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支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
総理大臣・黒崎玲司

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第60話 総理に逆らった三人の議員

所得税控除の拡大をめぐり、連立与党内で対立が表面化した。

年内の法案提出を求める四十七人の議員。

その中には、黒崎が率いる国民会計党の議員も三人含まれていた。

総理大臣の方針に反対した仲間を、どう扱うのか。

黒崎玲司は、党代表としての決断を迫られる。

2036年10月26日、午前9時。

国民会計党本部、会議室。

「……なぜ、私に相談しなかったんですか?」

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、向かいに座る三人の議員に尋ねた。

怒鳴ることはなかった。

しかし、その声には普段と違う重さがあった。

三人のうち、最初に口を開いたのは、二期目の男性議員だった。

「総理に相談しても、止められると思ったからです」

黒崎は、少しだけ眉を動かした。

「……そうですか」

「私たちは、減税を実現すると約束して当選しました」

男性議員は続けた。

「ところが、政権発足から三か月。減税は一つも実現していません」

黒崎は、うなずいた。

「そのとおりです」

「地元では、毎日のように聞かれます。いつ税金が安くなるのか、と」

隣に座る女性議員も口を開いた。

「私も同じです。支持者から、黒崎さんは総理になって変わったと言われています」

黒崎は、その言葉を黙って受け止めた。

三人目の議員が言った。

「だから、私たちは動きました」

黒崎は、机に置かれた声明文を見た。

「……減税を求めること自体には、反対しません」

三人が顔を上げた。

「ただ、一つ確認したいんです」

黒崎は、声明の最後の一文を指さした。

『政府が年内の法案提出を明言しない場合、独自の議員立法を検討する』

「この法案の財源は、どう考えていますか?」

男性議員は答えた。

「政府が調整すべきです」

黒崎は、静かに首を振った。

「……それでは、政府案と同じ問題が残ります」

「でも、総理!」

男性議員の声が大きくなった。

「いつまで財源の話を続けるんですか!」

会議室が静まり返った。

黒崎は、しばらく黙った。

そして、答えた。

「……財源が見つかるまでです」

* * *

午前10時20分。

「総理は、国民の生活が苦しいことを忘れたんですか?」

女性議員が尋ねた。

黒崎は、首を振った。

「忘れていません」

「だったら、なぜ決断しないんですか?」

黒崎は、少し考えた。

「……私は、減税した後のことまで責任を持ちたいんです」

男性議員が、腕を組んだ。

「そんなことを言っていたら、何も変わりませんよ」

黒崎は、うなずいた。

「そうかもしれません」

三人が、驚いた表情を見せた。

黒崎は続けた。

「だから、皆さんの意見を聞きたいと思っています」

そして、資料を差し出した。

「六千二百億円の財源を、どこから確保するか。一緒に考えてもらえませんか?」

男性議員は、資料を見た。

「……私たちに?」

「はい」

黒崎は、はっきりと言った。

「減税を実現したい気持ちは、同じですよね」

女性議員が、小さくうなずいた。

「……はい」

黒崎は続けた。

「だったら、対立するだけで終わらせたくありません」

* * *

2036年10月27日、午後1時。

国民会計党本部。

「……処分しないんですか?」

片岡誠司(かたおかせいじ)が、黒崎に尋ねた。

黒崎は、首を振った。

「現時点では、処分しません」

片岡は、ため息をついた。

「総理。党の方針に反対して、他党の議員と声明を出したんですよ」

「はい」

「これを認めれば、次からも同じことが起きます」

黒崎は、うなずいた。

「その可能性はあります」

片岡は、少し声を強めた。

「だったら、党としての規律を示す必要があります」

黒崎は、少し考えた。

「……党の規律は必要だと思います」

片岡が、うなずいた。

しかし、黒崎は続けた。

「でも、政策に異論を唱えたことだけで処分するなら、私たちは何のために国民会計党を作ったんでしょうか」

片岡は、言葉を止めた。

黒崎は続けた。

「私は、国会議員が自分の考えを持つことを、悪いことだとは思いません」

「……では、何でも自由にするんですか?」

黒崎は、首を振った。

「いいえ。党として合意した手続きや、国会での採決方針は守ってもらいます」

そして、続けた。

「でも、その方針を決める前に異論を出すことまで、禁止したくありません」

片岡は、しばらく黙った。

「……総理らしいですね」

黒崎は、少し笑った。

「そうでしょうか」

「ただし、政治はそれだけでは動きませんよ」

黒崎は、うなずいた。

「分かっています」

* * *

2036年10月28日、午前11時。

首相官邸、政策調整会議。

「……総理。所得税控除拡大案について、財源候補の整理が進みました」

森田悠介(もりたゆうすけ)が、資料を配った。

黒崎は、ページをめくった。

行政事業の重複整理。

補助金制度の統合。

政府調達の見直し。

租税特別措置の検証。

森田は説明した。

「現時点では、どれも削減額を確定できていません」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

「ただし、複数の制度について、来年度予算で見直せる可能性があります」

宮原奈緒(みやはらなお)が発言した。

「総理。租税特別措置の見直しは、慎重に進めるべきです」

黒崎は、顔を上げた。

「理由を聞かせてください」

宮原は続けた。

「企業への優遇措置を縮小すれば、税収が増える可能性があります」

「はい」

「しかし、その措置を前提に設備投資や雇用計画を立てている企業もあります」

黒崎は、うなずいた。

「……影響を確認する必要がありますね」

森田が続けた。

「それに、租税特別措置の縮小は歳出削減ではなく、税制の変更です」

黒崎は、資料に書き込んだ。

『財源の種類を明確にする』

そして、静かに言った。

「……減税のために、別の場所で増税していることを隠してはいけませんね」

* * *

2036年10月29日、午後3時。

衆議院議員会館。

神谷蒼士(かみやそうし)は、黒崎の前に座っていた。

「……総理。党内の三人を処分しなかったそうですね」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

神谷は、少し笑った。

「あなたらしい判断です」

黒崎は、苦笑した。

「批判されると思っていました」

神谷は、首を振った。

「批判はしません。ただ、心配はしています」

「何をですか?」

神谷は、資料を閉じた。

「総理の判断が、いつも正しいとは限らないことです」

黒崎は、顔を上げた。

神谷は続けた。

「今回は、三人の議員の意見にも一理あります」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

「国民は、生活が改善することを期待しています。財源の説明だけでは、いつか限界が来ます」

黒崎は、静かに答えた。

「……分かっています」

神谷は、少し間を置いた。

「だったら、期限を決めませんか?」

黒崎は、顔を上げた。

「期限?」

「年内に、何を実施できるのか。それを国民に示すんです」

黒崎は、少し考えた。

「……財源が確定していない段階で、実施を約束することはできません」

神谷は、うなずいた。

「実施を約束する必要はありません」

そして、続けた。

「判断する期限を決めるんです」

黒崎は、しばらく黙った。

神谷は続けた。

「年内に財源を確保できなければ、なぜできなかったのか説明する。それでもいいでしょう」

黒崎は、ゆっくりとうなずいた。

「……それなら、できます」

* * *

2036年10月30日、午後2時。

首相官邸、連立与党協議室。

「……年内に判断する?」

東条正臣(とうじょうまさおみ)が、黒崎に尋ねた。

黒崎は、うなずいた。

「はい」

東条は、資料を見た。

「所得税控除拡大案について、年内に実施の可否と理由を公表する」

「そのとおりです」

東条は、少し考えた。

「……実施できない可能性もあるわけですね」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

東条は、腕を組んだ。

「それでは、国民は納得しないかもしれませんよ」

黒崎は、静かに答えた。

「その可能性はあります」

そして、続けた。

「でも、判断を先延ばしにするよりは、責任を明確にできると思います」

東条は、しばらく黙った。

やがて、口を開いた。

「……分かりました」

黒崎は、顔を上げた。

「ありがとうございます」

東条は続けた。

「ただし、年内に何も決められなかった場合、我々は独自の対応を検討します」

黒崎は、うなずいた。

「承知しました」

* * *

2036年11月1日、午後4時。

首相官邸、記者会見室。

黒崎は、壇上に立った。

「本日、所得税控除拡大案について、政府としての検討期限を設定しました」

記者たちが、ペンを走らせた。

「年内に、財源と制度設計を整理し、実施の可否を判断します」

記者が手を挙げた。

「総理。年内に減税を実施するということですか?」

黒崎は、首を振った。

「いいえ。年内に判断するということです」

別の記者が尋ねた。

「総理。党内からも反対意見が出ていますが、党の結束は大丈夫ですか?」

黒崎は、少し考えた。

「……国民会計党には、さまざまな考えを持つ議員がいます」

そして、続けた。

「意見が違うこと自体は、悪いことではありません」

記者が、さらに質問した。

「では、党内の三人を処分しないのですか?」

黒崎は、うなずいた。

「現時点で、処分する予定はありません」

会場がざわついた。

黒崎は続けた。

「ただし、党として決定した方針については、全員で責任を持つ必要があります」

そして、はっきりと言った。

「私は、反対意見を言えない政党を作りたいわけではありません」

* * *

2036年11月3日、午後7時。

首相官邸、総理大臣執務室。

黒崎は、机の上に置かれた資料を見つめていた。

所得税控除の拡大。

還付型税額控除。

社会保険料負担の軽減。

消費税減税。

どれも、国民の生活を改善するための政策だった。

しかし、財源は限られている。

黒崎は、静かに息を吐いた。

「……優先順位を決めなければいけませんね」

小野寺が、うなずいた。

「はい」

その時、秘書官が入ってきた。

「総理。財務省から、来年度予算編成に関する追加資料が届きました」

黒崎は、受け取った。

表紙には、こう書かれていた。

『令和十九年度予算編成における歳出改革候補一覧』

黒崎は、ページをめくった。

そこには、複数の行政事業について、見直しの可能性が記されていた。

黒崎は、しばらく数字を見つめた。

そして、ある項目で手を止めた。

「……これは」

小野寺が、資料をのぞいた。

「どうされました?」

黒崎は、項目を指さした。

そこには、同じ目的を持つ複数の補助金制度が並んでいた。

黒崎は、静かに言った。

「……同じことに、何度も予算を付けている可能性がありますね」

小野寺は、うなずいた。

「はい。ただし、対象や目的が異なる場合もあります」

黒崎は、資料を閉じた。

「……では、一つずつ確認しましょう」

総理大臣になってから、黒崎は何度も同じ言葉を口にしていた。

確認する。

数字を見る。

説明する。

そして、判断する。

その繰り返しだった。

しかし、その積み重ねが、国を変えるために必要なのだと、黒崎は信じていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、国民会計党内の異論と、黒崎の党運営について描きました。

政党には一定の規律が必要ですが、政策について自由に議論できることも重要です。

また、減税を実現するには、財源の確保だけでなく、実施時期や対象者への影響も考える必要があります。

次回は、来年度予算の歳出改革に焦点を当てます。

黒崎政権は、国民の負担軽減につながる財源を見つけられるのでしょうか。

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