↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
総理大臣・黒崎玲司

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/100

第47話 総理の椅子に値札がついた日

衆議院総選挙で三十一議席を獲得した国民会計党。

単独過半数を失った国政自由党をはじめ、各党が新たな政権の形を模索し始める。

その中心に立たされた黒崎玲司は、政治の世界で最も高価な取引を持ちかけられる。

2036年7月7日、午前9時12分。

東京都千代田区、国民会計党本部。

「三十一議席が、こんなに重いとは思いませんでした」

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、机に並べられた三通の書類を見つめていた。

差出人は、それぞれ違う。

国政自由党。

新政改革連合。

立憲未来党。

いずれも、国民会計党との政策協議を求めていた。

片岡誠司(かたおかせいじ)が、ホワイトボードに数字を書いた。

国政自由党、162。

立憲未来党、124。

新政改革連合、53。

国民会計党、31。

その他、95。

過半数、233。

「国政自由党と新政改革連合で二百十五議席。私たちが加われば二百四十六です」

森田悠介(もりたゆうすけ)が言った。

「ただし、相馬総理と東条代表は、すでに対立しています。単純に足し算できる関係ではありません」

片岡はうなずいた。

「そのとおりです」

水野彩香(みずのあやか)が尋ねた。

「立憲未来党は、どうするつもりでしょう?」

「他の野党や無所属との連携を探っています。ただ、こちらも過半数を確保できる見通しは立っていません」

黒崎は、数字を見つめた。

「……どの組み合わせでも、政策の一致が必要ですね」

片岡は、少し笑った。

「政治の世界では、必ずしもそう考える人ばかりではありません」

* * *

午前11時。

首相官邸。

相馬孝一(そうまこういち)総理大臣は、黒崎を迎えた。

「選挙、お疲れさまでした」

「ありがとうございます」

相馬は、向かいの椅子を示した。

「座ってください」

黒崎が腰を下ろすと、相馬は一枚の資料を差し出した。

『政策協力に関する基本合意案』

黒崎は、目を通した。

行政支出の透明化。

税制改革。

社会保障制度の見直し。

地方自治体の事務負担軽減。

これまで黒崎が訴えてきた政策が並んでいた。

「……私たちの政策に近いですね」

相馬はうなずいた。

「あなたの考えを、政府の政策に取り入れたい」

黒崎は、資料をめくった。

しかし、具体的な財源や実施期限は書かれていなかった。

「総理。確認してもよろしいですか?」

「もちろん」

「この合意案にある政策は、いつまでに、どの予算で実施する想定でしょうか」

相馬は、少し黙った。

「詳細は、連立協議の中で決めたい」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

相馬は続けた。

「黒崎さん。あなたには、内閣に入ってもらいたい」

黒崎は顔を上げた。

「……大臣として、ですか?」

「いや」

相馬は、黒崎をまっすぐに見た。

「副総理として、政権を支えてほしい」

黒崎は、言葉を失った。

数か月前、行政改革担当大臣への就任を断った。

今度は、副総理。

しかし、黒崎の答えは決まっていた。

「……申し訳ありません。今、この場ではお答えできません」

相馬は、少し笑った。

「そう言うと思った」

黒崎は続けた。

「党の仲間と相談します。それに、役職よりも政策の実現方法を確認したいんです」

相馬は、静かにうなずいた。

「返事を待っています」

* * *

午後2時30分。

東京都千代田区、新政改革連合本部。

「黒崎代表。よく来てくれました」

東条正臣(とうじょうまさおみ)は、笑顔で握手を求めた。

黒崎は応じた。

「お時間をいただき、ありがとうございます」

会議室には、大河内俊介(おおこうちしゅんすけ)も同席していた。

東条は、早速本題に入った。

「相馬政権は、もう限界です」

黒崎は、黙って聞いた。

「今回の選挙結果が、それを示しています」

東条は、資料を広げた。

「我々は、新しい政権を作りたい」

「どのような政策を実施するのでしょうか」

黒崎が尋ねると、東条は笑った。

「もちろん、行政改革です。国民負担も軽減する」

黒崎は、資料を読んだ。

しかし、具体的な数字は少なかった。

「財源の試算はありますか?」

「詳細は、政権を取ってから詰めればいい」

黒崎は、顔を上げた。

「……それでは、国民に説明できません」

東条の笑顔が、少し消えた。

「黒崎さん。政治には、順番があります」

「はい」

「まず政権を取る。それから政策を実現するんです」

黒崎は、首を振った。

「政策を実現するために政権が必要なのは分かります」

そして、続けた。

「でも、何を実現するか決めないまま、政権だけ取ることには賛成できません」

東条は、椅子にもたれた。

「……相変わらず、頑固だ」

黒崎は、少し笑った。

「すみません」

東条は、しばらく黙った。

そして、意外なことを言った。

「なら、あなたが総理になればいい」

黒崎は、目を見開いた。

「……え?」

東条は、はっきりと言った。

「黒崎玲司を、首班指名で支持する」

大河内も、驚いた表情を見せた。

東条は続けた。

「その代わり、新政改革連合を政権の中核に入れてもらいたい」

黒崎は、しばらく黙った。

総理大臣。

その言葉が、突然、自分に向けられた。

しかし、黒崎は尋ねた。

「……東条さんは、なぜ私を総理に?」

東条は、笑った。

「国民が、あなたを求めているからですよ」

黒崎は、その言葉を聞いて、少しだけ違和感を覚えた。

* * *

午後6時。

国民会計党本部。

「……副総理と、総理大臣?」

高瀬直樹(たかせなおき)が、思わず声を上げた。

黒崎はうなずいた。

「はい」

宮原奈緒(みやはらなお)が、厳しい表情で尋ねた。

「どちらも、政策の具体性は十分ではないんですね?」

「そうです」

西園寺健(さいおんじけん)が資料をめくった。

「相馬総理の案は、政策の方向性は近い。ただし、実施期限と財源が不明です」

朝倉理沙(あさくらりさ)が続けた。

「東条さんの案は、さらに曖昧ですね」

佐伯健太郎(さえきけんたろう)が言った。

「地方自治体への影響も、確認できません」

橘拓真(たちばなたくま)が、腕を組んだ。

「でも、総理になれる機会なんて、普通はありませんよ」

会議室が静かになった。

黒崎は、うなずいた。

「そうですね」

片岡が尋ねた。

「黒崎さん自身は、どう考えていますか?」

黒崎は、少し考えた。

「……総理になりたいかどうかではなく、総理になって何ができるかを考えたいです」

片岡は、うなずいた。

「それなら、条件を整理しましょう」

森田が、ホワイトボードに書いた。

一、政府支出の透明化を制度化する。

二、税と社会保険料の負担軽減策について、財源と効果を公表する。

三、社会保障の給付水準と地方財政への影響を検証する。

四、連立各党が政策に反対する権利を認める。

五、政治資金の透明性を確保する。

宮原が言った。

「この五つを、最低条件にしましょう」

水野がうなずいた。

「役職の話は、その後ですね」

黒崎は、全員を見た。

「……ありがとうございます」

片岡が笑った。

「今回は、ちゃんと九人で決めましたね」

黒崎も、少し笑った。

* * *

2036年7月8日、午後1時。

東京都千代田区、立憲未来党本部。

黒崎は、立憲未来党の代表と会談していた。

会談には、政策担当者として神谷蒼士(かみやそうし)も同席していた。

神谷は、今回の選挙で小選挙区では黒崎に敗れたものの、比例代表で復活当選していた。

「黒崎さん。久しぶりですね」

神谷が言った。

黒崎は、少し笑った。

「おめでとうございます。国会に戻られたんですね」

「ありがとうございます」

神谷は続けた。

「今度は、国会で議論できます」

黒崎は、うなずいた。

「楽しみにしています」

立憲未来党の代表が、口を開いた。

「黒崎代表。私たちは、相馬政権の継続には反対です」

黒崎は、黙って聞いた。

「ただし、東条さんの新政改革連合とも、政策に違いがあります」

代表は続けた。

「そこで、国民会計党を中心とした政策協議を提案したい」

黒崎は、顔を上げた。

「私たちを中心に?」

「はい」

神谷が、資料を差し出した。

「税制と社会保障について、具体的な論点を整理しました」

黒崎は、資料を読んだ。

所得税の控除拡大。

給付付き税額控除。

社会保険料の負担軽減。

地方自治体の事務負担。

そして、財源。

黒崎は、少し驚いた。

「……かなり具体的ですね」

神谷は、笑った。

「黒崎さんが、いつも数字を求めるので」

黒崎も笑った。

しかし、神谷は真剣な表情に戻った。

「ただし、私たちは、すべての減税に賛成するわけではありません」

「分かっています」

「社会保障を維持する財源は、必要です」

黒崎は、うなずいた。

「その点は、私も同じです」

神谷は続けた。

「なら、政策協議はできると思います」

* * *

2036年7月9日、午後7時。

国民会計党本部。

三つの政党との協議結果が、机に並べられていた。

相馬政権。

東条の新政改革連合。

立憲未来党。

片岡が言った。

「……どこも、私たちとの協力を求めています」

森田が、数字を確認した。

「ですが、立憲未来党と国民会計党を合わせても、百五十五議席です」

水野が続けた。

「新政改革連合を加えても、二百八議席。過半数には届きません」

黒崎は、うなずいた。

「つまり、どの案でも、他の政党や無所属との協力が必要ですね」

片岡は、資料を閉じた。

「そういうことです」

その時。

小野寺が、会議室に入ってきた。

「黒崎さん。東条代表から、追加の連絡です」

黒崎は、顔を上げた。

「何でしょう?」

小野寺は、少し緊張した表情で答えた。

「新政改革連合が、立憲未来党との協議を始めるそうです」

会議室が静かになった。

片岡が、眉をひそめた。

「……東条さんが、立憲未来党と?」

小野寺はうなずいた。

「はい」

森田が、数字を確認した。

「立憲未来党百二十四、新政改革連合五十三。合わせて百七十七」

黒崎が続けた。

「私たちの三十一を加えても、二百八ですね」

小野寺は、さらに言った。

「他の野党や無所属にも、協力を呼びかけているようです」

片岡は、静かに言った。

「……政権交代のための大きな枠組みを作るつもりですね」

* * *

2036年7月10日、午後8時。

東京都中央区。

黒崎は、会社帰りの桐生美月(きりゅうみづき)と、短い夕食を取っていた。

「……総理大臣になるかもしれないんですね」

美月が言った。

黒崎は、苦笑した。

「まだ、何も決まっていません」

「でも、ニュースでは毎日、黒崎さんの名前が出ています」

「そうですね」

美月は、箸を置いた。

「……怖くないですか?」

黒崎は、少し考えた。

「怖いですよ」

美月は、顔を上げた。

黒崎は続けた。

「もし総理になったら、自分の判断で、多くの人の生活が変わります」

「はい」

「間違えた時の影響も、今までとは比べものになりません」

美月は、しばらく黙った。

そして、静かに言った。

「黒崎さん」

「はい」

「総理になっても、分からないことは分からないって言ってくださいね」

黒崎は、少し笑った。

「……そうですね」

美月も笑った。

「全部一人で決めようとしないでください」

黒崎は、うなずいた。

「ありがとうございます」

* * *

2036年7月12日、午前10時。

東京都千代田区、国民会計党本部。

「……新しい提案が届きました」

片岡が、資料を配った。

差出人は、立憲未来党と新政改革連合。

共同で作成された政策協議案だった。

黒崎は、資料を開いた。

行政支出の透明化。

税制改革。

社会保障制度の持続可能性。

政治資金の公開。

地方自治体の事務負担軽減。

そして、最後の項目。

『次期内閣総理大臣候補については、国民会計党代表・黒崎玲司を軸に協議する』

黒崎は、手を止めた。

「……私を?」

片岡は、うなずいた。

「はい」

森田が、静かに言った。

「立憲未来党と新政改革連合が、黒崎さんを総理候補として検討することで一致したようです」

宮原が、資料を読み進めた。

「ただし、政策協定の詳細は、まだ協議中ですね」

西園寺が続けた。

「財源の数字も、十分ではありません」

黒崎は、うなずいた。

「……まだ、判断できません」

片岡が尋ねた。

「では、どうしますか?」

黒崎は、資料を閉じた。

「まず、政策の具体化を求めます」

そして、続けた。

「それと、過半数をどう確保するのかも、明確にしてもらいたいです」

片岡は、うなずいた。

「分かりました」

その時。

黒崎のスマートフォンが鳴った。

画面には、相馬総理の名前が表示されていた。

黒崎は、電話に出た。

「黒崎です」

『相馬です』

「総理。お世話になっております」

相馬は、少し間を置いた。

『黒崎さん。あなたに、一つ伝えておきたいことがあります』

黒崎は、顔を上げた。

「何でしょうか?」

相馬は、静かに言った。

『私は、次の首班指名で、あなたに投票することも考えています』

黒崎は、言葉を失った。

「……総理が、私に?」

『ただし、条件があります』

黒崎は、黙った。

相馬は続けた。

『国政自由党の一部議員が、あなたを支持する可能性があります』

黒崎は、深く息を吐いた。

『その場合、あなたには、彼らの政策も受け入れてもらう必要がある』

黒崎は、しばらく考えた。

そして、静かに答えた。

「……政策の内容を確認させてください」

電話の向こうで、相馬が笑った。

『やはり、そう言うと思いました』

通話が終わった。

黒崎は、スマートフォンを机に置いた。

片岡が尋ねた。

「……何でしたか?」

黒崎は、全員を見た。

「相馬総理も、私を首班指名で支持する可能性があるそうです」

会議室が静まり返った。

高瀬が、思わず声を上げた。

「……え?」

黒崎は、資料を見つめた。

相馬。

東条。

立憲未来党。

互いに対立していた勢力が、同じ名前を口にし始めていた。

黒崎玲司。

しかし、その理由は、それぞれ違っていた。

黒崎は、静かに言った。

「……私が総理になることが、目的になってはいけません」

片岡は、うなずいた。

「そうですね」

黒崎は、顔を上げた。

「政策を実現するために、必要な協力を考えましょう」

その時、片岡が、少し笑った。

「黒崎さん」

「はい」

「あなたは、まだ分かっていないかもしれません」

黒崎は、首をかしげた。

「何がですか?」

片岡は、はっきりと言った。

「今、日本で一番、総理大臣に近いのは、あなたかもしれないということです」

黒崎は、何も答えられなかった。

窓の外には、夏の東京が広がっていた。

会社員だった男が、国会議員になった。

仲間を集め、政党を作った。

そして今。

日本の総理大臣を決める交渉の中心に立っていた。

だが、その椅子には、まだ誰の名前も書かれていなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今回は、総選挙後の連立交渉を描きました。

各党が黒崎玲司を総理候補として検討し始めましたが、政権を成立させるには、政策の一致と衆議院での過半数確保が必要です。

次回は、首班指名を巡る交渉が最終局面へ進みます。

黒崎は、自分を総理にしようとする人々の思惑を超えて、政策で合意を作れるのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。