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支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
第4章『独裁者の最後の決断』

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95/100

第95話 国民が望んだ独裁者

2037年5月12日。

黒崎玲司が公務に復帰した翌朝。

国民の間では、黒崎により強い権限を与えるべきだという声が広がっていた。

政府の権限強化に慎重な姿勢を示した黒崎だったが、その言葉さえも、人々の期待を高める結果となっていた。

一方、海外の日本大使館に保護された情報提供者は、事件の背後にある計画について、新たな証言を始めようとしていた。

そして、国内では長峰啓介が、最後の工作を実行に移そうとしていた。

2037年5月12日。

午前6時43分。

東京都千代田区。

国会議事堂の周辺には、まだ通勤時間前だというのに、数百人の人々が集まり始めていた。

手にしているのは、日の丸や手書きのプラカード。

『黒崎総理を守れ』

『政治を止めるな』

『国民生活を最優先に』

その中に、ひときわ大きな文字があった。

『黒崎玲司に全権を』

集会の主催者が、拡声器を握った。

「皆さん! いつまで国会の議論を待てばいいんでしょうか!」

人々から声が上がる。

「サイバー攻撃は続いている!」

「銀行も物流も不安定なままだ!」

「国民の生活を守れるのは誰だ!」

主催者は、声を張り上げた。

「黒崎総理です!」

拍手が広がった。

「黒崎総理は、自分に強い権限を与えることを拒みました!」

人々が静かになる。

「だからこそ、私たち国民が、その権限を与えるべきなんです!」

再び拍手が起きた。

その少し離れた場所では、別の集団がプラカードを掲げていた。

『非常時こそ憲法を守れ』

『総理を支持することと全権委任は違う』

『国会を止めるな』

両者の間には、警察官が立っていた。

誰もが、日本を守りたいと思っている。

しかし、そのために何をすべきかについては、意見が分かれていた。

* * *

午前8時17分。

東京都内の病院。

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、病室のテレビを見つめていた。

画面には、国会前の集会が映っている。

『黒崎総理に全権を』

その文字を見た黒崎は、静かに息を吐いた。

「……全権、か」

ドアがノックされた。

「総理、おはようございます」

秘書官の小野寺航(おのでらわたる)だった。

「おはようございます、小野寺さん」

黒崎は、テレビを指さした。

「……すごいことになっていますね」

小野寺は、画面を見た。

「はい。昨日の会見以降、総理への権限集中を求める声がさらに目立っています」

「……俺、反対したんですけどね」

黒崎は、苦笑した。

小野寺も、少し困ったように笑った。

「その姿勢が、かえって信頼につながっているという分析もあります」

黒崎は、しばらく黙った。

そして、静かに言った。

「……信頼してくれるのは、ありがたいです」

「はい」

「でも、俺が権限を欲しがらないから、安心して権限を渡せるって……」

黒崎は、テレビを見た。

「……それは、少し違う気がします」

小野寺は、うなずいた。

「私も、そう思います」

黒崎は、少し考えた。

「小野寺さん」

「はい」

「今日の国会の予定は?」

「午後に、危機対応権限についての集中審議が予定されています」

「……そうですか」

黒崎は、静かにうなずいた。

「昨日、俺が言ったことが、ちゃんと伝わっていないのかもしれませんね」

小野寺は、首を横に振った。

「伝わっていると思います。ただ、受け止め方が違うのかもしれません」

黒崎は、少し笑った。

「……難しいですね」

* * *

午前9時26分。

海外の日本大使館。

非公開の面談室。

日本大使館に情報を持ち込んだ人物が、担当者の前に座っていた。

三十代後半の男性。

顔には疲労の色が濃く、何度も窓の方を気にしていた。

身元は確認されている。

ただし、本人の安全を守るため、氏名や職歴は限られた担当者にしか共有されていなかった。

「……改めて、ありがとうございます」

日本大使館の担当者が言った。

男性は、首を横に振った。

「感謝されるようなことではありません」

「それでも、危険を冒して情報を提供してくださったことは事実です」

男性は、しばらく黙った。

そして、静かに言った。

「……私は、最初から全部知っていたわけではありません」

担当者は、うなずいた。

「はい」

「華龍国際情報研究有限公司の関連業務で、文書の整理や翻訳を担当していました」

「……はい」

「最初は、普通の政策研究だと思っていたんです」

男性は、手元の紙を見つめた。

「日本の税制改革。政府への信頼。国民の政治的反応」

「……それが、いつ変わったんですか?」

男性は、少し考えた。

「昨年の終わりごろです」

「具体的には?」

「政策に対する反応を調べるだけでなく、その反応を意図的に変える計画が作られ始めました」

担当者は、静かに聞いていた。

男性は続けた。

「……特定の人に、異なる情報を届けるんです」

「どのような情報ですか?」

「その人が怒りやすい内容。不安を感じやすい内容。政府への不信を強める内容です」

担当者は、資料を確認した。

「A-17という符号をご存じですか?」

男性の表情が変わった。

「……はい」

「何を意味していますか?」

「対象者の一人です」

「三枝直人という人物をご存じですか?」

男性は、首を横に振った。

「名前は知りませんでした」

「……そうですか」

「ただ、A-17については、特別な扱いをするよう指示が出ていました」

担当者は、顔を上げた。

「特別な扱い?」

男性は、うなずいた。

「通常の情報配信ではなく、本人の行動変化を重点的に確認するように、と」

「……誰の指示ですか?」

男性は、少し黙った。

そして、答えた。

「梁文浩です」

担当者は、静かにメモを取った。

「……梁さんが、直接指示したんですか?」

「私が確認した文書では、そうなっていました。ただし、実際に誰が操作したかまでは分かりません」

「分かりました」

男性は、少し息を吐いた。

「……でも、梁が一番上ではありません」

担当者が顔を上げた。

「……H-3ですか?」

男性は、うなずいた。

「はい」

「H-3とは、誰ですか?」

男性は、少し考えた。

「……私が直接会ったことはありません」

担当者は、静かに聞いていた。

「ただ、日本国内の政策関係者との調整を担当していると聞いていました」

「名前は?」

男性は、首を横に振った。

「正式な名前は知りません」

そして、続けた。

「……ですが、H-3より上に、もう一つ承認経路がありました」

担当者のペンが止まった。

「……もう一つ?」

男性は、うなずいた。

「はい」

「どのようなものですか?」

男性は、手元の紙に短い文字を書いた。

『中央連絡室』

担当者は、その文字を見つめた。

「……これは、組織名ですか?」

男性は、静かに答えた。

「内部文書では、そう呼ばれていました」

「政府機関ですか?」

男性は、首を横に振った。

「分かりません。ただ、華龍国際情報研究有限公司の通常の業務部門ではありませんでした」

担当者は、うなずいた。

「……重要な情報です」

男性は、静かに続けた。

「……それと、もう一つあります」

「何でしょう?」

男性は、担当者を見た。

「日本で今起きている、黒崎総理への権限集中を求める動きです」

担当者の表情が変わった。

「……それについても、情報をお持ちですか?」

男性は、うなずいた。

「計画書に、書かれていました」

* * *

午前11時08分。

警視庁。

滝沢修一(たきざわしゅういち)は、外務省からの速報を読んでいた。

「……権限集中を求める世論形成」

捜査員がうなずいた。

「はい。海外の情報提供者が、関連する計画書を見たと証言しています」

滝沢は、資料をめくった。

「内容は?」

「政府への不信を広げたあと、危機対応を理由に、特定の政治指導者への権限集中を求める世論を形成するというものです」

滝沢は、顔を上げた。

「……黒崎総理への権限集中か?」

「その可能性があります」

「ただし、実際の集会や署名活動が、その計画によって動いているとは限らない」

捜査員は、うなずいた。

「はい」

滝沢は、資料を閉じた。

「……国民が自分の意思で政治的な主張をすることと、組織的な情報操作は分けて考える必要がある」

「承知しています」

滝沢は、少し考えた。

「計画書の原本を確認しよう」

「はい」

「それと、長峰啓介の動きは?」

捜査員は、別の資料を開いた。

「現在も所在を確認しています。任意の事情聴取の要請には、まだ応じていません」

滝沢は、眉を寄せた。

「……そうか」

* * *

午後0時36分。

国会議事堂。

危機対応権限に関する集中審議が始まった。

傍聴席は満席だった。

記者席にも、多くの報道関係者が集まっている。

与党議員の一人が、質問に立った。

「今回の危機を受け、国民の間では、黒崎総理により強い権限を与えるべきだという声が高まっています」

担当大臣がうなずいた。

「承知しています」

「政府として、そうした声をどう受け止めていますか?」

担当大臣は、慎重に答えた。

「国民の皆さまの不安を重く受け止めています。そのうえで、危機対応は憲法と法律に基づいて進める必要があります」

議員は、続けた。

「しかし、現行制度では対応が遅れるという指摘もあります」

「必要な制度の見直しについては、具体的な課題を整理したうえで検討します」

議員は、資料を掲げた。

「……では、総理大臣に一時的な特別権限を与える制度については?」

会場が静かになった。

担当大臣は、少し間を置いた。

「現時点で、政府としてそのような制度を決定していません」

議員は、続けた。

「私は、国民の命と生活を守るために、より迅速な意思決定ができる仕組みを検討すべきだと考えます」

その言葉に、与党席の一部からうなずく姿が見られた。

* * *

午後1時24分。

同じ国会議事堂。

野党の神谷蒼士(かみやそうし)が、質問に立った。

「政府に確認します」

神谷は、資料を掲げた。

「今回の危機を理由に、総理大臣へ包括的な権限を与えるという議論が出ています」

担当大臣は、うなずいた。

「はい」

神谷は、静かに続けた。

「しかし、そもそも総理大臣の権限は、国民が直接与えるものではありません」

会場が静かになった。

「現行憲法では、内閣総理大臣は国会の議決によって指名されます」

「はい」

「また、国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関です」

神谷は、少し間を置いた。

「……国民が望んでいるからといって、総理大臣が国会を飛ばして法律を作れるわけではありません」

担当大臣は、うなずいた。

「そのとおりです」

神谷は、続けた。

「では、政府は、そうした制度上の制約を国民に十分説明していますか?」

担当大臣は、少し考えた。

「説明を強化する必要があると考えています」

神谷は、資料を置いた。

「……私は、黒崎総理の昨日の会見を評価しています」

委員会室が静かになった。

「ただし、総理が権限集中を拒否したから安心だ、という考え方にも問題があります」

神谷は、はっきりと言った。

「政治制度は、善良な指導者が現れることを前提に作るべきではありません」

記者たちが、一斉にペンを動かした。

神谷は続けた。

「どのような人物が総理大臣になっても、権力が濫用されない仕組みを作る。それが国会の責任です」

* * *

午後2時47分。

東京都内の病院。

黒崎は、病室で国会審議を見ていた。

画面には、神谷の姿が映っている。

「……本当に、そうだな」

黒崎は、小さくつぶやいた。

そのとき、ドアがノックされた。

「総理、失礼します」

小野寺だった。

「お疲れさまです、小野寺さん」

「お疲れさまです」

小野寺は、資料を一枚差し出した。

「……海外の日本大使館に保護された情報提供者から、新しい証言が得られました」

黒崎が顔を上げた。

「……無事だったんですね」

「はい。現時点では、安全が確保された場所で事情を聞いているそうです」

黒崎は、静かに息を吐いた。

「……よかった」

小野寺は、資料を開いた。

「その人物によると、今回の情報操作には、政府への不信を広げたあと、黒崎総理への権限集中を求める世論を形成するという計画が含まれていた可能性があります」

黒崎は、しばらく黙った。

「……俺に権限を与える?」

「はい」

「……どうして?」

小野寺は、少し考えた。

「政府の対応そのものを利用する計画だとみられています」

黒崎は、資料を見た。

「……つまり、俺が強い権限を受け入れれば、それが相手の狙いになるかもしれない」

「その可能性があります。ただし、計画書の真偽や実際の関与については、まだ確認中です」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、少し考えた。

「……小野寺さん」

「はい」

「この話、国民にはまだ公表できませんね」

「はい。情報提供者の安全と、捜査への影響を考慮する必要があります」

黒崎は、静かにうなずいた。

「……そうですね」

そして、資料を閉じた。

「ならば、俺たちは、相手の計画とは関係なく、正しい手続きを守るしかありません」

小野寺は、うなずいた。

「はい」

* * *

午後4時19分。

東京都内。

ある会議室。

長峰啓介は、数人の関係者と向かい合っていた。

「……黒崎は、権限集中を拒否しています」

一人の男が言った。

長峰は、うなずいた。

「分かっている」

「では、計画は失敗ですか?」

長峰は、首を横に振った。

「……まだだ」

男は、顔を上げた。

長峰は続けた。

「黒崎本人が拒否しても、国民が求め続ければ、政治は動く」

「……しかし、国会では慎重論が強まっています」

長峰は、少し笑った。

「だからこそ、国民の不安をさらに強める必要がある」

会議室が静かになった。

長峰は、資料を開いた。

そこには、今後の情報配信に関する計画が記されていた。

『政府の危機対応能力への疑念を増幅』

『現行制度の限界を強調』

『強力な指導者による迅速な対応を求める世論形成』

男が尋ねた。

「……黒崎総理に、非常権限を受け入れさせるんですか?」

長峰は、静かに答えた。

「受け入れさせる必要はない」

「……どういうことですか?」

長峰は、資料を閉じた。

「国民が、黒崎に権限を与えることを望めばいい」

男は、少し考えた。

「……本人の意思とは関係なく?」

長峰は、うなずいた。

「そうだ」

そして、低い声で言った。

「独裁者は、自分から名乗り出るとは限らない」

* * *

午後5時53分。

警視庁。

滝沢は、長峰に関する新しい情報を確認していた。

「……今日も、関係者と会っていたようです」

捜査員が報告した。

滝沢は、うなずいた。

「内容は?」

「確認中です」

「分かった」

滝沢は、資料を閉じた。

そのとき、別の捜査員が入ってきた。

「主任。外務省から、情報提供者が提出した追加資料の概要が届きました」

「……内容は?」

「第二段階の目的について、記載があります」

滝沢は、資料を受け取った。

そこには、次の文章があった。

『危機対応権限の集中を求める世論を形成し、日本国内の政治制度に対する対立を拡大する』

滝沢は、眉を寄せた。

「……制度への対立を拡大する」

捜査員がうなずいた。

「はい」

滝沢は、静かに考えた。

「……なるほど」

「何か?」

滝沢は、資料を見た。

「……黒崎総理が権限を受け入れても、拒否しても、対立が広がれば目的の一部は達成される」

捜査員は、顔を上げた。

「……つまり、どちらでもいい?」

滝沢は、うなずいた。

「少なくとも、そういう計画だった可能性がある」

そして、静かに続けた。

「……厄介だな」

* * *

午後7時26分。

東京都内の病院。

桐生美月(きりゅうみづき)は、黒崎の病室に入った。

「……お疲れさま」

黒崎は、少し笑った。

「お疲れさま」

美月は、椅子に座った。

「……今日、ニュースすごかったね」

「うん」

「国会の前にも、人がいっぱい集まってた」

黒崎は、うなずいた。

「見たよ」

美月は、少し考えた。

「……玲司に、全部任せたいって言ってる人がいるんだね」

黒崎は、静かに答えた。

「……そうみたいだね」

美月は、黒崎の顔を見た。

「……どう思う?」

黒崎は、少し考えた。

「……ありがたいけど、困るかな」

美月は、少し笑った。

「困るんだ」

「うん」

黒崎は、静かに続けた。

「俺が全部決める国になったら、俺がいなくなったとき、どうするんだろうって」

美月は、うなずいた。

「……そうだね」

黒崎は、少し笑った。

「それに、俺だって間違えるし」

美月は、黒崎を見た。

「……玲司は、総理になってから、何か変わった?」

黒崎は、少し驚いた。

「……変わった?」

「うん」

黒崎は、少し考えた。

「……忙しくなった」

美月は、笑った。

「それは知ってる」

黒崎も笑った。

しばらくして、黒崎は静かに答えた。

「……前より、人に頼るようになったかもしれない」

美月は、顔を上げた。

「……どうして?」

「一人じゃ、できないことが多すぎるから」

黒崎は、少し笑った。

「総理になれば、何でも変えられると思ってた時期もあったけどね」

美月は、うなずいた。

「……うん」

「実際は、そんなに簡単じゃなかった」

黒崎は、窓の外を見た。

「……でも、それでいいんだと思う」

美月は、黒崎の手を握った。

「……私は、今の玲司が好きだよ」

黒崎は、少し照れたように笑った。

「……ありがとう」

* * *

午後9時14分。

東京都内。

国会前の集会は、すでに解散していた。

しかし、SNSでは新しい動画が急速に広がっていた。

黒崎の記者会見を編集した短い映像。

『私は、強い権限を持つ総理大臣になりたいのではありません』

その直後に、別の字幕が表示される。

『だからこそ、国民が権限を与えるべきだ』

動画の最後には、次の文字があった。

『黒崎玲司を、日本の最後の独裁者に』

数分後。

その動画は、複数のアカウントから同時に拡散され始めた。

* * *

午後10時38分。

華龍人民共和国。

梁文浩(りょうぶんこう)は、画面に表示された日本のSNSの動向を見つめていた。

「……反応は?」

部下が答えた。

「権限集中を求める投稿が増えています。ただし、反対意見も同時に増えています」

梁は、うなずいた。

「それでいい」

部下が顔を上げた。

「……それで、いいんですか?」

梁は、静かに答えた。

「日本が一つの答えにまとまる必要はない」

「……はい」

「むしろ、対立が続く方がいい」

部下は、黙っていた。

梁は、画面を閉じた。

「……長峰は?」

「国内側で、予定どおり動いています」

「そうか」

梁は、少し考えた。

「……ただし、情報提供者の件は問題だ」

部下は、うなずいた。

「日本大使館で保護されている可能性があります」

梁は、静かに息を吐いた。

「……遅かったか」

そして、低い声で言った。

「……ならば、計画を急ぐしかない」

* * *

午後11時47分。

東京都内の病院。

黒崎は、ベッドに横になっていた。

今日も、国会では議論が続いた。

国民の間では、自分に強い権限を与えるべきだという声が広がっている。

黒崎は、静かに考えた。

自分が望んでいない権限を、国民が求めている。

それを拒否すれば、国民の期待を裏切ることになるのだろうか。

それとも、拒否することこそ、総理大臣としての責任なのだろうか。

黒崎は、少し笑った。

「……難しいな」

そのとき、スマートフォンが震えた。

小野寺からのメッセージだった。

『明日、危機対応権限に関する重要な協議が予定されています。政府としての正式な方針を確認する必要があります』

黒崎は、画面を見つめた。

そして、ゆっくりと返信した。

『分かりました。明日、話しましょう』

送信。

黒崎は、スマートフォンを置いた。

窓の外には、東京の夜景が広がっている。

多くの人が、自分に期待している。

その期待を、裏切りたくはない。

だが。

国民が望んだとしても、受け取ってはいけない権力がある。

黒崎は、静かに目を閉じた。

明日。

その考えを、はっきりと示さなければならない。

第95話では、黒崎玲司への権限集中を求める声が広がる一方、それを利用して社会の対立を深めようとする工作の存在が明らかになりました。


また、日本大使館に保護された情報提供者の証言により、事件の背後にさらに別の承認経路が存在する可能性が浮かび上がっています。

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