第七話 試してみる
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
講習会から三日後。
俺は森の中を歩いていた。
Eランク依頼。
今回は薬草採取ではない。
角兎より少し危険な害獣駆除。
畑を荒らす牙鼠の群れだった。
魔物ではない。
だが数が多い。
噛まれれば怪我をする。
油断すると囲まれる。
そんな相手らしい。
***
森を歩きながら考える。
講習会で聞いた話。
帰ってから書き留めた内容。
何度も読み返した。
特に覚えていたのは一つ。
『生き残る奴が強い』
講師の言葉だった。
最初はよく分からなかった。
でも今は少し分かる。
死んだら終わりだ。
どれだけ強くても。
だから。
無理をしないことも強さなのだろう。
「たぶん」
まだ自信はない。
でも覚えておこうと思った。
***
やがて牙鼠の巣を見つける。
木の根元。
穴がいくつも空いている。
周囲には齧られた野菜。
依頼書通りだった。
「いた」
音を立てないよう近付く。
すると。
地面が動いた。
牙鼠だ。
一匹。
二匹。
三匹。
思ったよりいる。
「群れか」
講習会前までなら飛び込んでいた。
でも今日は違う。
講習会を思い出す。
『群れと戦うな』
『 群れを分けろ』
講師が言っていた。
だから。
その通りにしてみた。
***
石を投げる。
遠くへ。
カラン、と音が鳴る。
牙鼠達が反応した。
何匹かがそちらへ向かう。
残ったのは二匹。
「なるほど」
本当に減った。
少し感動する。
講師は嘘を言っていなかった。
***
一匹が突っ込んでくる。
速い。
でも。
前より落ち着いて見える。
身体強化は使わない。
ギリギリまで。
引き付ける。
そして。
牙鼠が飛び掛かった瞬間。
脚だけ強化。
体をずらす。
かわす。
今度は腕。
一瞬だけ強化。
剣を振る。
切れる。
牙鼠が倒れた。
「よし」
角兎より上手くいった。
魔力もあまり減っていない。
***
二匹目。
こちらは少し大きい。
警戒している。
様子を見ている。
俺も観察する。
講習の内容を思い出す。
『生き物には癖がある』
講師は言っていた。
すると気付いた。
右へ回る。
また右へ回る。
「右側が好きなのか」
試しに左へ回る。
すると嫌そうな動きをした。
偶然かもしれない。
でも。
試してみる価値はある。
左へ誘導する。
崩れる。
隙ができる。
剣を振る。
終わりだった。
***
静かになる。
森の風だけが聞こえる。
俺は牙鼠を見下ろした。
「倒せた」
一匹目より楽だった。
強くなったのだろうか。
少し違う気がする。
剣はそんなに上手くなっていない。
身体強化も昨日と大きくは違わない。
でも。
勝ち方が変わった。
「考えたからかな」
なんとなくそう思った。
***
依頼を終えた帰り道。
ノートを開く。
立ったまま書く。
『群れは分ける』
『正面から戦わない』
『身体強化は必要な瞬間だけ』
『牙鼠は左への動きが苦手?』
書く。
考える。
また書く。
気付けば時間を忘れていた。
***
ギルドへ戻る。
依頼達成。
報酬を受け取る。
受付嬢が耳を確認する。
「無事だったのね」
「はい」
「怪我は?」
「ありません」
「そう」
少し安心したようだった。
そして。
俺の手元を見る。
「それ何?」
「ノートです」
「ノート?」
「講習会で聞いたことを書いてます」
受付嬢が固まった。
「……講習会の内容を?」
「忘れるので」
当たり前のことを言ったつもりだった。
でも。
なぜか変な顔をされた。
***
帰宅後。
いつものように剣を振る。
身体強化を試す。
それからノートを読む。
また書き足す。
繰り返す。
ふと手が止まった。
ページの端に。
無意識に書いていた文字があった。
『街一番』
その下に。
『リリアナ様』
少し笑う。
「ちゃんと近付いてるのかな」
誰も答えない。
それでも不思議と不安はなかった。
昨日より少し強くなった。
昨日より少し賢くなった。
なら。
たぶん大丈夫だ。
そう思えた。
***
その頃。
ギルド長は受付で報告書を眺めていた。
Eランク依頼。
牙鼠駆除。
成功。
特に変わった内容はない。
だが。
最後の一文で手が止まる。
『依頼中も終始記録を取っていた』
ギルド長はしばらく黙った。
そして。
小さく笑う。
「変なガキだな」
だが。
少しだけ面白くなってきていた。
街一番になると言った少年が。
本当にどこまで行くのか。
まだ誰も知らない。
お読み頂き、ありがとうございます。




