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支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
総理大臣・黒崎玲司

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第53話 九か月止まったシステムに、税金が流れていた

政府支出の透明化を進める黒崎内閣。

そんな中、ある行政システムの保守契約について、疑問を指摘する資料が届いた。

九か月間、一部の機能が停止していたにもかかわらず、保守費用は支払われていたという。

黒崎は、契約の実態を確認するため、関係省庁から説明を受けることにした。

2036年8月18日、午前10時15分。

首相官邸、総理大臣執務室。

「総理。今回の契約について、経緯をご説明します」

財務省の担当者が、資料を机に置いた。

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、向かいに座る三人の職員を見た。

「お願いします」

担当者は、資料を開いた。

「問題となっているのは、行政情報連携基盤の一部機能に関する保守契約です」

黒崎は、うなずいた。

「九か月間、停止していたと聞いています」

「はい。ただし、システム全体が停止していたわけではありません」

担当者は、構成図を示した。

行政情報連携基盤には、複数の機能があった。

省庁間のデータ転送。

認証管理。

通信監視。

そして、今回問題となったデータ変換機能。

「停止していたのは、この部分です」

担当者が指さした。

黒崎は、資料を見た。

「……では、他の機能は動いていたんですね」

「はい」

「停止していた機能についても、保守費用は支払われていたのですか?」

担当者は、少し間を置いた。

「契約上、システム全体の保守費用として支払われています」

黒崎は、顔を上げた。

「……機能ごとの金額は、分からない?」

「契約書上は、明確に分けられていません」

会議室が静かになった。

黒崎は、資料の数字を確認した。

年間保守契約額、十八億四千万円。

「……このうち、停止していた機能に関する費用がいくらなのか、確認できますか?」

担当者は、うなずいた。

「受託事業者に内訳の説明を求めることは可能です」

黒崎は、ペンを置いた。

「お願いします」

そして、続けた。

「不正があったと決めつけるつもりはありません。ただ、税金を支払った理由は説明できるようにしたいんです」

* * *

午後1時20分。

首相官邸、行政改革会議。

小野寺航(おのでらわたる)が、資料を配った。

「今回の問題は、契約内容と実際の作業を照合する必要があります」

黒崎は、うなずいた。

「具体的には?」

小野寺は、四つの項目を示した。

契約書。

作業報告書。

障害記録。

支払記録。

「この四つを比較します」

黒崎は、資料を見た。

「……それぞれ別々に管理されているんですね」

「はい。契約を担当する部署、システムを運用する部署、支払いを処理する部署が異なります」

黒崎は、少し考えた。

「では、同じ契約番号で確認できるようにすれば、調査しやすくなりませんか?」

小野寺は、うなずいた。

「そのとおりです」

そして、続けた。

「政府支出公開制度でも、契約番号と事業番号を関連付ける仕組みが必要だと思います」

黒崎は、資料に書き込んだ。

『契約・作業・支払いをつなぐ』

「……これを、試行計画に追加しましょう」

* * *

2036年8月19日、午前9時30分。

東京都千代田区、財務省。

会議室では、関係省庁の担当者と受託事業者による説明が行われていた。

黒崎は、オンラインで参加していた。

「停止していた機能について、保守作業は実施していたのでしょうか?」

黒崎が尋ねると、事業者の担当者が答えた。

「はい。機能停止中も、監視や復旧準備、セキュリティ対策を実施していました」

黒崎は、うなずいた。

「その記録はありますか?」

「ございます」

「では、確認させてください」

担当者は、画面に作業記録を表示した。

月次点検。

脆弱性情報の確認。

ログ監視。

復旧試験の準備。

黒崎は、資料を読み進めた。

「……確かに、作業は行われていますね」

事業者の担当者は、少し安心した表情を見せた。

しかし、黒崎は、次のページで手を止めた。

「……この『月次点検完了』という記録ですが」

「はい」

「停止していたデータ変換機能も、点検完了となっていますね」

担当者は、画面を確認した。

「……はい」

黒崎は、静かに尋ねた。

「停止していた機能の点検は、どのように実施したのでしょうか?」

担当者は、少し黙った。

「……確認いたします」

* * *

午後4時。

首相官邸。

「総理。追加資料が届きました」

小野寺が、ファイルを差し出した。

黒崎は、ページをめくった。

そこには、月次点検の作業内容が記されていた。

『データ変換機能:正常』

『通信状態:正常』

『処理結果:異常なし』

黒崎は、眉をひそめた。

「……停止していたはずですよね?」

小野寺は、うなずいた。

「はい」

「では、この記録は?」

小野寺は、慎重に答えた。

「現時点では、記録の作成方法に問題があった可能性があります」

黒崎は、資料を見た。

「……自動で作られた報告書ですか?」

「その可能性があります」

黒崎は、少し考えた。

「では、実際のログと照合しましょう」

小野寺は、うなずいた。

「承知しました」

* * *

2036年8月20日、午後2時。

首相官邸、関係省庁会議。

「……調査結果をご報告します」

担当者が、資料を開いた。

黒崎は、静かに聞いていた。

「月次点検報告書の一部に、前月の記載内容がそのまま残っていました」

黒崎は、顔を上げた。

「……コピーされていたということですか?」

「はい。点検項目の一部について、実際の状態が反映されていませんでした」

黒崎は、資料を見た。

「では、点検そのものが行われていなかったのでしょうか?」

担当者は、首を振った。

「他の監視作業や保守作業は実施されていました。ただし、停止機能に関する点検記録は不正確でした」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

担当者は続けた。

「契約上の義務がどの程度履行されていたかについては、追加確認が必要です」

黒崎は、静かに言った。

「……では、そこまで確認しましょう」

* * *

2036年8月21日、午前11時。

首相官邸、連立与党協議室。

「総理。この問題は、公表するべきです」

東条正臣(とうじょうまさおみ)が、はっきりと言った。

黒崎は、うなずいた。

「公表する方向で考えています」

東条は続けた。

「政府のシステムに不適切な支出があった可能性がある。国民に説明する必要があります」

黒崎は、資料を見た。

「ただし、現時点では、不適切な支出額は確定していません」

東条は、少し眉をひそめた。

「それでも、問題があったことは事実でしょう」

黒崎は、うなずいた。

「点検記録に不正確な記載があったことは、確認されています」

そして、続けた。

「でも、十八億四千万円すべてが無駄だったわけではありません」

東条は、少し黙った。

黒崎は続けた。

「正確に説明したいんです」

* * *

2036年8月22日、午後3時。

首相官邸、記者会見室。

黒崎は、壇上に立った。

「本日、行政情報連携基盤の保守契約に関する調査状況をご報告します」

記者たちが、ペンを走らせた。

「一部機能が停止していた期間について、月次点検報告書に不正確な記載があったことを確認しました」

黒崎は続けた。

「現在、契約上の義務が適切に履行されていたか、追加調査を進めています」

記者が手を挙げた。

「総理。これは、税金の無駄遣いではありませんか?」

黒崎は、少し考えた。

「……現時点では、そう断定できません」

会場が静かになった。

黒崎は続けた。

「停止していた機能についても、監視や復旧準備など、必要な保守作業が行われていた部分があります」

別の記者が尋ねた。

「では、問題はなかったということですか?」

黒崎は、首を振った。

「いいえ。点検記録が実際の状態と一致していなかったことは、問題です」

そして、はっきりと言った。

「確認できた事実と、まだ確認できていないことを分けて説明します」

* * *

2036年8月24日、午前9時。

首相官邸。

「……総理。追加調査の結果がまとまりました」

小野寺が、資料を差し出した。

黒崎は、ページをめくった。

そこには、保守契約の履行状況が整理されていた。

停止していた機能についても、監視や復旧準備などの作業は実施されていた。

一方で、一部の点検項目について、実施記録が確認できなかった。

そして、最後のページ。

『契約上の履行不足に相当する費用について、精査を進める』

黒崎は、資料を閉じた。

「……返還を求める可能性もありますか?」

小野寺は、うなずいた。

「はい。ただし、契約条項や実際の作業内容を確認したうえで判断する必要があります」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

そして、続けた。

「今後、同じことが起きないようにするには、どうすればいいでしょうか」

小野寺は、少し考えた。

「契約と作業記録を、定期的に照合する仕組みが必要です」

黒崎は、資料に書き込んだ。

『契約・作業・支払いの照合』

「……これも、政府支出公開制度に組み込みましょう」

* * *

2036年8月26日、午後6時。

首相官邸、総理大臣執務室。

「……総理。ニュースをご覧になりましたか?」

片岡が、スマートフォンを差し出した。

画面には、ニュースの見出しが表示されていた。

『政府システム保守契約、点検記録に不備』

『黒崎政権、契約履行状況の調査を継続』

『政府支出の透明化、契約管理にも拡大へ』

黒崎は、記事を読んだ。

「……まだ、調査は終わっていませんね」

片岡は、うなずいた。

「はい」

黒崎は、静かに言った。

「でも、少しずつ、見えるようになってきました」

片岡は、少し笑った。

「そうですね」

その時、秘書官が入ってきた。

「総理。会計検査院から、連絡がありました」

黒崎は、顔を上げた。

「何でしょう?」

秘書官は、資料を差し出した。

「今回の保守契約について、関連資料の提出を求めるとのことです」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました。必要な資料を、適切に提出してください」

片岡が、静かに言った。

「……会計検査院も動き始めましたね」

黒崎は、資料を見た。

「はい」

そして、続けた。

「政府が自分で調べるだけでは、足りない部分もありますから」

* * *

2036年8月27日、午前8時30分。

首相官邸。

黒崎は、次の資料を開いた。

『政府支出データ公開基盤 試行版仕様書』

そこには、新たな項目が追加されていた。

契約番号。

契約金額。

支払実績。

事業の進捗。

検査・確認状況。

黒崎は、うなずいた。

「……これなら、契約と支払いの関係が見やすくなりますね」

小野寺は、うなずいた。

「はい。ただし、すべての項目を十月の試行版で公開できるわけではありません」

黒崎は、資料を見た。

「まずは、できる範囲からですね」

「はい」

黒崎は、ペンを置いた。

「……でも、最終的には、国民が確認できるようにしたいです」

小野寺は、少し笑った。

「総理。まだまだ、やることが多いですね」

黒崎も笑った。

「そうですね」

その時、秘書官が、もう一つの資料を差し出した。

「総理。財務省から、来年度予算編成に関する説明資料が届いております」

黒崎は、受け取った。

表紙には、こう書かれていた。

『2037年度予算編成に向けた主要課題』

黒崎は、ページをめくった。

社会保障費。

国債費。

地方財政。

防衛関係費。

そして、税制改正。

黒崎は、ある項目で手を止めた。

『消費税率引き下げに伴う財政影響について』

黒崎は、静かに息を吐いた。

「……いよいよ、こちらもですね」

小野寺が、うなずいた。

「はい」

黒崎は、資料を閉じた。

政府支出の透明化。

行政改革。

そして、国民負担の軽減。

すべては、つながっていた。

黒崎は、窓の外を見た。

「……次は、税金ですね」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、政府の情報システム保守契約に関する調査を描きました。

一部機能が停止していたからといって、保守費用のすべてが不適切とは限りません。一方で、作業記録と実際の状態が一致しているかを確認することは重要です。

次回は、黒崎政権が消費税率の引き下げについて、本格的な検討を始めます。

消費税を10%から8%へ。

その財源を、どのように確保するのでしょうか。

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