第51話 ランキエール公爵領
完結編始めます。
完結編……といっても、ちょっと残った伏線回収と、人間関係のエピソードを紡いでいく、優しい短編集みたいにできたらなーって思っています。
よろしくお願いいたします。
※10/31追記
当初本当にちょっとした伏線回収ありの優しい短編集にしようとしていたんですが、書いているうちに断念しました。
痛いほど燦々と照る太陽の下、からっからに乾いた大地を、水位は下がっているが確かな流量を湛える大河がゆっくりと流れる。
それを、一隻の交易船がゆっくりと、櫂を漕ぎ、流れに逆らって遡上してきた。
漕いでいるのはランキエールの大男たち。船着き場が近づけば、今度は逆に漕いで船をちょうどよく減速させていく。
去年までロクに水運の概念さえ知らなかった者たちが、よくもまあここまで上達してくれたものだと思う。
その様子を眺めながら、河のほとりに用意した屋根付きのテーブルで紅茶を嗜みつつ、河港の利用券を融通してくれた伯爵と談笑をする。
「壮観、ですな」
「ええ。積み荷にも期待してよろしくってよ? 教会が吐いた財宝がこちらに回ってきたようですから」
「ほう!」
「巡礼祭に向けて、本格的に準備が進められそうです」
「それはそれは! 我らとしても悲願でございます!」
交易船はゆっくりと着き、厳重に停止させられると、大男たちが降りてきて梯子をかけ、たくさんの積み荷を降ろしていった。
私たちが輸出したのは水と食料。この干ばつ下では疑いようもなくもっとも貴重な物資。
反対に購入したのは、債券と文化資本である。硝子そのものや、ギルド内で秘匿されていたその加工技術も流出しつつあり、書物や設計図・人材が交易とともにこちらに流れてきている。
そして、前回の聖女の醜聞のおかげで教会の評判は地に落ち、教会が貯め込んでいた財宝のうち、かつて東部の内陸地域が保持していたものが、今なら購入し放題だった。
辺境の地域の貴族たちは、王宮との力関係が逆転した今、恭順する中で失ってしまったかつての誇りを取り戻せるのではないかとにわかに沸き立っている。
積み荷には、商人たちが我先にと殺到していた。商売の初めにはまんまとしてやられていたうちの男たちも今となっては慣れたもので、ちょいと強気な交渉をされれば腕っぷしをチラつかせ、話を振り出しに戻すくらいのことはやってのける。行先が決まっていないものについては周囲で市を開くことを許可してみたのだけれど、これがまあ大当たりだった。
作業が最終盤になって、そろそろ行こうかしら、と思って立ち上がった。
執事のエルドが傘を持ってやってきてくれて、屋根から傘へ日陰を移り、燦々と照る太陽の下、ゆっくりと歩いて、みんなを労いに行く。
その途中で、自然に横から声が上がった。
「奥さまのお成りだ! 者ども道を開けろ!」
──あら、そんな仰々しくしないでいいのに。
と思ったけれど、みんな爽やかに歓迎してくれるから、悪い気はしなくてそのままにさせておく。そして私は立ち止まって、扇子を取り出し、煽るように開く。
みんなの顔を見る。炎天下の中でも充実感をもって働く姿に心底感服して、私も大いにやりがいを感じながら、大音声を上げた。
「みなの衆ご苦労! たっぷり水を飲み、体を休めなさい!」
「「「「「ウィ! 奥さま!」」」」」
昨年、我らが当主、アルシオン侯爵が公爵への昇爵を賜り、私たちが住むこの地は晴れて公爵領と相成った。
早くからこの干ばつを予見して万全の準備を行い、伝統のドルナク公爵家との交流から交易すら開始した周到さが見事に実を結び、私たちは災害の中にあって繁栄への道を歩み始めている。リスヴァロン王国全体を救い得るほどの体制を立てきったその姿は、王国全体から敬意と畏怖を込めて、いつしかこう呼ばれるようになった。
──東の雄、ランキエール
と。





