎが最高潮を迎えていた。さっきまで死にかけていたことなど忘れ、ショウも気がつけば二杯目のスープをおかわりしていた。異世界の生態系には未だに恐怖しかないが、この美味い飯と賑やかな空気だけは、悪くないかもな。

「そーいや妖精ちゃんに会えなかったなぁ…。」

 名残惜しそうに呟くと、

「どうしたんだい?この辺りに妖精なんて出ないけど…。」

 なんだって?いない?てことは俺は騙されたってことか?酔いつぶれて気分のよくなっているテッドに歩み寄ると乱暴に肩を叩いて問い詰める。

「ヴォイ、テッド!ここら辺に妖精ちゃんなんざいねぇみてぇじゃねぇか!騙しやがったのか!?」

 一瞬なにを言われたのか解わからないような反応をみせたが、直ぐに顔をニヤリと歪めた。

「なに真に受けちゃってんのぉショウ君?君が引きこもりになっちゃってたからこうでもしないとダメだったんだよぉ。許してチョ♡」

「クソォ!!」

 まんまとしてやられた訳だ。絶え間なく沸き上がる怒りを堪えているとテッドが不吉なことを言い出した。

「いやぁ~何か焼き鳥が食いてぇ気分だなぁ。」

 ピリ――。空気が変わった。

「へぇ、テッド君は焼き鳥が食べたい気分なんだね。」

 料理をしている手を止めベルトの視線は遥か彼方の夜空へ向けられる。

「マテマテマテマテマテマテマテマテ!!ってかミリーはどこだ!コイツを止めるのを手伝ってくれ!」

 藁にもすがる思いで名を呼ぶと「え~?呼びましたぁ?」と人混みの中からフラフラとミリーが出てきた。顔は真っ赤に染まり完璧に酔っ払っている。だぁクソ!コイツも使えねぇ!ベルトの腰を掴んだままズルズルと引きずられ、街の外へと連れ去られて行く。

「誰かぁ…何とかしてくれよぉお~!」

 ベルトを説得するまで丸々三時間はかかった。

「フェニックスは焼き鳥にしても美味しくない」「そもそも鶏じゃない」「絶滅したら生態系がヤバい」と、ありとあらゆる理屈を喉が枯れるまでこねくり回し、ようやくベルトが剣から手を離してくれたときには、東の空がうっすらと白み始めていた。広場に戻ると、そこにはスープのプールを綺麗に飲み干して爆睡しているテッドと、空の酒樽を枕にして幸せそうにイビキをかいているミリーの姿があった。……こいつら、絶対に許さん。死にかけるような大冒険も、規格外のモンスターも、未だに心臓に悪すぎて慣れる気配は微塵もない。おまけに身内のネジはどいつもこいつも吹き飛んでいる。秩序を守るための警察官ではあるが、俺の場合どうやら世界を守るため働くことになるらしい。朝日に照らされた甲羅を見ながら俺は深いため息を一つ吐いた。



 ~続く~





ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

今回は「この世界の生態系イカれてる!」というお話でした。私の癖が超巨大生物なのでついついモンスターをデカくしがちになってしまいます(笑)。これからもデッカモンスターをどんどん登場させる予定ですので楽しみにしていただけると幸いです!

それでは、また来週~。

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