↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支持率0%の男が、日本を作り直すまで  作者: 霜月 七日
第2章 日本を変える男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/100

第45話 たった三十二人の反乱

衆議院が解散され、各党は一斉に選挙戦へ突入した。

国民会計党が擁立した候補者は、わずか三十二人。

大政党に比べれば、資金も組織も圧倒的に足りない。

それでも黒崎玲司は、自分たちの政策を国民に届けようとしていた。

だが、選挙戦の終盤、思いがけない事件が起こる。

2036年6月11日、午前7時42分。

東京都千代田区、国民会計党本部。

「……三十二人では、政権は取れません」

片岡誠司(かたおかせいじ)が、会議室のスクリーンを指さした。

衆議院の定数は四百六十五。

過半数は二百三十三議席。

国民会計党の公認候補者は、現職九人と新人二十三人。

合計三十二人だった。

「全員当選しても、三十二議席です」

片岡の言葉に、反論する者はいなかった。

黒崎玲司(くろさきれいじ)は、数字を見つめた。

「分かっています」

森田悠介(もりたゆうすけ)が続けた。

「選挙費用も、限られています。テレビ広告を大量に流すことはできません」

藤原真琴(ふじわらまこと)が、資料を開いた。

「全国の街頭演説を増やせば、交通費と人件費がかさみます。私たちも本業がありますから、常時対応は難しいです」

黒崎は、うなずいた。

「では、できる範囲を決めましょう」

高瀬直樹(たかせなおき)が、ノートパソコンを開いた。

「政策の説明なら、オンラインでもできる」

画面には、JAPAN LEDGERの新しいページが表示されていた。

『国民会計党 政策・財源検証』

黒崎が尋ねた。

「もう公開できるの?」

「数字の確認が終わった部分だけならね」

高瀬は、画面を切り替えた。

政策ごとの目的。

対象者。

想定費用。

財源の候補。

未解決の課題。

そのすべてが、項目別に整理されていた。

「……未解決の課題まで載せるのか」

片岡が言うと、高瀬はうなずいた。

「隠したら、今までと同じだろ」

黒崎は、少し笑った。

「公開しよう」

そして、全員を見た。

「ただし、これは党の試算であって、政府が認めた数字ではないことも明記してください」

高瀬は、親指を立てた。

* * *

2036年6月14日、午後3時。

東京都新宿区。

国民会計党の街頭演説。

黒崎の前には、数百人の聴衆が集まっていた。

「皆さん。私は、減税を約束するためだけに政治家になったわけではありません」

黒崎は、マイクを握り直した。

「働いても、お金が残らない。その理由を、国民自身が確かめられる政治にしたかったんです」

聴衆の中から、声が上がった。

「だったら、早く税金を下げてくれ!」

黒崎は、その方向を見た。

「そのために、今、財源を調べています」

「調べてばっかりじゃないか!」

別の男性が叫んだ。

周囲がざわつく。

黒崎は、言い返さなかった。

男性は続けた。

「こっちは毎月苦しいんだよ! いつまで待てばいいんだ!」

黒崎は、深く頭を下げた。

「……おっしゃるとおりです」

そして、顔を上げた。

「だからこそ、実現できる政策を作りたいんです」

黒崎は続けた。

「財源を示さずに減税を約束することはできます。でも、後で別の負担が増えたら、意味がありません」

男性は、黙った。

黒崎は、会場を見渡した。

「私たちは、すぐにできることと、時間が必要なことを分けて示します」

そして、はっきりと言った。

「できないことを、選挙のために約束しません」

拍手が起こった。

しかし、全員が拍手したわけではなかった。

腕を組んだまま立ち去る人もいた。

黒崎は、その背中を見送った。

支持を集めることと、期待に応えること。

その二つは、同じではなかった。

* * *

2036年6月17日、午後6時。

東京都千代田区、新政改革連合本部。

「黒崎は、相変わらず慎重だな」

東条正臣(とうじょうまさおみ)が、テレビの演説映像を見ながら言った。

向かいに座る大河内俊介(おおこうちしゅんすけ)は、選挙情勢の資料を広げていた。

「ですが、支持は伸びています」

「どの程度だ?」

「重点選挙区では、国民会計党の候補者が予想以上に健闘しています」

東条は、眉をひそめた。

「こちらの候補者と競合している選挙区は?」

「四つあります」

大河内は、地図を示した。

東条は、しばらく考えた。

「……黒崎に、もう一度連絡しろ」

大河内が顔を上げた。

「選挙協力ですか?」

「そうだ。今からでも候補者を一本化できれば、勝てる選挙区がある」

大河内は、首を振った。

「黒崎さんは、首班指名の条件を受け入れません」

東条は、少し笑った。

「なら、その条件は外せばいい」

大河内は、驚いた。

「よろしいんですか?」

東条は答えた。

「選挙で負ければ、首班指名も何もない」

* * *

2036年6月19日、午後8時。

国民会計党本部。

「新政改革連合から、条件を変更した提案が届きました」

小野寺が、資料を配った。

黒崎は、内容を確認した。

首班指名に関する条件は、削除されていた。

代わりに、四つの選挙区で候補者調整を行う案が記されていた。

水野彩香(みずのあやか)が言った。

「……今回は、前より現実的ですね」

西園寺健(さいおんじけん)が、資料を読み進めた。

「ただ、政策協定の内容は変わっていません」

宮原奈緒(みやはらなお)がうなずく。

「社会保障の財源について、依然として曖昧です」

佐伯健太郎(さえきけんたろう)が尋ねた。

「候補者を一本化するだけなら、政策協定と切り離せませんか?」

片岡が答えた。

「可能です。ただし、有権者には説明が必要です」

黒崎は、四つの選挙区を見た。

そこには、国民会計党の新人候補者が二人含まれていた。

介護施設で働いてきた女性。

中小企業の経営者。

二人とも、厳しい審査を通過していた。

黒崎は、資料を閉じた。

「……候補者本人の意見を聞きましょう」

片岡が尋ねた。

「党として判断しないのですか?」

「もちろん、最終的には党として判断します」

黒崎は続けた。

「でも、候補者を数字だけで動かすことはしたくありません」

* * *

2036年6月20日、午後2時。

オンライン会議。

「私は、立候補を続けたいです」

介護施設出身の女性候補者は、はっきりと答えた。

黒崎は、うなずいた。

「理由を聞かせてください」

「この地域では、介護施設の人手不足が深刻です」

女性は続けた。

「私は、その問題を訴えるために立候補しました」

画面の向こうで、彼女は資料を掲げた。

「東条さんの党の候補者は、社会保障費の抑制を主張しています。でも、何をどう減らすのか、説明していません」

黒崎は、黙って聞いていた。

女性は続けた。

「その候補者を応援することは、私にはできません」

黒崎は、うなずいた。

「分かりました」

次に、中小企業出身の男性候補者が発言した。

「私は、選挙区調整に応じてもいいと思っています」

黒崎が顔を上げた。

「理由は?」

「政策協議で、地元企業の社会保険料負担について具体的な議論をしてもらえるなら、私が立候補することだけにこだわりません」

男性は続けた。

「ただし、候補者を取り下げるだけで終わるなら、意味がありません」

黒崎は、少し考えた。

「……ありがとうございます」

二人の意見は、違っていた。

だが、どちらも、自分の言葉で説明していた。

* * *

2036年6月22日、午後5時。

国民会計党本部。

「……結論を出します」

片岡が、会議を始めた。

四つの選挙区について、個別に判断することになった。

政策が一致しない選挙区では、候補者調整を行わない。

政策協議が進み、候補者本人も納得した選挙区については、協力の余地を残す。

しかし、投票日までの時間は限られていた。

森田が言った。

「今回、正式な候補者一本化まで進めるのは難しいですね」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

片岡が、結論をまとめた。

「国民会計党としては、今回の選挙では原則として公認候補者の擁立を維持する。政策協議は選挙後も継続する」

九人が、うなずいた。

黒崎は、深く息を吐いた。

簡単な判断ではなかった。

だが、少なくとも、誰かの都合だけで候補者を動かすことは避けられた。

* * *

2036年6月24日、午前10時。

衆議院総選挙、公示日。

全国で、選挙戦が始まった。

国政自由党。

立憲未来党。

新政改革連合。

そして、国民会計党。

各党の候補者が、一斉に街頭へ立った。

黒崎は、東京第八区で第一声を上げた。

「皆さん。昨年七月、私はこの場所で、初めて国会議員になるための演説をしました」

聴衆から、拍手が起こった。

黒崎は続けた。

「その時、私には仲間がほとんどいませんでした」

そして、少し笑った。

「今は、全国に三十一人の仲間がいます」

黒崎は、聴衆を見渡した。

「しかし、人数が増えたからといって、私たちが正しいとは限りません」

会場が静かになった。

「だから、政策を見て判断してください」

黒崎は、資料を掲げた。

「私たちの政策には、必要な費用も、未解決の課題も書いてあります」

そして、はっきりと言った。

「都合の悪い数字も、隠さない政治を始めたいんです」

拍手が広がった。

* * *

2036年6月28日、午後9時。

東京都中央区。

「……大丈夫ですか?」

桐生美月(きりゅうみづき)が、黒崎に尋ねた。

黒崎は、喫茶店の椅子にもたれた。

「少し、疲れました」

美月は、笑った。

「少し、には見えません」

黒崎も笑った。

「そうですね」

美月は、スマートフォンを見せた。

そこには、全国の国民会計党候補者の演説動画が並んでいた。

「今日、これを見ていました」

黒崎は、画面をのぞいた。

介護施設出身の女性候補者。

中小企業出身の男性候補者。

元地方公務員。

若い会社員。

それぞれが、自分の言葉で政策を語っていた。

美月は言った。

「……黒崎さんが全部話さなくても、もう大丈夫そうですね」

黒崎は、画面を見つめた。

「……そうかもしれません」

美月は、少し笑った。

「それって、いいことじゃないですか?」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

そして、少しだけ安心した表情を見せた。

* * *

2036年7月1日、午後4時。

国民会計党本部。

「……問題が起きました」

真琴が、会議室に駆け込んできた。

黒崎は、顔を上げた。

「何でしょう?」

真琴は、スマートフォンを差し出した。

画面には、動画が表示されていた。

『国民会計党、消費税ゼロを公約へ』

『黒崎代表、財源は後から考えると発言』

黒崎は、眉をひそめた。

「……こんな発言、していません」

高瀬が、すぐに動画を再生した。

画面には、黒崎によく似た声と姿が映っていた。

『消費税はゼロにします。財源なんて、後から考えればいいんです』

高瀬の表情が変わった。

「……これ、合成動画じゃないか?」

小野寺が、画面をのぞいた。

「確認できますか?」

高瀬は、動画を止めた。

「元映像を探す。音声も不自然なところがある」

真琴が続けた。

「すでに、複数のSNSで拡散されています」

黒崎は、画面を見つめた。

再生回数は、数百万回に達していた。

「……まず、事実関係を確認しましょう」

高瀬が、うなずいた。

「任せて」

* * *

同日、午後7時。

国民会計党本部。

「……元の映像が見つかった」

高瀬が、ノートパソコンを回した。

そこには、六月十四日の新宿での街頭演説が映っていた。

黒崎が、財源を示さない減税公約の危険性を説明している場面だった。

高瀬は、二つの動画を並べた。

「背景と服装は同じ。でも、口の動きと音声が一致していない箇所がある」

小野寺が、うなずいた。

「元映像の発言内容も、まったく違いますね」

真琴が尋ねた。

「すぐに否定声明を出しますか?」

黒崎は、うなずいた。

「はい」

そして、続けた。

「元の演説動画も、全編公開してください」

高瀬が、顔を上げた。

「編集なしで?」

「うん。前後の発言も含めて、確認できるようにしたい」

真琴は、すぐに作業を始めた。

* * *

2036年7月2日、午前11時。

国民会計党、緊急記者会見。

黒崎は、壇上に立った。

「昨日から拡散されている動画について、説明します」

会場が静かになった。

「動画内で、私が消費税ゼロを公約すると発言した事実はありません」

背後のスクリーンに、元の演説映像が表示された。

黒崎は続けた。

「元映像と比較した結果、映像と音声が加工されていると判断しています」

記者が尋ねた。

「誰が作成したのか、分かっていますか?」

黒崎は、首を振った。

「現時点では、分かっていません」

別の記者が質問した。

「対立政党による工作の可能性は?」

黒崎は、少し考えた。

「根拠がない段階で、特定の政党や個人を疑う発言は控えます」

そして、はっきりと言った。

「今回の問題で大切なのは、誰かを決めつけることではなく、正しい情報を確認できるようにすることです」

会見が終わると、黒崎は深く息を吐いた。

* * *

2036年7月4日、午後8時。

選挙戦、最終盤。

国民会計党本部には、全国の選挙情勢が集まっていた。

「……予想以上です」

片岡が、資料を広げた。

黒崎は、顔を上げた。

「何がですか?」

「三十二人の候補者のうち、複数の選挙区で当落線上まで来ています」

森田が続けた。

「比例代表でも、一定の支持が確認されています」

高瀬が、笑った。

「すごいじゃないか!」

しかし、片岡は慎重だった。

「まだ、投票は終わっていません」

黒崎は、うなずいた。

「そうですね」

その時。

小野寺のスマートフォンが鳴った。

「……はい」

数秒後。

小野寺の表情が変わった。

「……分かりました」

電話を切った小野寺は、黒崎を見た。

「黒崎さん。新しい情勢調査が出ました」

黒崎は、顔を上げた。

「どうでしたか?」

小野寺は、資料を差し出した。

『国政自由党、単独過半数を大きく下回る可能性』

『新政改革連合、議席拡大の見通し』

『国民会計党、結党直後ながら予想以上の支持』

黒崎は、資料を読んだ。

片岡が、静かに言った。

「……政権が変わるかもしれません」

黒崎は、顔を上げた。

「でも、私たちは三十二人です」

片岡は、うなずいた。

「はい」

そして、続けた。

「ただし、選挙後の国会で、どの政党が政権を作るか。その判断に、私たちの議席が影響する可能性があります」

黒崎は、しばらく黙った。

そして、資料を閉じた。

「……まずは、選挙結果を待ちましょう」

* * *

2036年7月5日、午後11時58分。

東京都新宿区。

選挙戦最後の演説を終えた黒崎は、事務所に戻っていた。

机の上には、一枚の紙が置かれていた。

昨年、初めて選挙に出る時に書いたものだった。

『働いても、お金が残らない。』

黒崎は、その紙を手に取った。

あの頃、自分には何もなかった。

組織もない。

資金もない。

知名度もない。

ただ、疑問だけがあった。

なぜ、働いているのに生活が苦しいのか。

なぜ、税金の使い道が分かりにくいのか。

なぜ、政治家は簡単に約束をするのか。

黒崎は、紙を机に戻した。

明日は、投票日だった。

結果がどうなるかは、分からない。

だが、少なくとも。

自分一人で始めた挑戦は、もう一人だけのものではなくなっていた。

黒崎は、部屋の電気を消した。

2036年7月6日。

国民会計党にとって、初めての総選挙が始まる。

そして、その結果は、日本の政治を大きく変えることになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

これにて、第2章「日本を変える男」は完結です。

会社員だった黒崎玲司は、無所属議員から九人の仲間を持つ政党の代表へと歩みを進めました。

しかし、政党を作ることと、国を動かすことは違います。

次回から第3章「総理大臣・黒崎玲司」が始まります。

総選挙の開票結果をきっかけに、黒崎の政治人生は、想像を超える方向へ動き出します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。