第八話 初めての評価
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
牙鼠討伐から数日。
俺は相変わらずギルドへ通っていた。
朝に依頼を受ける。
依頼を終える。
帰って剣を振る。
身体強化を試す。
ノートを書く。
寝る。
起きる。
またやる。
その繰り返しだった。
***
ギルドへ入る。
すると。
「おっ、坊主」
知らない冒険者に声を掛けられた。
「はい?」
「また依頼か」
「そうです」
「元気だな」
笑われた。
別に馬鹿にされている感じではない。
少し不思議だった。
前は視線すら向けられなかった気がする。
***
受付へ向かう。
依頼票を手に取る。
その時。
「また来たのか」
後ろから声がした。
ギルド長だった。
「はい」
「毎日いるな」
「街一番になるので」
ギルド長は鼻で笑った。
最近よく笑う。
最初より話しやすくなった気がした。
「そうか」
そして依頼票を見る。
「今日はそいつか」
「何か問題ありますか?」
「問題はねぇ」
ギルド長は腕を組む。
「ただな」
「はい」
「お前、いつになったら諦めるんだ?」
俺は少し考えた。
何をだろう。
「街一番ですか?」
「そうだ」
「諦めません」
即答だった。
するとギルド長は肩を震わせた。
笑っているらしい。
「だろうな」
***
依頼は森の巡回だった。
街道近くの安全確認。
新人向けの仕事。
魔物は少ない。
危険も少ない。
でも。
退屈ではなかった。
むしろ逆だった。
「うーん」
歩きながら考える。
身体強化について。
最近ずっと気になっている。
脚だけ強化。
腕だけ強化。
必要な時だけ使う。
そこまでは上手くいっていた。
でも。
「まだ無駄がある気がする」
感覚だった。
説明できない。
でも何かが足りない。
***
森の中。
木の枝を見つける。
拾う。
振る。
「……」
身体強化。
腕。
発動。
止める。
発動。
止める。
発動。
止める。
何度も繰り返す。
「難しいな」
一瞬だけ流そうとしても。
少し遅れる。
少し早すぎる。
思った場所へ魔力が行かない。
理想通りにならない。
だから。
何度も試す。
何度も。
何度も。
***
その帰りだった。
茂みが揺れる。
音。
「……」
立ち止まる。
講習会を思い出す。
『音を聞け』
『違和感を見逃すな』
剣へ手を伸ばす。
すると。
飛び出してきた。
野犬だった。
しかも二匹。
「っ!」
一匹ではない。
予想外だった。
飛び掛かってくる。
***
身体強化。
脚。
一瞬。
後ろへ下がる。
回避。
成功。
すぐに二匹目。
右側から来る。
腕。
一瞬だけ強化。
剣を振る。
浅い。
足りない。
野犬が吠える。
再び飛び掛かる。
「くっ」
まだ遅い。
もっと速く。
もっと正確に。
そう思った瞬間だった。
身体強化を流した。
いつもより短く。
もっと短く。
本当に一瞬だけ。
「――っ!」
剣が走る。
野犬が吹き飛ぶ。
自分でも驚いた。
「今のは……」
強かった。
明らかに。
いつもより。
***
戦闘はすぐ終わった。
二匹討伐。
怪我なし。
初めてだった。
実戦で。
感覚ではなく。
確かな成長を感じたのは。
「できるかもしれない」
思わず呟く。
街一番。
まだ遠い。
とても遠い。
でも。
昨日よりは近い。
そんな気がした。
***
ギルドへ戻る。
報告を終える。
すると。
ギルド長が呼び止めた。
「坊主」
「はい」
「怪我しねぇな」
妙な感想だった。
「はい」
「普通は新人ってのは一回くらい大怪我する」
「そうなんですか」
「ああ」
ギルド長は俺を見る。
少しだけ真面目な顔だった。
「ちゃんと話聞いてるからだろうな」
少し意外だった。
褒められた気がした。
たぶん。
初めてだった。
冒険者になってから。
ちゃんと評価されたのは。
「ありがとうございます」
頭を下げる。
するとギルド長は顔を逸らした。
「別に褒めてねぇ」
そう言うけど。
少しだけ嬉しそうだった。
***
その夜。
ノートを開く。
今日の戦闘を書く。
『二匹同時』
『回避成功』
『身体強化をもっと短くしたら威力上昇』
『理由不明』
最後の一文で止まる。
理由が分からない。
でも。
分からないなら調べればいい。
試せばいい。
また失敗して。
また考えればいい。
それだけだ。
俺はノートを閉じた。
窓の外を見る。
遠く。
王都の方向。
当然見えるはずはない。
それでも。
銀色の髪を思い出した。
「待っててください」
小さく呟く。
街一番になる。
絶対に。
そう決めた。
お読み頂き、ありがとうございます。




