豊穣の月の欠片
武士という言葉がぴったりと当てはまるな
ルルーセンを尻目にふと思う。
侵入作戦はおおよそ上手くいき、
内部に降り立った俺たちが目の当たりにしたのは、
予想以上の配備された警備兵だった。
身を隠すために小道や地下下水を迂回しながら旧友の敷地に向かって居る。
その際、ルルーセンは斥候を務め、
堅実に俺たちを警備の兵から見つからぬように、誘導してくれる。
昨日まで敵だった者に、こんなに尽くせるものなのか。
かつて日本の武士は戦に敗北すると、
忠誠を誓い、新しい家来として迎えられたという。
有能な者が長く生き、その都度、代わりがわり世の中を動かして来た。
ルルーセンは口数は少ないし、
あまり自分を語ろうともしないが、
一度腹を決めたら突き通す性格が見て取れる。
俺とは性能が違うなぁ
「なんだ、道順を間違えているか」
俺たちが小走りにルルーセンの後に追いつくと、
足を止め小声で聞いてくる。
俺の顔を読み取ったのだろう。
その動きに迷いはなく、
こちらに一瞥した後は、周囲の警戒に余念がない。
探索魔法が上手く機能しないここでは、身体能力が優れる斥候はとても助かる。
「いや、合っている。もうすぐ馬鹿でかい屋敷が見えるはずさ」
俺が視線を空に向けると、
一際高い屋根が、連なる街並みから頭1つ突き出ている。
この東区を実質的に統治長の屋敷だ。
教会の運営は統治長の助言も考慮され、
首都に住むサテ族本家の意向が反映される。
表立っては見えないが、その影響力は非常に大きい。
そのほにも商業や政治は直接行い、
言い方が悪くもなく実質的に支配している。
金と屈服を掌握する事で、
この世界の構造に直結しているといえる。
本格的に対抗できるのは、
教会部、軍部ということになるが、
3つの権力は完全な独立ではない。
この3権に上にある存在が、
未だに俺は掴めずにいる。
そんな事を考えているうちに、
屋敷の正門付近まで近付いて来た。
ここからは俺の仕事だ。
「ルルーセン助かった。
隠蔽魔術の節約が出来たから、予定より円滑に進められそうだ。」
俺たちは姿を表に出し、
屋敷へ近付いていく。
その姿は、どんな風に見えるだろうか?
軍帽を目深に被った青年の足元に、
銀色毛並みの良い小型の犬が付き添い、
肩には眼光鋭い鷹が止まっている。
門兵は一歩後退り、
塀の中に声をかける。
こちらからは一瞬も目を離さない。
片手を腰袋に入れ、
何かを取り出す。
およそ、威嚇か信号魔法が込められた魔具だろう。
ここで争いを起こすつもりはない。
俺も胸ポケットからあるものを取り出す。
少し冷たい滑らかな金属肌が懐かしい。
かつて旧友で戯れに作った魔具であり、
お互いの存在を認め合った印だ。
「タカク・ラジ・サテに伝えてくれ。
旧友が会いに来たと」




