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祝!!雨降って地固まる!?

 連日晴れ続きだったのだが、今日は水入りバケツを引っくり返したかのような大雨。警察署内では消臭スプレーを狂ったように撃ちまくるテッドの姿があった。まだ前回の(にお)いがまだ残っており思わず顔をしかめる。

「テッド、ちゃんと風呂三回入ったのか?」

「入ったって!全然取れやがらねぇんだこの匂い。」

 後から聞いたが俺たちがまんまと(全部テッドのせいだが…)引っ掛かった激臭トラップの主は『臭草(くさくさ)』という名前らしい。「ダジャレかよ!」説明するベルトの肩をシバいてしまったが「そういう名前なんだから仕方ないじゃないか。」と一蹴されてしまった。

「デッドざん、ばだ臭いどれないんでずが?」

 鼻をつまみながらミリーが不満を主張する。晴れならまだしも、雨のせいで湿気が強く、余計に鼻を突いた。

「外にも出れないし臭いも気になるし…あ!良いのがあった!」

 そういってミリーがリビングの引き出しから(ほこり)を被った箱を取りだしてきた。ちょくちょくベルトと読み書きの勉強をしているものの、まだ習得レベルが低いせいであまりよく解らない。

「なんだそれ?」

「ずばり、『大迷宮サバイバル~失われた秘宝と底なしの罠~』です!」

 見た感じボードゲームのような気配を帯びた箱をブンブン振り回す。

「これは遊ぶときに結界が張られるボードゲームだから臭いなんてへっちゃらです!」

 何故遊ぶときに結界が必要なのかなにも説明してくれないんですね…。特にやることもないのでその胡散臭いボードゲームに参加することにした。

「そしたら俺、ベルトも呼んでくるぜ。」

 やめて、こんな危なそうなものを持った危ない人と二人きりにしないで!ふいにそんな言葉がよぎったが口にしてしまうとミリーがへこんでしまうことだろう。まだ危ないものと決まったわけでもないし販売されているものなら大した危険もあるまい。

「んで、こいつはどういうゲームなんだ?」

「ルールは簡単!皆さん一人一人が順番にダイスを振って先にゴールした人が勝ちです!」

 なるほど、()()()でいうスゴロク的なヤツか。それならルールに慣れずに置いてけぼり化することもなさそうだ。後ろでドアが開く音がして、テッドがベルトを連れて帰ってきた。

「やぁ、皆でボードゲームだってね。楽しそうじゃないか…っと、ふむふむ。」

「どうしたんだよ?」

「いいや、何でもないよ。」

 一瞬ベルトの顔が曇ったかと思えば今度は晴れ渡った顔になる。怪しい、怪しいぞこれは!これ以上聞いても同じ答えしか返ってこなさそうだし一旦この疑念は心にしまっておく。

「皆さん揃いましたね。では、ゲームスタートです!」

 手慣れた手付きでセッティングを済ませると「あ、私一番ね!」とガキ大将みたいなムーブを見せてダイスを振った。値は4。ボード一面にマスの効果が書かれており、これはいい勉強になりそうだ。

「えぇっとなになに…「一番最初の番を無理矢理奪ったバチが当たった。一マス戻る」~?そんなぁ…。」

「ガハハ!ザマァみそだなミリー。」

「むぅ、今度はショウさんの番ですね…。」

 シュンとしながら差し出されたダイスを受け取り、スムーズに振った。変に運がいいこともあって値は6。

「ほほ、これは俺が一番になるパターンってやつ…カナ!」

「おや。」

 ベルトが感嘆の声を漏らした。この意味が何だったのかを俺はすぐに味わうことになる。

「あぁっと?んー「爆発」?だけは読めるな。後はなんだ?てか爆発?バクハツー…。」

 シンキングタイムに突入していると俺の止まったマス目が光りだす。遊ぶときに結界が必要な理由、光りだすマス目、爆発の二文字。それらから導きだされる答えを理解するには十分だった。

「なぁああ!!」

 見事に爆風で吹き飛ばされ結界の壁にぶち当たる。なんて理不尽なんだ!様々な文句をかみ砕きうつ伏せのまま発言する。

「おい、なんだよこれは。」

「見たかよお前ら?いーい吹っ飛びっぷりだったなぁ!ギャハハハ!!」

「ふふ…ショウさん…大丈夫ですか?…ふふ。」

「クソ!大丈夫な訳あるか!ベルト!解ってて何も言わなかったな!」

 ガバッと起き上がるなりベルトを睨み付けるとおどけたように両手を挙げて首をフルフルと横に振った。

「んぐぅうコイツゥウウ!」

 唇を噛んでワナワナ体を振るわせからだ全身で怒りを表現した。

「馬鹿にしやがって!今に見てろ、圧勝してやる!一匹残らず!」

 そう息巻いたのも束の間、ある時はゴール手前で最初のマスまで飛ばされ、ある時は1~6の目を順番にださなければずーーっと休みというデバフまでくらい、極めつけは冤罪で処刑にされそもそもの参加権を剥奪されてしまった。

 そんなこんなでゲームが終わり、俺は約束された最下位という称号を授かると第一声を発した。

「クソゲーじゃねぇーか!!」

「ふっふっふ、ではショウさん。罰ゲームとして今日のご飯の買い出しをしてきてください。」

「はぁ!?あんな理不尽な殺されかた挙げ句にこの仕打ちかよ!ブラックだ!こんなのブラックだ!」

「うるせぇ!ガタガタ言ってねぇで行くんだよ!」

 乱暴にそう言い放つと傘も持たせずに外へ放り投げだされた。買ってこなければ入らせてはくれないだろう。決められた運命に逆らえず、俺はトボトボと商店街へ向かうのであった。


「クソッ!……クソッ!」

 あまりの惨めさに涙を流しながらミリーの丸い字で書かれた「お買い物表♡」を見ながら食材を買っていると、「もしかして、ショウさんですか?」と声をかけられた。

「あ、ども、ルナリアさん。」

 振り返るとそこには街のギルド嬢であるルナリアが同じく買い物に来ていた。普段着の彼女は、いつものビシッとした制服姿とは異なり、どこかプライベートな、それでいてどこか洗練された雰囲気をまとっていた。雨脚の強さに合わせてか、深いネイビーブルーのレインコートを羽織っており、黒っぽいタートルネックのニットがその下から覗き、彼女の肌の白さを際立たせている。制服の時の無機質なほど整えられた髪は、ラフなポニーテールにまとめられており、少し濡れた髪が頬にかかっているのが、いつもの彼女にはない色香を感じさせた。表情こそ固いものの、テッドのように悪い印象さえなければ優しいお姉さんだと言うのはベルトから聞いていた。確かにテッドと話しているときのような不機嫌さは感じられず、「会話をしましょう。」という暖かい声色だった。

「こんな大雨の時に買い出しですか。まぁ、さしずめテッドさんにでも無理矢理行かされたってところでしょう。」

「ぐすっ、そうなんです。皆ひどいんですよ!ボードゲームでボコボコにされた上罰ゲームでこんなどしゃ降りのなか買い出しに行けだなんて!」

 優しさにあてられ再び涙を流す。ルナリアさん、なんて優しいんだ!俺、ギルドの方に寝返ろうかな?物思いにふけっているとルナリアさんは俺のお買い物表を覗き込んで笑う。

「ふふ、この丸くて可愛らしい字はミリーさんのものですね。あっ!ここの文字間違えていますね。」

「うわ、マジだ…。」

 文字初心者の俺でも解るしょうもないミスに気付き苦笑する。ミリーの話をするルナリアさんはとても楽しそうだったので質問してみる。

「あの…ルナリアさん?ミリーのこと妹かなんかだと思ってません?」

 そういうとルナリアさんは目を見開くと同時に顔を赤くして思いっきりかぶりを振った。

「そっそんなことありません!小さくて仕草が可愛い、妹のような存在だなんて断じてッ!」

 普段から正しいこと間違っていることをハッキリさせてきたせいか、自分自身、嘘をつくのが苦手らしい。お手本のような動揺を見せるが変なとこが冷静で、俺が全くもって信じていないことを確認したのだろう。諦めたように肩を落とす。

「えぇそうです。ミリーさんの愛らしい姿や仕草が可愛くて少々肩入れしていることを認めます。ですがこの事は私たちだけの秘密にしてください。私のためにも…あなたのためにも…!」

「アッハイ…。」

 最後の「あなたのためにも」に含まれる意味がなんであるかは言わずとも解るだろう。恐怖に身震いしていると紙袋を差し出してくる。

「先程買ってきた肉まんです。風邪を引かれてはテッドさんを止める人が居なくなり私の業務が増えてしまいます。これでも食べて温まってください。」

 そっけなく渡しているように見えるが内に秘める思いやりのおかげでもう心は温まった。

「ルナリアさんッ!あなたはこの世でもっとも優しい女神様だ!」

「やっやめて下さい!ほら、早く買って帰った方がいいですよ!でっでは私はこれで!」

 そそくさと帰っていくルナリアさんの背中を見送り俺はもらった肉まんを頬張った。

「思ってたより話しやすい人かも?」

 はふはふと口に運んだ肉まんは、大雨で冷えきった身体に驚くほど優しく染み込んでいく。

「…いや、話しやすい人って言うより、ただのいい人だな。」

 普段の鉄面皮(てつめんぴ)の裏にある、不器用で温かい素顔を知れた気がするので今回の罰ゲームはプラマイプラであろう。うっかり口が滑って例の件を喋ったりしたらルナリアさんに処刑(物理)されてしまいそうなので、このことは口が裂けても言わないと心に誓いながら俺は買い出しを終えて帰ることにした。


 我が家のドア前に立つと中から声が聞こえてきた。

「ぅおい!ミリーテメェイカサマしてんだろ!」

「テッドさんだってさっき私の手札覗き見ようとしたじゃないですかぁ!」

 ルナリアさんとの楽しい時間はどこへやら、一気に現実に戻された気分だ。溜め息を吐きながらドアを開けると全員が遊んでいたカードゲームを放り投げ集まってきた。

「お、帰ってきたかショウ!お前がいない間にボロ勝ちしてやったぜ?」

「ショウさんお帰りなさい!…ん?この匂い肉まんでしょ!ズルいですショウさん!私の分は?…ないんですか!?あり得ないです!」

「お帰りショウ君、ご飯は僕が作るから後はゆっくりしてくれたまえ。何はともあれ、お疲れ様。」

 一度に四方八方からわぁわぁ声がかけられうんざりするが、これがいつもの俺たちだ。いつもクソみたいな思いしかしてないがなんだかんだで俺はこの場所を気に入っているらしい。散らばっているカードを拾い集めると俺は高々に宣言した。

「よぉしお前ら!ベルトが飯作るまでババ抜きで勝負だ!負けたやつは勝ったヤツにオカズ分けろよな!」

「待ってましたぁ!やんぞミリー!」

「負けませんよぉ!」

 そういってミリーが身を乗り出してまたしても一番にカードを引いた。勢いでチラッとカードが見えたが、引いたのはもちろんババ。

「見ろよショウ!また一番最初にいったからバチが当たったぜ?」

「アヒャヒャヒャヒャ!ざまぁみろだぜ!」

「なんでなのぉおお!!」

 爆発に冤罪で処刑、大雨のなかでの買い出し。ここの連中は理不尽ばかりだけど、こいつらと馬鹿をして笑い合っている時間が驚くほど愛おしい。台所から漂うベルトの料理のいい匂いがいつの間にか『臭草』の臭いを少しずつ上書きしていく。これまでのうっぷんを晴らすかのごとくカードを叩きつけながら、俺の居場所がここであることを、心の底から感謝した。



 ~続く~


ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!

今回の話ではボードゲームでボコボコにされた挙げ句に大雨のなか買い出しに行かされるというショウくんの踏んだり蹴ったりな一日を書きました。バッタリ出くわした鉄面皮のルナリアさんですが、彼女の意外に可愛い一面を見られてプラマイプラだと盛り返してくれてよかったです(笑)。

次回も騒がしいショウくんたちの日常をお届けしますので、楽しみにしていただけると幸いです。

ではまた次回会いましょう!また来週~。

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