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「そうはいかんでしょうよ、クエラ副長」
ザック副長が台の縁の方に近寄り、
隊長の去っていった地上を見下ろす。
ため息をつきながら仕方なく、私も近付いて確認しようとする。
「そうだぞ、クエラちゃん」
待ってましたかのように、
パウェル隊長が縁から顔を出す。
バチンッ!!
下まで落ちなかったのかっ!
と、思うより先に手が出てしまった。
思いっきり頬に決まった平手打ちが、
パウェル隊長を空中に放り出した。
今度こそ地上に落ちていく。
一刻の間を置いて、
地上に人型の凹みが出来たことを確認し、
身だしなみを整える。
軍帽が乱れてしまったではないか。
「ザック副長、私は悪い夢を長く見続けているのだろうか。」
「いや、現実ですよ。クエラ副長。
普通なら人1人死んでますよ。」
困った顔をしつつも、
取り乱した様子はない。
私も彼も、こんな事には慣れてしまった。
パウェル隊長が常識の範囲外にいる事を知ってしまってからだ。
「もうすぐ軍事会議が再開されますが、
隊長は散策に行かれたようですので、我々は戻った方が宜しいのでは?」
同じ副団長に命ぜられてはいるが、
階級はザック副長が上の為、お伺いを立てる。
ふふっと笑いながら
「そのようなので、戻ってくれるかい?
明日の作戦が頭に入っているのであれば、任せたいのだけれど。」
当然である。
「問題ありません、そうように致します。」
私は踵を返し、敬礼してからその場を後にする。
去り際に面白い人だなぁと聴こえてきたが、
心外も良い所である。
私はいつだって真面目だ。
ってか、ちゃん付けして呼ばれたな、、
隊長のくせに、
螺旋状の石畳の階段を降りつつ、舌打ちする。
ぁあ、何故こんなに腹が立つのだろう。
もっと真面目にして欲しい。
まだ手に平手打ちの感覚が残っている。
同じ人間を打った時と同じ感覚だ。
左手で右手を包み込み、確かめる。
本当にあの人は人間なのだろうか。
そんな感覚が支配する。
軍事戦略立案の完璧さ
戦場指揮の的確さ
治癒魔法による補佐能力に留まらず、
戦況を覆すことが出来る一騎当千の戦力
何を考え、何を成そうとしているのか、
傍にいても分からぬ事だらけだ。
団員の中には
騎士団の危機でさえ、
作り出された状況と思ってしまい、
不審を抱く者もいる。
他の騎士団からは毛嫌いされる程だ。
しかし、パウェル隊長の元で敗北は無い。
必ず戦果が上がる。
認めなければならぬのであろうが、
近づけば近くほど分からぬ事だらけだ。
顔を見上げれば軍事会議室まで来ていた。
もう一度、身なりを整え、ノックする。
「第3騎士団 副団長クエラ・パトリキ!
軍事会議の為、参上致しました!!」
ゆっくりと開く扉に、目を細める。
母譲りのこの碧い目は、
真実を見通す目だと言われ育った。
分からぬなら分かるまで見続ければ良い。
一生の不覚を不覚のままにするのは、
私の性分ではないのだ。




