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支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
第4章『独裁者の最後の決断』

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第73話 敵は国境の向こうにいる

日本各地を襲った大規模なシステム障害。

金融機関や物流企業の復旧が進む一方、黒崎総理を名指しした声明が公開され、事件は新たな局面を迎えていた。

海外の協力機関から届いた情報は、過去に別の国で発生したサイバー攻撃との共通点を示していた。

しかし、攻撃の実行者と、その背後にいる者が同じとは限らない。

そして、政府が真相を追う中、日本のある地方都市で、予想もしなかった問題が起きる。

2037年4月14日、午前5時42分。

愛知県豊田市。

「……止まった?」

自動車部品工場の製造ラインで、一人の作業員が声を上げた。

目の前では、部品を運ぶ搬送設備が停止していた。

「おい、どうした!」

班長が駆け寄る。

「搬送指示が来ません!」

「機械の故障か?」

「いえ、設備そのものは動きます。でも、生産管理システムから次の指示が届かないんです!」

班長は、壁に設置されたモニターを見た。

画面には、赤い警告が表示されていた。

『生産指示データ取得失敗』

『外部システムとの通信待機中』

班長は、無線機を手に取った。

「管理室! こちら第三ライン! 生産管理システムの状況を確認してくれ!」

数秒後、返答があった。

『第三ラインだけじゃありません! 第一、第二ラインも停止しています!』

班長の表情が変わった。

「……全部か?」

『はい!』

工場内に、緊張が走った。

* * *

午前6時15分。

同じ工場の管理室。

「外部の物流システムとの連携が切れています」

システム担当者が説明した。

工場長は、腕を組んだ。

「復旧は?」

「まだ見通しが立っていません」

「昨日のサイバー攻撃と関係があるのか?」

担当者は、首を振った。

「分かりません。直接の原因は、まだ確認できていません」

工場長は、窓の外を見た。

出勤してくる従業員たち。

駐車場には、次々と車が入ってくる。

「……このままだと、今日の生産計画が全部狂うぞ」

担当者は、うなずいた。

「はい」

工場長は、静かに言った。

「手作業で対応できる工程を確認してくれ」

そして、続けた。

「従業員を、ただ待たせるわけにはいかない」

* * *

午前7時20分。

首相官邸。

「総理。新たな障害が確認されました」

小野寺航(おのでらわたる)が、資料を差し出した。

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、ページをめくった。

「……製造業ですか?」

「はい。愛知県内の複数の工場で、生産管理システムの障害が発生しています」

黒崎は、顔を上げた。

「昨日の攻撃と関係があるんですか?」

「現在、調査中です」

黒崎は、資料を見つめた。

金融。

物流。

そして、製造業。

日本の経済を支える分野で、障害が続いている。

「……現地の企業には、どのような支援ができますか?」

小野寺は、答えた。

「関係省庁を通じて、技術的な情報提供や復旧支援の調整を進めています」

黒崎は、うなずいた。

「お願いします」

そして、続けた。

「企業だけでなく、従業員への影響も確認してください」

小野寺は、少し驚いた表情を見せた。

「従業員ですか?」

「はい」

黒崎は、静かに言った。

「工場が止まれば、そこで働く人たちの生活にも影響します」

* * *

午前8時30分。

首相官邸、国家安全保障に関する会議。

関係閣僚と担当者が集まっていた。

「海外の協力機関から届いた分析結果をご報告します」

担当者が、画面を表示した。

そこには、過去数年間に発生した複数のサイバー攻撃事例が並んでいた。

「今回、日本国内で確認された不審な活動の一部には、過去に欧州やアジアの企業を標的とした攻撃と共通する特徴があります」

黒崎は、尋ねた。

「……同じ攻撃者ということですか?」

担当者は、首を振った。

「断定はできません。攻撃手法や使用されたプログラムの一部が似ていても、別の攻撃者が模倣した可能性があります」

黒崎は、うなずいた。

「では、共通点があるという段階ですね」

「はい」

担当者は、続けた。

「ただし、今回の攻撃には、通常の金銭目的の犯罪とは異なる特徴も見られます」

黒崎が顔を上げる。

「……どういうことですか?」

「現時点で確認できた範囲では、金銭を要求する通知がありません」

黒崎は、少し考えた。

「……お金が目的ではない可能性がある」

「はい。ただし、別の目的があると断定できる段階でもありません」

会議室が静かになった。

黒崎は、資料を見つめた。

「……日本の経済活動を混乱させること自体が目的だとしたら」

担当者は、うなずいた。

「その可能性も、調査対象に含めています」

* * *

午前10時05分。

東京都内、立憲未来党本部。

神谷蒼士(かみやそうし)は、テレビのニュースを見ていた。

『製造業にもシステム障害拡大』

『政府、海外機関と情報共有』

『攻撃主体の特定には至らず』

若手議員が、資料を持って入ってきた。

「神谷さん。政府への追及方針ですが」

神谷は、顔を上げた。

「はい」

「今回の件、黒崎政権の情報公開政策に問題があったのではないか、という意見が党内で出ています」

神谷は、眉をひそめた。

「……根拠は?」

「まだ、具体的なものはありません」

神谷は、静かに答えた。

「なら、その主張はしない方がいい」

若手議員は、少し驚いた。

「ですが、政権を追及する機会では?」

神谷は、首を振った。

「根拠のない批判をすれば、必要な追及まで信用されなくなる」

そして、続けた。

「政府に確認すべきことは、別にあります」

神谷は、資料を開いた。

「被害を受けた企業への支援」

「政府機関の防御体制」

「国民への情報公開」

「そして、必要な対策を進める際の法的な根拠」

若手議員は、うなずいた。

神谷は、静かに言った。

「……野党は、政府の失敗を願う仕事じゃない」

* * *

午後0時30分。

愛知県豊田市。

工場の休憩室。

「……今日、どうなるんですかね」

若い従業員が、弁当を開きながら言った。

隣にいたベテラン作業員は、首を振った。

「分からんな」

「ラインが止まったままだと、残業もなくなりますよね」

「そうだな」

若い従業員は、少し黙った。

「……来月、子どもが生まれるんです」

ベテラン作業員が、顔を上げた。

「そうだったな」

「残業代が減ると、ちょっと厳しくて」

ベテラン作業員は、しばらく考えた。

そして、静かに言った。

「……早く直ってほしいな」

二人は、黙って弁当を食べた。

テレビでは、黒崎総理の映像が流れていた。

『政府、企業への復旧支援を強化』

若い従業員は、画面を見た。

「……総理、何とかしてくれますかね」

ベテラン作業員は、少し笑った。

「総理一人で、機械は直せんだろ」

そして、続けた。

「でも、困ってる人間がいることは、分かってほしいな」

* * *

午後2時15分。

首相官邸。

「総理。企業側から、支援要請が届いています」

小野寺が報告した。

黒崎は、うなずいた。

「内容は?」

「復旧に必要な技術情報の共有と、関係事業者間の調整です」

黒崎は、資料を見た。

「……政府が直接、企業のシステムを操作するわけではないんですね」

「はい。基本的には、各事業者が復旧作業を行います」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、続けた。

「政府ができる範囲で、情報共有を支援してください」

そのとき、別の担当者が口を開いた。

「総理。今回の件を受けて、政府のサイバー防御権限を強化すべきだという意見が出ています」

黒崎は、顔を上げた。

「……具体的には?」

「一定の条件下で、政府が民間ネットワークの通信情報をより広く分析できるようにする案です」

黒崎は、少し考えた。

「……それは、通信の秘密との関係を整理する必要がありますね」

担当者は、うなずいた。

「はい」

黒崎は、はっきりと言った。

「必要性は検討してください。ただし、権限の範囲と監督の仕組みをセットで示してください」

* * *

午後4時40分。

東京都内、国民会計党本部。

「総理。支持者の間で、今回の攻撃について強い反応が出ています」

片岡が、資料を差し出した。

黒崎は、ページをめくった。

『日本を攻撃する外国勢力を許すな』

『黒崎総理に強い権限を』

『政府はもっと積極的に対処すべきだ』

黒崎は、静かに資料を閉じた。

「……気持ちは分かります」

片岡は、うなずいた。

「はい」

黒崎は、続けた。

「ただ、国民の怒りを利用して、何でもできる政府を作るわけにはいきません」

片岡は、少し考えた。

「……ですが、今回のような攻撃に対応するには、政府の権限強化が必要になるかもしれません」

黒崎は、うなずいた。

「その可能性はあります」

そして、続けた。

「だからこそ、必要な権限と、必要ではない権限を分けて考えましょう」

* * *

午後6時10分。

首相官邸。

「総理。海外の協力機関から、追加情報です」

小野寺が、タブレットを差し出した。

黒崎は、画面を見た。

そこには、過去の攻撃事例と、今回の不審な活動の比較が表示されていた。

「……何か分かったんですか?」

小野寺は、うなずいた。

「今回の活動の一部について、過去に特定の攻撃グループが使用したとされるプログラムと、共通する特徴が確認されました」

黒崎は、尋ねた。

「……そのグループは、どこの国の組織ですか?」

小野寺は、慎重に答えた。

「海外では、ある国家との関係を疑う分析があります。ただし、公開情報だけでは、その関係を確定できません」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、続けた。

「……つまり、今の段階で国家による攻撃だと発表することはできない」

「はい」

黒崎は、静かに言った。

「では、引き続き証拠を集めてください」

* * *

午後8時25分。

東京都内、民間企業のオフィス。

高瀬は、JAPAN LEDGERに掲載する説明文を確認していた。

『当サイトは、政府から独立した民間サービスです』

『政府の内部システムへのアクセス権限はありません』

『公開資料をもとに、財政情報を整理しています』

高瀬は、文章を読み終えた。

「……これでいい」

隣のエンジニアが、うなずいた。

「公開しますか?」

「うん」

高瀬は、少し考えた。

そして、続けた。

「……今回の件で、分かったことがある」

「何ですか?」

高瀬は、画面を見た。

「情報を公開するだけじゃ、足りないんだな」

エンジニアは、首をかしげた。

高瀬は、静かに言った。

「正しい情報があっても、間違った情報の方が早く広まることがある」

そして、続けた。

「……だから、分かりやすく伝えることも必要なんだ」

* * *

午後10時50分。

首相官邸。

黒崎は、最新の被害状況を確認していた。

金融機関の多くのサービスは、復旧が進んでいた。

物流企業でも、通常運用に戻る拠点が増えていた。

製造業の一部では、依然として障害が続いていた。

黒崎は、資料を閉じた。

「……少しずつ、戻っていますね」

小野寺が、うなずいた。

「はい」

そのとき。

小野寺のスマートフォンが鳴った。

「……はい」

数秒後。

小野寺の表情が変わった。

「……総理」

黒崎が顔を上げた。

「どうしました?」

小野寺は、静かに答えた。

「外務省から、緊急の連絡です」

黒崎は、立ち上がった。

「……何があったんですか?」

小野寺は、資料を差し出した。

「日本政府に対して、海外のある政府から正式な照会が届きました」

黒崎は、眉をひそめた。

「……照会?」

「はい」

小野寺は、続けた。

「今回のサイバー攻撃について、日本政府が自国の関与を疑っているのではないか、と」

黒崎は、しばらく黙った。

「……こちらから、名指しはしていませんよね」

「はい」

「では、なぜ?」

小野寺は、静かに答えた。

「海外メディアの報道を受けて、確認を求めているようです」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、続けた。

「事実に基づいて回答してください」

小野寺が、頭を下げた。

「承知しました」

* * *

午後11時40分。

首相官邸、総理大臣執務室。

黒崎は、一人で窓の外を見ていた。

東京の街には、いつもどおりの明かりが灯っていた。

しかし、その裏側では、見えない攻撃が続いていた。

黒崎は、静かにつぶやいた。

「……敵は、どこにいるんだ」

国境の向こうなのか。

国内なのか。

あるいは、複数の組織が別々の目的で動いているのか。

まだ、分からなかった。

そのとき、机の上の電話が鳴った。

黒崎は、受話器を取った。

「黒崎です」

『総理。緊急のご報告です』

声は、国家安全保障に関わる担当者だった。

「どうしました?」

『今回の不審な活動について、新たな情報が確認されました』

黒崎は、顔を上げた。

「……何ですか?」

担当者は、少し間を置いた。

そして、静かに言った。

『攻撃に使われたとみられる一部の通信基盤について、海外の特定の組織が過去に利用していたものと、関連する可能性があります』

黒崎は、眉をひそめた。

「……その組織は?」

担当者は、慎重に答えた。

『現在、複数の国の関係機関と照合中です』

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、続けた。

「……確認できた事実だけを、報告してください」

『承知しました』

電話が切れた。

黒崎は、しばらく受話器を見つめていた。

そして、静かにつぶやいた。

「……日本を狙っているのは、誰なんだ」

その問いに答えられる者は、まだ誰もいなかった。

しかし、翌朝。

日本政府は、これまでとはまったく異なる形の脅威に直面することになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、サイバー攻撃の影響が製造業にも広がり、政府が海外の協力機関と連携して調査を進める様子を描きました。

攻撃元を特定できない中で、政府は国民生活を守るための対応を迫られています。

次回は、サイバー空間での攻撃に加え、現実の社会にも新たな動きが現れ始めます。

黒崎政権に向けられた脅威は、次第にその姿を変えていきます。

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