冷徹の碧眼 クエラ•パトリキ
隊長はそびえ立つ塔の縁に足をかけ、崖下を見下ろしている。
浅く清々しい晴れ空が気持ちが良いとか思っているのだろう。
彼はエルレム國第3騎士団 団長のパウェル・サナス。
武神の転生と呼ばれ、若干16歳でこの地位まで辿り着いた。
「団長やめてください、気持ち悪いです。」
私は率直に言いたい事を告げる。
部下を無駄に従えて高台に来て、無駄に感傷に浸っているのだ。
間違いはない。
「こらこら、団長に向かっては言葉気を付けようね。皆に示しがつかないから。」
いつものように戒めるのは副隊長だ。
注意されるべきは私ではないだろう。
彼はザック・テレバニウスという。金髪で整った柔和な顔立ちはとにかくイケメンと巷では持て囃されている。軍服がまた良いのだとか。身長も高い。そんなところが嫌いなのでこれまた意地悪く接しているが、年上という事もあって本人は気付いていない。
私の名はクエラ・パトリキ。
黒髪で軍服がよく似合うとこれまた言われるが、
知った事ではない。
勿論、この隊の頭脳を担う副隊長を任ぜられている。
この高台の眼下には巨大な川が流れ、その対岸にはこちらの要塞都市の半分程の街見える。
我が隊の今回、長年落とすことが叶わない敵国の都市を陥落させる作戦に招集されている。
周辺は森に覆われ、互いに攻め手に欠けた因縁の土地だという。
それを達成することで更なる足掛かりとなり、有能な成績を挙げた者は軍本部へ召集されるだろう。
「あれ、団長が泣いてるよ。クエラ副長。」
視線を隊長に戻すと微かに震えている。
これは想定外だ。
滅したい。
「本当に気持ち悪いですよ、隊長」
そう言って私は隊長の背中を強めに蹴った。
因みにここは要塞都市の見張り台の1つで、地上まで20m程の高さがある。
軍会議の休憩の最中、攻略対象の街が見たいと言われ案内したらこれだ。
変なポーズを決め、ニヤニヤと小難しい顔を交互に表情に出し、1人の世界に浸っている。
気持ち悪い。
「ぬあ、えっ、まじっ?」
言葉だけ地上20mに残して、隊長は去っていった。
そんなことより明日、眼下の大河の向こうに見える敵国の街を叩き潰すチャンスが来た。
このチャンスをこの手で成功に収め、我が野望の足掛けとせねばならない。
「物凄い真剣な眼差しで覚悟決めてる所悪いけど、作戦前日に上司殺害未遂ってまずいでしょ」
私はただ、上司に意見をしただけだ。
そして蹴りはいつもの事だ。
どんな場所でも私がする事は変わらない。
「問題ない。いつものことです。」
私を咎めながらも、襟を緩めているのは私と同じ副団長を務めるザックという男だ。
優秀な男であるが、特殊な経歴を持っている。
これも我が隊は他とは異なる構成を取っている事に起因するのだが。
その原因をもたらし、
その際たる特殊性の例がパウェル隊長である。
若干16歳で隊長格まで昇格した例はない。
そして、ここに至るまでの経緯、実績についてもまた異例だ。
10歳で中央教会に神童認定されると、
特定治癒不可指定されている難病を5つ指定解除した。つまりは不明だった原因を特定し、治療方法を確立したという事だ。
私が驚愕させられたのは特定したという世間が煽り立てた頭脳より、寧ろその年で治癒魔法を複数習得しているという事だった。
治癒魔法は人体に影響させることから最も習得が難しいとされ、その能力を親が見つければ即刻教会に入れる程だ。
それ程社会的に重要であり、手堅く手当もつく。
こんなことが可能なものなのかと恐怖さえ覚えた。
何故なら私も自身の切磋に身を投じていたからである。
その後、隊長に真見えたのは私が16歳になった年だったか。
教会の参列式にて遠目で見たのだ。
その時の洗練された佇まいと気品には畏怖さえ覚え、他人に心から敬意を払ったのは初めてであった。
が!、
まさか、
こんなに、
中身が、
腑抜け、
空け者であったとは!
一生の不覚である。
私は一心にあの神童と共に在りたいと思い、
跡を追ってきたのに。
追いついた時には神童、天の恵み、武神の転生と奇跡の別称をほしいままし、この國の最高戦力である5つしか席のない騎士団の団長となり、軍事戦略参謀補佐も務める超エリート。
副団長となり、
期待と高揚を持った私が次に会った彼は、
私の想像していたそれではなかった。




