第四話 最初の工夫
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌日。
俺はまたギルドへ来ていた。
依頼掲示板の前で腕を組む。
薬草採取は終わった。
少しだけお金も稼げた。
けれど。
街一番には全然近付いていない気がする。
「もっと戦いたいな」
そう呟く。
戦わないと強くなれない。
そんな気がした。
***
受けた依頼は害獣駆除だった。
街道近くに住み着いた角兎。
畑を荒らしているらしい。
魔物ではない。
だけど普通の兎より大きくて速い。
油断すると怪我をする。
そんな相手だった。
「初討伐依頼にはちょうどいいわ」
受付嬢が言う。
「倒せばいいんですか?」
「倒して耳を持って帰ってきて」
「分かりました」
簡単だ。
やることがはっきりしている。
俺は嫌いじゃない。
***
街の外へ出る。
草原を歩く。
しばらく進むと角兎を見つけた。
白い毛。
額から伸びる短い角。
確かに普通の兎より大きい。
「いた」
剣を抜く。
安物の鉄剣。
まだ慣れていない。
でも問題ない。
やるだけだ。
身体強化を発動する。
昨日と同じように。
全身へ魔力を流す。
体が軽くなる。
足に力が入る。
「行くぞ」
走る。
角兎もこちらに気付いた。
逃げる。
速い。
思ったよりずっと速い。
「待て!」
追い掛ける。
身体強化を維持したまま。
走る。
走る。
走る。
角兎は草原を駆け回る。
俺も追う。
そして。
「はぁっ……!」
急に身体が重くなった。
足がもつれる。
転びそうになる。
魔力切れだった。
「くそっ」
その隙に角兎は逃げていく。
見失った。
***
草原に座り込む。
息を整える。
そして考える。
「駄目だな」
昨日も同じだった。
身体強化は便利だ。
でも使い続けられない。
俺の魔力じゃ足りない。
街一番?
話にならない。
「どうすればいいんだろう」
考える。
考える。
考える。
強い魔法使いならどうするだろう。
知らない。
冒険者なら?
知らない。
でも。
俺は俺だ。
「……全部を強化する必要あるか?」
ふと。
そんな考えが浮かんだ。
***
しばらくして。
再び角兎を見つける。
今度は慎重に近付く。
深呼吸。
身体強化は使わない。
温存する。
角兎が逃げる。
同時に。
脚へだけ魔力を流した。
「っ!」
一瞬。
爆発するように加速する。
角兎との距離が縮む。
しかし。
魔力はあまり減った気はしない。
「今のは……」
驚く。
ほんの一瞬だった。
でも。
昨日よりずっと効率が良い。
もう一度。
角兎が方向転換する。
その瞬間だけ脚を強化。
追い付く。
剣を振る。
今度は腕だけ強化。
振り下ろす速度が上がる。
刃が角兎を捉えた。
角兎が倒れる。
静かになる。
***
「倒した」
初めて自分で倒した。
少し嬉しい。
でも。
それ以上に気になることがあった。
身体強化。
今の使い方だ。
ずっと使う必要はない。
必要な時だけ使えばいい。
「これなら……」
もっと戦えるかもしれない。
角兎を解体しながら考える。
脚だけ。
腕だけ。
瞬間だけ。
もっと上手いやり方がある気がする。
***
ギルドへ戻る。
角兎の耳を提出する。
受付嬢が確認する。
「達成ね」
「はい」
「どうだった?」
俺は少し考えた。
角兎は強かった。
でも。
もっと大事な発見があった。
「身体強化って面白いですね」
「え?」
「使い方を考えるのが楽しいです」
受付嬢は変な顔をした。
たぶん普通はそういう感想じゃないのだろう。
でも仕方ない。
本当にそう思ったから。
「明日も依頼受けます」
「元気ね……」
「やることがたくさんあるので」
街一番になるために。
まだまだ足りない。
剣も。
身体強化も。
知識も。
全部足りない。
だからやる。
それだけだ。
***
その夜。
寝る前に木の棒を振る。
身体強化を試す。
脚。
腕。
足。
肩。
色々試す。
上手くいく時もある。
失敗もする。
でも。
少しだけ分かった。
「ずっと使うより、必要な時だけの方が強いな」
まだ感覚だ。
理由は分からない。
理屈もない。
ただ。
確信だけはあった。
この使い方は正しい。
きっと。
もっと先へ行ける。
そう思った。
だから。
もう一度だけ木の棒を振った。
街一番への道は遠い。
でも。
昨日より一歩だけ前へ進めた気がした。
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