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「ねえ、神父さん。神父さんは魔法使えるの?」
無邪気に俺は神父に問いかける。
ゆっくりと振り返った神父
「急にどうしたんだい、パウェル。またイジメにあったのかい?」
優しい声で聞き返されるも、少しピリッとした空気を感じる。
魔法がタブーなのか
それともイジメの方か?
いじめっ子の件は、家での籠城をする体裁を保つ為、親を始め各方面に周知済みだ。
「ううん。お外に出たくないから。家で本読んでたら魔法のことが書いてあったの」
ほぅ、と目を細める神父。
子供っぽく振る舞うのには最早抵抗はない。
正直、識字率が高くないこの世界で若干9歳の少年が本を読むというのは少し異常だ。
この世界の俺の親も完璧に読めるか怪しいレベルなのだから。
ちなみに、俺は準貴族のこのプレスコットでは6番目に権力があるサナス家生まれだ。
まぁ、そこそこだが、
文字が読めたとて不審ではない。
むしろ、
字が読めるようになるまで頑張ったのだからチヤホヤもして欲しい。
「パウェルは字が読めるのか。これは驚いたな。さて、魔法を使って一体何をしたいのだい?」
なるほど、
魔法は刃物に勝る武器になり得るのだから情報の取り扱い注意ってやつだな。
これは困った。
仕返ししたいって言ったら、まず教えてくれない。
この世界の人は道徳に非常に厳しい。
宗教で規範を設けて、はみ出たら粛正を受ける。
いじめっ子も受けたらしいが、子供なので1時間の説教でおしまいだったらしい。
仕返ししたら多分俺もこれを受ける。
良いさ、甘んじて受けてたとうという思いはある。
これが大人で社会に害を成すと認められたときには異端認定を受け処罰される。
清く正しくの根元を神で抑えているんだな。
「いいえ、違います。僕も神のお近づきを賜りたいのです。」
そう、これがベストアンサーだ。
宗派は数あれ、この國では神の考えや行動を理解し、技能向上していくことが、神さまに近付くことになり、規範の最終到達点としている。
悟りみたいなものだろうか。
俺は生前では宗教的なものに疎かった。
実家に仏壇さえないからな。
初詣の方はたまにしていた程度だ。
こちらの宗教では、
完全なる神を理想の存在として捉え、再現する努力を積んでいくのだという。
まぁ、素質があるものに神の方がが近付いてくるという解釈らしいが。
「パウェルはご加護が付いているように見受けられますね。」
神父は笑み、一度天井を仰ぎ見る。
教会天井は5つの折り上げがあり、装飾と絵画が施されている。その各階層は神話に出てくる最高神、神々、神使、天使、人に分かれて描いてある。
正直、水道電気ガスがそれほど充実していない社会で何故こんなにも美術だけが発展しているか不思議だ。
日本人的な考え方なのだろうが。
神父は顔を天井に向けたまま、
ポツリと聞いてきた。
「君が憧れる魔法はかつて、人が叡智を欲したときに神から与えられたものです。何かを得るということは、何かを捨てるという事です。例えば君でいえば、家を出なくてはなりません。貴族を辞めるという事でもいいでしょう。心の苦難を超えた先に神に近づく出発点があります。これにはまず教会の教えに付き添い、教会で生きなければなりませんが、その意味をわかりますか?」
あれっ
出家するようなになってきたけど。
これは人生の岐路に立っている感覚だ。
識字のアピールが逆にスカウトされる要因になってしまったのかな?
まあ、どうせこの世界ごと壊すのだからあまりこだわらないが。
少し現状を整理するとしよう。
俺は現在9歳で、本の知識を6年詰め込んだは良いが、魔法の発動の仕方の糸口を見つけられない。
だから神父に狙いをつけた。
神父に狙いを絞った理由は3つある。
1つ目は、神父になるには魔法習得が必須という文献を見たからだ。
この文献は、「職業別必須能力値及び適正者選別の手引き」というもので、この世界にも様々な職業があるが、適正者の選別のために設けた規定をまとめてある。
都市の外部に出る冒険者や、指導者の立場などの職業には魔法の規定がある。
これによると神父の中にも格があり、昇格により担当する地域やエリアの大きさ、権限が拡充されるそうだ。
この街プレスコットは東西南北中央の5つのエリアに分かれており、この教会のうちの1つ東方教会の長である神父が目の前にいるおじいちゃんだ。
だから魔法が使える事は間違いないだろう。
実際に使っているのを見たことあるし。
2つ目は、この世界の根本が宗教であり、それを土台に構築されているからだ。
この世界の人類史はまだ浅く600年程だ。
寿命が50歳ほどなので家系を20代も遡れば人類に祖先にたどり着く。
神話時代というやつだ。
この神話時代は文書で伝えられている。
エルレム國 創世記5章に人の起こりが書いてあるんだが、正統5族を起源としているとのことだ。
これに属する5大貴人が、首都エルレムで政治を行い民衆を従えている。
地方都市には各族の分家が封じられており、その分家の更に分家がサナス家だ。
5族はウタ族、ウテ族、サタ族、サテ族、ハア族であり、サナス家はサタ族に属している。
各教会には主に祀っている神はエルレムともう一柱いる。
それが各族の初代族長だ。
初代族長は人でもあり、神でもあるのだ。
東方教会の教えはサタ族の初代族長サタナハムの彫刻と生き様が礎になっている。
つまり、この教会はサタ族が直接管理しており、神父もまた直系の生まれである。
プレスコットの東エリアはサタ族所縁のエリアであの
るのだ。
つまるところ、世界征服イコール世界の頂点と捉えれば、頂点はイコール宗教トップと考えられる。
少しでも情報を聞き出せればと近づいたが、まさかスカウトされるとはな。
冷静に考えれば、そもそも分家のその分家の俺に将来宗教体系のトップに辿り着けるかというのは疑問だな。
良くてこの教会のトップになれるかどうかだろうか。
3つ目は、オーラの濃度だ。
実は俺には人には見えないものを可視する能力がある。
これは神さま候補の力だろうな。
座学で創造とは何かという授業で、分離する能力だと散々言われた。
その分離をする為に物事を正確に把握する必要がある。
オーラの濃度に気付いたのは、
いじめっ子に歯が立たなかった時に、その理由を探して良く視たのがきっかけだ。
身体能力的に、つまり、筋力では説明が付かない程の差を感じた俺は、身体に宿る粒子の濃度差を見つけた。
これはどんな人間にもあり、石や木花にもあるが、その濃度はその物質が同一であればある程度一定だ。
しかし、この粒子は物質間での移動があることが分かっている。
その方法は、食事と屈服だ。
食材として取り入れると身体にある程度取り入れられる。これは直感的に理解出来るだろう。
濃度の濃い食べ物を摂取すればそれに応じて変化がある。
しかし、どうも日常的な行動や排泄に伴ってある程度消費されるため、相当な濃度の物を継続的に食べなければ底上げは難しい。
例えば、街の外を冒険し、高度な魔物を食べるような生活だ。
一方の屈服については俺も驚いた。
いじめっ子び負けたと思った瞬間、自分の粒子がごっそり持って行かれ、心に喪失感が生まれた。
また、殴り倒されても強い意志を持って復讐心に燃えた時は、微量で済むことも分かっている。
そういう意味で屈服と俺は認識している。
ゲームでいわゆる経験値として積み重ねていくようなシステムにこの粒子がひと役かっているのだろう。
俺の生きていた世界でも実はこの粒子があったりしたのだろうか?
まぁ、
その他にもこの粒子にもルールがあるだろうが、この世界の強さにはこの粒子の獲得量に鍵があるのは間違いないはずだ。
そしてこの粒子、神父は異常に保有量が多い。
異常というのは、俺が普段接する周りの人々と比較しての範疇でしかないが。
一度神父が治療と思われる魔法を使用した時があった。
街の外門で冒険者が獣にやられたらしく偶然居合わせたのだが、遠巻きで見ていても分かる位の大量の粒子が冒険者の傷を覆うように光を発していた。
神父にすれば一部の粒子だろうが、俺の全保有量よりもそれは多かった。
魔法もこの時間粒子を利用することも確信している。
この3点から神父に声をかけたのだ。
しかし、神父が言うように教会での生活が必要ということは、粒子の保有量が魔法の発現の鍵かもしれないな。
一般の生活では、発言の水準に達することが出来ないのかもしれない。
教会独自の食の供給があるのか、
それとも多くのなけれ人間を屈服をさせる事で粒子のをかき集めるのか。
はっ、として周りを眺める。
祈り、告白そして諭しと施し。
屈服とは精神の綻びである。
何者かを頼り、すがり、受け入れ、甘んじる。
教会とは、粒子の集積するのにうってつけだ。
周りの参列者から微々たるものだが粒子が教会本体へと流れている。
それは渦を巻き、2柱の神の彫刻に流れ着く。
その量は膨大だ。
東エリアの住人全員から集まった粒子は神父へ行くのか。
それとも首都か、神本体か。
ゴクリと唾を飲み込む。
こちらへ転生して、初めてこの世界のことわりに触れた気がした。
それとともに、気持ち悪さも込み上がる。
これが権力の奔流かと。
可視化したことで世界のあまりに大きな力の掌握と独占システムの確立に畏怖してしまった。
これは俺の直感だ。
この世界を征服することは、この権力を壊すことも含めているに違いない。
だからこの誘いに乗るべきではない。
あまりに深刻な顔をしていたのだろうか。
神父が肩へ手を置いてきた。
その手は冷たく、とても重く感じる。
「パウェルや、今日はもうおかえり。そんなに思い悩む事は無い。まだ君は居場所を捨てるべき時では無いという事だよ。」
わざと泣きそうな顔を作り俯いてみせ、
その日は帰路に着いた。
外は雨が降っており、
両親と乗る馬車の中で会話も少なかった。
しかし、やっと俺は1つ行くべき道が見えた事で
明日を見据える眼に力を宿す事が出来た。
「『日出ずるをみるならば、日の没する先を見定めよ。』サナスハム様の教えをよく考えてご覧なさい。」
去り際に神父に言われた言葉を反芻する。
俺はこの世界を終わらせる。
俺は俺のやり方で進めるのだ。
さて、
俺がなぜ9歳になり行動に移したかを説明しよう。
簡単に言うと、焦っていた。
10年目安でヤージュに会えると楽観視していたが、まだ会えていない。
そして、その時が迫るにつれて俺は仕事の〆切にも似た焦りが募ってきた。
俺、本当に落第するんじゃね?
消されるかな?
俺はここまでダラダラ本を読み漁っていただけだし。
社畜の血は〆切により覚醒するのだ
みんなも知っていると思うが、
社畜は〆切に追われ続けないと一気にナマケモノになる。
ごく稀にとれる休みの日なんて一歩も外に出たくない。
ベッドからすらも出たくない。
〆切がないなら仕事なんて一切しません。
そんなオフスイッチが付いているのだ。
きっと俺だけではないはずだ。
それが今ままでオフだったのだが、オンになっているのを感じている。
そして行き先も見えた。
ヤージュに冷たい目で見られたくない。
まだ、仲間はおろか友達すらいない俺。
この思いはほんの少しある。
少しだけ。
これが会社で、使い物にならないと判断される位なら、死ねる。
小さいプライドかもし得ないが、自分の業務奉仕が会社を支えているという自負があるから頑張れるのだ。
このままではマズイ。
そんな矢先の教会だったわけだが、実りがあった。
この先も逐一に粒子の流れを良く視る癖を付ければ、もっとこの世界の法則を知ることが出来るだろう。
次の日から、情報集めや人間観察も始めるのだが、
俺はここで俺のやり方をもう一つ決めた。
それは、生前の世界にあって、この世界に明らかに欠如しているものである。
論理的な思考だ。
ここまでこの世界の流儀に乗って攻めてきたが、どうも答えにたどり着ける気がしない。
なんでも突き詰める所には精神的なものや神話に拠り所を持って行って曖昧になる。
ここはひとつ論理的に魔法を科学して、座学で習ったことを思い出しながら進めていこうと思う。
俺は人目につかない場所を思案し、街外れの公園を思いつく。
魔法発現の試行錯誤はなるべく見られたくない。
そうして、やる気に満ちた俺は本を二、三冊抱え、街を小走りで抜けていった。




