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スーパーロボティクス ~宇宙戦艦も魔法もあるのに、巨大ロボがないなんて!~  作者: えいえい


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第1話 星の海に生まれて

 俺は宇宙港の窓辺で育った。

 係留桟橋を離れる作業艇の向こうを、窓枠に収まらない貨物船が進んでいく。食事に呼ばれても離れない俺を、母が何度も抱きに来た。

 ここはラディセント合衆国のウェストヘイヴン・コロニー。父ロイドと母エマは宇宙船の整備工房、アンカー・ワークスを営んでいる。工房の奥が我が家で、居間のソファに座っていても父の笑い声は聞こえた。


 物心がつくにつれて、俺には別の暮らしの記憶があると気づいた。

 地球で学校へ通っていた頃は、スーパーロボットが大好きな中学生だった。宇宙船から飛び出す鋼鉄の巨人が必殺技を決めれば、画面の前で俺まで拳を握ったものだ。

 それが今では、自分の手も窓に映る顔も幼い。どうやら生まれ変わったらしい。

 前世の記憶は誰にも話していない。まずは本物の宇宙船を飽きるまで眺めたかった。


     *


 五歳になる少し前、父が重い部品を載せたフロートボードを持ち上げるところを見た。

 天板は腰の高さで止まり、父が押すと床に触れないまま滑っていく。しゃがんで裏を覗いても車輪や線はなかった。


「どうやって浮かせてるの?」

「フロートの魔法だ。足を入れるなよ」


 マジかよ!この世界って魔法まであるのか!

 俺は顔を上げた。宇宙船と、それを造る技術に魔法まで揃っている。ここなら前世で憧れたアレが本当にあるかもしれない。


「父さん、人が乗る大きなロボットはどこにあるの?」

「大きいって、どれくらいだ?」

「人みたいに手足があって、あの作業艇より背が高いんだ。宇宙を飛んで、敵が来たら剣や必殺技で倒す!」


 父は作業艇と俺を見比べた。


「そいつを人の形にする必要があるのか? 宇宙じゃ歩かんぞ。脚を付けるくらいなら、その分の重さで装甲を厚くした方がいい」

「地上にも降りるんだよ。敵を蹴り飛ばせるし、走れる!」

「それで脚が壊れたら立てんだろうが。剣も手で持たせるのか?」

「そう! 大きな剣で戦うんだ!あとドリルやパイルバンカー!」

「レーザー銃を搭載させればいいじゃないか。手で持つ必要もない。そもそも、宇宙船同士なら三十キロ離れていても近距離だぞ。剣が届くまで突っ込んだら、その間ずっとレーザーもミサイルも飛んでくる。振りかぶる前に蜂の巣だ」

「三十キロで近いの?」

「それより遠くから撃ち合うんだからな。光学武器なら船体に付ければ済む。わざわざ手で持たせて腕ごと振り回す方が、重くなるし壊れやすいぞ」


 宇宙船を直す父に言われると反論しにくい。だけど、窓の外の作業艇に砲を載せた姿を思い浮かべても胸は躍らなかった。


「手があれば敵をつかんで投げられるし、武器も持ち替えられる。俺はそういう巨人に乗りたいんだよ」

「ははっ、敵を投げるために宇宙まで追いかけるのか! お前の注文は欲張りだな!」

「そういうの、どこかにない?」

「悪いが見たことがない。仕事用の機械やオートマタならともかく、そんな人型の兵器はな」


 それで諦める気にはなれず、父の端末で一緒に探してもらった。人型のオートマタも人が着る装甲もある。宇宙で戦う機械を探せば戦闘艦や戦闘艇が出てくるのに、欲しい巨人だけが見つからない。

 母にも絵を見せて別の国の資料まで探したが、俺の求める巨大ロボットはいなかった。


 格納庫から出撃する姿を足元から見上げ、いつか操縦席に座らせてもらいたかった。図鑑を閉じると、窓の外の宇宙船まで少し遠くなった気がした。


 宇宙戦艦も魔法もあるのに、巨大ロボットがないなんて。

 そんなの、あんまりじゃないか。


 それでも巨人の絵を消す気にはなれなかった。胸に描いた操縦席を指でなぞり、父へ向ける。


「無いなら、俺が造る。造り方を教えてよ」


 父は一瞬目を丸くしてから、歯を見せて笑った。


「自分で造るか! いいぞ、俺の技術の全てを叩き込んでやる!ただ、手足を付けりゃ強くなるとは思うなよ」

「分かってる。ちゃんと強いのを造って見せる!」


 前世で覚えたのは機体の名前や必殺技ばかりで、関節一つ造れない。それでも、ここには道具も材料もある。父と母は毎日宇宙船を直している。

 俺は絵を保存した。図鑑になければ、最初の一機を造ればいい。


     *


 最初に教わったのはフロートボードの仕組みだった。

 魔法には物の形や性質へ働きかける魔素と、生き物の魂から生まれる霊素が要る。フロートボードは魔石を利用し、使う人がハンドルから霊素を送ることで重い物を浮かせる。

 中にある霊素調整器(レギュレーター)が受け取る量を整えるのだと、父は蓋を開けて見せてくれた。


 俺用の接触部を作ってもらうと、空荷の天板を動かせた。自分の霊素を出し続けるうちに疲れてきたが、胸の奥にはまだ外へ続くような感覚がある。幼い頃から馴染んでいたそこへ意識を向けると、霊素が入ってきた。それを送れば疲れずに天板を浮かせていられる。

 俺がその違いを話した途端、父の顔つきが変わった。


「自分のじゃない霊素だと? カイル、今の話をもう一度してくれ」


 皆にもある感覚だと思っていたが、両親には心当たりがなかった。客のいない時間に試験を重ね、五歳のある晩には宇宙船の魔導ジェネレーター用計測器で調べることになった。

 装置へ送る霊素を測る機材だ。両親が接続と停止の設定を確かめ、俺は合図に合わせて量を増やした。途中で父に止められ、別の計測器でも測り直すと同じ結果が出た。


「駆逐艦の魔導ジェネレーターに匹敵するぞ! お前、今ので本当に疲れてないのか!?」

「平気だよ。もっとやる?」

「やらんでいい! 父さんの方が休みたいわ!」


 父が比較用の資料を開いた。駆逐艦(デストロイヤー)は全長三百〜七百メートル。飛来するミサイルなどを迎撃して艦隊を守り、自らも敵艦へ砲撃を浴びせる軍艦だ。

 小型の警備艦であるコルベット、船団護衛などを担うフリゲートよりはおおむね大きく、巡洋艦や戦艦よりは小さい。規模では中堅だが、護衛部隊の中核を任される軍艦だった。

 一般のコロニー住民、コロニストが貯蓄や融資で購入を目指せるのは、中古の小型作業船や輸送艇あたりだと父は言う。軍艦となれば小型でも保有許可と特別な取引先が要り、金を貯めれば買えるというものではない。

 そんな世界の機械と、俺が同じ出力なのか。

 図の艦体には砲塔やミサイル発射口が並び、横に添えられた人間は点にしか見えない。俺はその巨体と自分の手を見比べた。


「あの軍艦の機械と、俺が同じくらい?」

「霊素の出力はな。燃料や魔石まで要らなくなるわけじゃないが、こいつはとんでもないぞ!」


 父は母へ画面を向けた。


「エマ、これギフトじゃないか。自分の霊素も減らずに、こんな出力を出し続けられるものか?」

「私も知らないわ。カイルはずっと、当たり前にできることだと思っていたのね」


 頷くと、母は俺の手を両手で包んだ。

 父は俺を見て、記録を見て、それからもう一度俺を見た。


「ギフトって、あのギフトだぞ。仕事で何人の船乗りに会ったと思ってる。一度だって持ち主に会えたことがないのに、うちの息子が?」


「そんなに珍しいの?」

「ええ。女神(セレスティアル)がごく稀に授ける特別な能力なの。お金で買うことも、練習して同じものを覚えることもできないわ」


「女神って? 本当にいるの?」


 宇宙船に魔法と来て、今度は神様だ。母は俺の手を握ったまま頷いた。


「いるわよ。セレスティアルという種族の方たちなの。誰か一人の名前ではないのよ」

「人間とは違うんだ」

「ええ。身体は霊素で出来ていて、生命のもとになる私たち人間も含めて、全ての生き物の魂を生み出したり、ギフトを授けたりできるの。私たちには出来ない凄い事ばかり出来る、神様と呼ばれている種族なのよ」


 母は端末で種族の資料を開いた。セレスティアルの名前の横には、大きくSと表示されている。


「これが種族のランク。生まれつきどれだけの力を扱えて、どんなふうに操れるかを比べたものよ。EからAまであって、その上がS。女神はこの一番上にいる種族の一つなのよ」

「ものすごく強い魔法使いってこと?」

「強い弱いだけじゃ済まんぞ。父さんたちがどんな機械を造っても、同じように魂やギフトは造れないんだ」


 父まで言い切るので、俺はもう一度Sの文字を見た。すごい装置を持っている相手なら工房で分解して調べられるかもしれないが、この人たちは生き物として違うらしい。


「父さんは会ったことある?」

「ないない! うちの大統領でも会った事無いんじゃないか?合衆国じゃ礼拝に通う人もいれば、そうでない人もいる。うちも毎日祈って暮らしてるわけじゃないが、いることも力が桁違いなのも知ってるさ」

「それなのに、俺に力をくれたの?」

「だから驚いてるんだよ! 大統領から連絡が来たって腰を抜かすのに、相手は女神だぞ」


 俺は端末を覗き込んだ。女神がそんなに上なら、俺たちはどの辺りなのだろう。


「ねえ、人間のランクはいくつなの?」

「Dだ。俺も母さんも、お前もな」

「下から二番目じゃないか!」


 父は苦笑して資料を送った。オークや主な獣人の系統はC、ドワーフはB。その上のAにはエルフやオートマタが並んでいる。


「オートマタもAなんだ。図鑑にある見た目は人間とほとんど同じに見えるけど、凄いの?」

「スペックは大違いだ。機械の身体でも人間より全ての能力がずっと高い。エネルギーを操る技術も大したものだぞ。人間と同じに考えちゃいかん」


 船を造る人類は上の方だと思っていた。魔法を使えるのも嬉しかったのに、宇宙には俺たちより得意な種族がいくらでもいる。


「じゃあ、ドワーフの職人は父さんより上手なの?」

「霊素を扱う素質じゃ負けるな。だが、修理の腕まで生まれたときに決まるもんか。駆け出しにうちの仕事は譲らんぞ!」


 父が笑うと、母も頬を緩めた。


「…話が逸れたな。まあとにかく、ギフトはとても珍しくて貴重な力だって事だ」


 ただ、これほど珍しい力を幼い俺が持っていると知られれば、面倒な相手も寄ってくる。詳しい記録は工房で保管し、外で試す前には両親へ相談する約束をした。


 能力には俺がディープリンクと名を付けた。胸の奥から別の空間へつながる感覚に合うし、何より格好いい。

 どこにつながっているのか、女神がなぜ俺にくれたのかは両親にも分からない。計測器で分かるのは出てきた霊素だけだ。それでも外から取り込み、量を調節して装置へ送り続けられることは確かめられた。


「父さん、これならロボットの重い身体を魔法で支えられないかな。俺が乗って送るんだ」


 父は俺の絵を開き、操縦席に指を置いた。


「なるほど。船でいえば、お前が魔導ジェネレーターに当たるわけか。そいつを人が乗れる大きさの機械につなぐんだな」

「腕も動かす。自分の手みたいにして、大きな剣を振るんだ」

「だったら次は、その霊素を受け止められる身体だな。俺たちの仕事だぞ、カイル」


 俺たち、と言われて胸が弾んだ。ギフトがあれば身体まで出来上がるわけではないが、重い機体へ魔法を働かせ続ける見込みはできたのだ。


「俺のスーパーロボット、父さんにも見せるからな!」

「スーパーロボット? そいつの名前か?」

「大きくて強くて、怪獣にも勝つロボットだよ。俺が乗って出撃するんだ」

「ははっ、まだ強さの注文まで諦めてないのか! なら、まず動く腕を造ってみろ。剣を持たせる話はそれからだ」


 望むところだ。俺は父の隣へ椅子を寄せた。


     *


 六歳になった年の朝、二歳下の妹ミアと朝食を食べていると、ニュースに青い惑星が映った。


『ヴァルディオン帝国軍による惑星エヴァリスへの攻撃について、サンクレア神聖国が迎撃時の記録を公開しました』


 サンクレアは女神(セレスティアル)を崇める宗教国家だ。エヴァリスの白い聖堂を囲む街には水路が巡り、巡礼客や商人を運ぶ旅客船が軌道上の係留施設に連なっていた。

 映像に警報表示が重なると、父が食事の手を止めた。


『帝国軍が投入したのは対惑星質量兵器、プラネット・ブレイカーです。小惑星を弾体に用いており、数十基がエヴァリスへの衝突軌道に入りました』


 表面に渓谷のような亀裂が走る岩塊が、後部の推進装置を青白く噴射していた。迎撃艦が細い針ほどにしか見えない岩の塊が、幾つも惑星へ向かっている。


「全部落とすつもりか。あそこには人が住んでるんだぞ!」


 父の声にミアが肩を縮めた。母は妹を抱き寄せたまま画面を見つめている。


『公開された被害予測では、着弾すれば惑星上の生物は死滅し、居住環境は失われます。最悪の場合、惑星そのものが崩壊するおそれがあったとされています』


「星が、なくなるの?」


 口にしてから怖くなった。逃げる先が隣の街でも海の向こうでも助からない。さっきの旅客船に、星じゅうの人が乗れるはずもなかった。


「ロイド、避難は?」

「間に合わん。あの数を止めなきゃ、どこへ逃げても駄目だ」


 父は皿を押しやり、画面へ身を乗り出した。

 迎撃の砲火が岩塊の表面をえぐる。それでも赤い予測線は消えず、海と大陸へ幾筋も突き刺さっていた。


 画面が一度切り替わり、白い法衣の少女が映った。床に組み込まれた装置の中央に立ち、両手を広げている。


『防衛に当たったのは、サンクレアの聖女と呼ばれるギフト保持者であると政府が発表しました。次の映像は、惑星防衛設備を通じイージスを展開する様子です』


 この人が止めるのか。

 俺より年上には見えるが、父や母よりずっと若い。たった一人の姿と岩塊の群れが頭の中で重ならず、俺は食卓の端を握った。


 画面がまた切り替わり、惑星エヴァリスとその周囲を囲む、数十ものプラネット・ブレイカーが迫る様子が見える。惑星の縁を青白い光が走り、大気圏の外側に防御領域が幾重にも広がった。先頭の岩塊が激突すると光が同心円に波打ち、後続の弾体まで受け止めていく。

 推進装置は噴射を続けていた。それでも食い込んだ岩塊は止まり、盛り上がった光に包まれた。


「…止まったぞ」


 父は画面から目を離さない。

 光が内側へ狭まると岩塊に亀裂が走り、推進装置ごと押し潰された。後続の弾体も次々に砕けていく。飛び散りかけた破片まで光の内側へ押し留められ、細かく砕かれていった。

 大陸へ向いていた赤い線が消える。岩塊の群れは光に封じられた破片となり、防御領域ごと惑星から遠ざかっていった。


『全ての弾体の阻止と、破片の落下防止が確認されました。エヴァリスは居住可能な状態を保っており、神聖国は各地の被害状況の確認を続けています』


 海沿いの街でも山間の集落でも、人々が空を見上げていた。広場に膝をついて祈る人の隣で、子供を抱いた男が泣いている。


「よかった。あの星を守りきったのね…」


 母はミアを抱く腕を緩め、何度も背中を撫でた。父も椅子へ深く座り直したが、すぐには何も言わなかった。

 俺は聖女の映像がまた出るのを待っていた。あの岩を全部止めて砕いたのが、あの少女なのだ。工房で自分の測定値を見たときの喜びとは違うものが、胸に残っていた。


「カイル」


 父がこちらへ身体を向けた。


「さっきの子がいなきゃ、あの星は終わってた。ギフト一つで、それだけの人間の生き死にが変わるんだ」

「俺の力も、あんなふうになる?」

「今は分からん。だが、いつか肩を並べるかもしれんぞ。だから覚えとけ。何に使うかまで女神が決めてくれるわけじゃない。強い力には責任が伴う、力の使い方を決して誤るなよ」


 俺はもう一度画面を見た。男に抱かれた子供が顔を上げ、空へ手を振っている。

 力を持ったと知って自慢したくなった俺は、あの子のいる場所へ自分の攻撃が落ちるところなんて考えたこともなかった。


「俺も、誰かを助ける人になりたい。ロボットで飛んでいって、間に合ってよかったって言われたい」

「そうか。なら、そのつもりで造れ。強いロボットにするなら、ちゃんと止められるようにもしておくんだぞ」


 父の大きな手が頭に載った。

 俺はイージスを使えない。けれど、逃げる人の前へ降り立つ巨人なら造ってみせたい。その操縦席で胸を張れるように、動かし方も自分で覚えるのだ。


     *

それから俺は、毎日を勉強とお小遣い稼ぎに勤しんだ

 小遣いはロボティクスやオートマタの専門書と、設計図や制御の例題が入った『ロボティクス実習パック』へ消えていった。

 放課後は宿題を片付けて工房へ向かう。父の廃品箱から駆動部を拾い、母に読めない数式を教わり、端材を削って組み合わせた。霊素は送れても関節は思いどおりに動かず、冷却が追い付かなくて装置の方が先に止まることもあった。


 十歳で膝ほどの二足歩行機ができた。ステッパーと名付けた俺の最初のロボットは、電池で動く端材の塊だ。床へ下ろすと一歩目で転び、転倒防止のひもにぶら下がった。


「お辞儀は上手だね」

「歩くところだったんだよ」


 八歳のミアに言い返し、何度も組み直した。左右の関節の動きを揃え、軸のがたつきを直し、十歩続けて歩かせるまでに何日もかかった。

 最後の一歩で俺が顔を上げるより早く、父の歓声が工房に響いた。


「やったじゃないか、カイル! おいエマ、今の撮れたか!」

「撮れたわよ。あなたの声も全部」

「そこは消さなくていいからな!」


 俺も消してほしくなかった。寝る前に映像を見直すたび、画面の外の父と一緒に嬉しくなる。


 身体も鍛えた。父と走り、寄港する父の友人の船長に格闘を教わる。剣を習いたいと言ったら物好きだと笑われたが、いつか巨人に持たせるのだから自分でも振ってみたかった。

 十三歳には魔導アクチュエーターの専門書を買い、魔法で関節を動かす仕組みを学んだ。図面の中の機体を大きくすると肩が腕の重さに耐えず、補強すれば今度は胴体が重くなる。霊素を増やせば全部解決、とはいかなかった。


 十五歳で義務教育を終える頃、必要な部品と加工設備を最後まで積み上げてみた。

 見積もりを閉じて開き直しても、金額は変わらなかった。


「母さん、この計算合ってる?」

「運んでもらう費用が抜けているわ」

「まだ増えるのかよ!」


 隣で父が大笑いした。


「置く場所もだぞ。この肩、うちの入口を通らん!」

「屋根を取ったら?」

「取りません」


 ミアの案は母に即座に却下された。

 部品一つで貯金が消える。金も設備も腕も足りず、巨人を工房の外へ送り出す日はまだ遠かった。


そこで俺はひらめいた。


 人が着る船外作業用のスーツなら既製品がある。工房で整備を手伝って構造も覚えてきた。これを俺の出力に合うように改造すれば、推進器や防御へ霊素を集中できる。


「ロボットが作れないなら、先に俺が飛ぶのはどうかな?」

「は?」

「スーツを改造するんだ。ギフトを動力にしたら飛べるかも知れない!」


 父の笑いが止まった。


「お前、ロボットが造れんからって自分を外へ放り出す気か!?」

「中身は最初から俺なんだから、先に練習しておけるだろ!」

「順番の問題じゃないだろうが! スーツで宇宙を飛ぶなんて死ぬようなもんだ!」


 母も笑っていなかった。

 俺は改造したい箇所を図へ足しながら、まず船外作業ができるところまで造り、飛行と防御を順に試したいと話した。出撃する姿だけでなく、無事に戻る方法も示さなければ二人は頷いてくれない。

 最後まで聞いた父が図面を引き寄せた。


「はあ… お前は止めても聞かないだろうな… まず作業用として造るところからだ。俺が見て駄目だと思った装備で宇宙へは出さんぞ」


 推進器の横へ必要な部材を書き込み始めた父を見て、俺は椅子を寄せた。母も整備資料を開いてくれる。


「カイル。試験の約束は守ってね。完成した姿を見たいから言っているのよ」

「うん。帰ってくるところまで見てもらう」


 カタパルトからパワードスーツ姿で飛び出す自分を想像すると、これはこれで相当に格好いい。


 俺は巨人の図面を残して、隣に新しい図面を開いた。

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