第五話 なぜ強くなるのか
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
その日から。
俺は依頼のない時間、ずっと身体強化のことを考えていた。
朝。
木の棒を振る。
身体強化を使う。
止める。
もう一度使う。
止める。
繰り返す。
「違うな……」
何かが違う。
強くはなる。
でも無駄が多い気がした。
***
数日後。
再び害獣駆除依頼。
相手は角兎。
前回と同じ。
だけど今回は試したいことがあった。
草むらの向こう。
角兎を見つける。
「……」
身体強化は使わない。
ただ近付く。
逃げられない距離まで。
そして。
飛び出した。
その瞬間だけ脚へ魔力を流す。
体が前へ飛ぶ。
角兎が驚く。
剣を振る。
今度は腕だけ。
強化。
斬る。
終わり。
***
「……あれ?」
終わってしまった。
しかも。
まだ余裕がある。
息も切れていない。
魔力も残っている。
「前より楽だ」
立ったまま考える。
昨日までなら。
もっと疲れていた。
もっと苦しかった。
でも今回は違う。
「必要な時だけ使えばいいのか」
なんとなく分かった。
でもまだ説明はできない。
感覚だった。
***
依頼を終えてギルドへ戻る。
帰り際。
ふと訓練場を見る。
冒険者達が模擬戦をしていた。
全員身体強化を使っている。
ずっと。
最初から最後まで。
「……」
見ている。
しばらく見ている。
「どうした?」
後ろから声がした。
ギルド長だった。
「身体強化です」
「あ?」
「みんな使いっぱなしなので」
「だからどうした」
俺は少し考える。
言葉にするのは難しい。
「疲れないんですか?」
ギルド長が目を瞬く。
「疲れるぞ」
「じゃあ何でずっと使ってるんですか?」
「強いからだ」
「でも」
俺は訓練場を見る。
「必要な時だけ使った方が楽だと思います」
数秒。
沈黙が流れる。
そして。
「試したのか?」
「はい」
「そうか」
ギルド長はそれだけ言った。
***
その夜。
また木の棒を振る。
脚。
腕。
肩。
脚。
腕。
脚。
腕。
何度も。
何度も。
何度も。
試す。
すると。
ふと気付いた。
身体強化にも癖がある。
腕へ流しやすい魔力。
脚へ流しやすい魔力。
苦手な流し方。
得意な流し方。
人によって違うのかもしれない。
「面白いな」
思わず笑った。
***
気付けば夜だった。
母さんに怒られる。
「また棒振ってたの?」
「うん」
「ほどほどにしなさいよ」
「分かった」
たぶん分かってない。
***
布団へ入る。
今日倒した角兎。
身体強化。
剣。
ギルド長。
いろいろ考える。
そして最後に。
銀色の髪が浮かんだ。
「リリアナ様か」
不思議だ。
会ったのはニ回だけ。
話したのも少しだけ。
それなのに。
街一番を目指している理由を考えると、最後は必ずそこへ辿り着く。
笑う。
「まあいいか」
理由なんて。
好きだからで十分だろう。
そう思いながら目を閉じた。
***
翌朝。
まだ暗いうちに目が覚める。
起きる。
剣を持つ。
そして。
また振る。
街一番になるまで。
やることは決まっていた。
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