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書きだめ終わり
老紳士が正門を開け、表に現れたのは俺が魔具を示した直後だった。
ゆったりと進み出で、深々と礼をする。
「よくぞ参られました、サナス様。若はもう待たれております故、どうぞ」
老紳士は背が若干丸まってはいるものの、
足の運びは静かに、手を前方に差し伸べながらまた門の中へゆっくり入っていく。
「ただものではないな」
「マントヒヒみたい」
ルルーセンとヤージュが逆ベクトルの台詞を小声で言ってくる。
あの老紳士は、タカクラジの専任執事で、
学生時代に身の回りの世話から武術指導まで行っていたな
確かスー二と呼ばれていた筈だ。
開かれた門をくぐり抜け、屋敷の中に入る。
敷石が曲線を描き、屋敷の方へ伸びている。
庭へ目をやると、淡麗に手の行き届いた樹木と庭石が別世界を作る。
しかし、これはひどい。
一角がその雰囲気をぶち壊している。
いや、言葉通りぶち壊れている。
目を細めて肩の鷹を見ると、
あらぬ方向を見ている。
瞬きをせずに身動ぎもしない。
フクロウになったのかい?
「おい、顔見たら謝れよ。」
俺は小声でヤージュに伝える。
そう、庭の一角はヤージュが放った火球が直撃したのだろう。
家屋の一部が抉り取られ、真っ黒に炭化している。
凄まじい威力の火球の一群が、この都市に降り注いだ跡が生々しい傷跡の1つだ。
俺でさえ軍本部から東の空を真っ赤に染め上げたあの光景は戦慄を覚えた。
玄関を通り、通された時間帯にしては薄暗過ぎる応接間で旧友は待っていた。
ド派手なピンクの髪に黄色の差し色。
耳にはピアスを付け、黒い一帯のドレスが装飾で輝いている。
しかし、そんな煌びやかな姿を打ち消す物を彼女は羽織っている。
真っ白な白衣だ。
いわゆる、理系女子って言うやつだな。
スッと椅子から立ち上がり、こちらに対峙するが手はポケットに入れたままだ。
「久しぶりじゃないか、サナス。
昨日から神童が脱走兵に落ちぶれたと、都中のうわささね。」
ハスキーな声で状況を楽しん見ながら、こちらを品定めするように見下ろしてくる。
ちなみに、俺より身長が大きい。
「単刀直入に話すぞ、力を貸してくれ。」
「嫌だね。」
にたぁと吊り上がった唇が、
薄暗さのために気味が悪い。
知っていたさ、こいつはそういうやつさ。
「もちろん、お前にも利潤はある話だ。」
「それはこっちで決めるさね。あんたは何を差し出すんだい。遂に右手をあたしにくれるってのかい?
このまま拘束してやろうかい。いつかの決着はお預けだったからねえ」
そう、タカクラジが言うと、
部屋が異質な空気に呑まれる。
タカクラジは燻噛むように俺の足元に目を向ける。
そう、この空気を作っているのは、ルルーセンだ。
彼女としては、これほど人を食ったような態度は初めてだろう。
不快な感情をタカクラジにぶつける。
「おい、まさか軍部の報告は本当なのかい?
あんたが獣臭い奴らと手を組む気かもしれないってのは」
タカクラジは一歩も引かずに、ルルーセンを睨め付けるが、ゆっくりとポケットから手を出す。
その手には何か握られている。




