第六話 学ぶ者
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
ギルドの片隅に掲示が出たのは、その日の朝だった。
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新人向け講習会開催
・魔物の生態
・依頼時の注意事項
・生存率向上のための基礎知識
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俺は立ち止まった。
しばらく眺める。
「講習会か」
少し考える。
そして受付へ向かった。
「参加したいです」
受付嬢が少し驚いた顔をした。
「珍しいわね」
「そうですか?」
「新人はあんまり来ないわ」
もったいないなと思った。
強くなる方法を教えてもらえるのに。
***
講習会当日。
集会室には二十人ほど集まっていた。
年齢は十代後半から二十代くらい。
俺だけが明らかに小さい。
後ろの方で声が聞こえる。
「子供じゃねぇか」
「保護者同伴か?」
「講習受ける前に帰るだろ」
笑い声。
別に気にならない。
俺は一番前に座った。
話を聞きやすそうだったから。
***
「よし、始めるぞ」
講師はベテラン冒険者らしい。
左頬に大きな傷があった。
「まず言っておく」
いきなり机を叩く。
大きな音。
皆が静かになった。
「強い奴は死なないと思ってる馬鹿がいる」
講師は言う。
「違う」
「生き残る奴が強いんだ」
俺は思わず姿勢を正した。
***
そこから話は続いた。
魔物の特徴。
群れの行動。
依頼書の読み方。
地図の見方。
応急処置。
撤退判断。
荷物管理。
食料管理。
全部初めて聞く話だった。
だから。
全部面白かった。
必死に聞く。
必死に覚える。
すると隣の男が欠伸をした。
後ろでは寝ている奴もいる。
少し驚いた。
***
一時間後。
講師が言った。
「質問ある奴」
誰も手を挙げない。
俺は挙げた。
「はい」
「何だガキ」
「魔物によって重心移動は違いますか」
一瞬。
部屋が静かになった。
講師が眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「角兎は方向転換が速かったです」
「おう」
「でも強く蹴ってるようには見えませんでした」
「だから?」
「何か別の特徴があるのかと思って」
講師は少しだけ目を細めた。
「……見てたのか」
「はい」
「普通はそこまで見ねぇよ」
そうなのだろうか。
俺はただ。
強くなりたかっただけだった。
***
講習が終わる。
皆が帰り始める。
けれど俺は席を立たなかった。
まだ聞きたいことがあったからだ。
「何だ?」
講師が面倒そうに聞く。
「身体強化についてです」
「ほう」
「ずっと使うより必要な瞬間だけ使った方が良いと思うんですが」
講師が固まった。
数秒。
黙る。
「誰が教えた」
「誰も」
「……そうか」
講師は腕を組んだ。
「面白ぇこと考えるな」
そして椅子へ腰掛けた。
「ただな」
「はい」
「お前の考えは間違ってねぇ」
俺は少し驚いた。
「本当ですか」
「ああ」
「でも難しい」
「難しい?」
「一瞬で魔力を流して一瞬で止めるんだ」
講師は笑う。
「慣れない奴は失敗する」
「なるほど」
「だから皆やらねぇ」
俺は頷いた。
やらない理由は分かった。
でも。
やる価値はありそうだった。
***
帰り道。
頭の中は講習のことでいっぱいだった。
群れ。
重心。
地形。
死角。
撤退。
身体強化。
学ぶことがたくさんある。
「面白いな」
自然と声が出た。
今まで知らなかった。
強くなる方法は剣を振るだけじゃない。
知識も強さになるんだ。
***
その夜。
机に向かう。
紙を置く。
そして初めて。
講習で聞いた内容を書き始めた。
『角兎』
『方向転換が速い』
『直線速度はそこまでではない』
『先回りできる』
『身体強化は常時より瞬間の方が効率が良い可能性』
書いて。
考える。
また書く。
気付けば夜遅くなっていた。
母さんに怒られる。
「また起きてるの!?」
「ごめん」
「寝なさい!」
「あと少しだけ」
たぶん聞いていない。
***
紙を見つめる。
字は汚い。
内容も雑だ。
でも。
なんだか大事な気がした。
強くなるために学ぶ。
学んだことを残す。
考える。
試す。
また考える。
「これなら」
街一番に近付けるかもしれない。
そう思った。
まだ。
本当に少しだけだったけれど。
お読み頂き、ありがとうございます。




