第二話 才能なし
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
俺は人生で初めて冒険者ギルドへ来ていた。
思っていたより大きい。
石造りの建物。
壁には巨大な魔物の頭骨。
出入りする冒険者達は皆強そうで、腰には剣や斧を下げている。
酒の匂い。
汗の匂い。
鉄の匂い。
教会とは全然違う世界だった。
「ここか」
街一番の冒険者になる場所。
そう思うと少しだけ緊張した。
でもやることは決まっている。
俺は扉を押し開けた。
***
一瞬だけ静かになった。
中にいた冒険者達がこちらを見る。
十歳くらいの子供。
場違いだったのだろう。
「おい、迷子か?」
「坊主、母ちゃん泣いてるぞ」
「依頼主の息子じゃねえのか?」
あちこちで笑い声が上がる。
別に気にならなかった。
実際まだ子供だし。
俺はそのまま受付へ向かう。
「冒険者登録したいです」
受付嬢が目を丸くした。
「あなたが?」
「はい」
「十歳?」
「そうです」
受付嬢は少し困ったような顔をした。
「冒険者は危険な仕事よ?」
「知っています」
「怪我もする」
「はい」
「死ぬかもしれない」
少し考える。
たぶん本当だろう。
でも。
「そうですね」
「なら――」
「でも」
受付嬢が言葉を止めた。
俺は続ける。
「街一番にならないといけないので」
一瞬。
受付嬢が固まった。
それから小さくため息を吐く。
「そういう年頃なのかしら……」
何のことだろう。
分からなかった。
「分かりました。登録を進めます」
「ありがとうございます」
こうして俺は冒険者になった。
Eランク。
一番下。
街一番までは、まだまだ遠い。
***
登録が終わる頃。
奥の部屋から一人の男が出てきた。
大きい。
本当に大きい。
肩幅も広いし、腕なんか俺の足より太そうだった。
顔には傷が何本も走っている。
強い。
見ただけで分かった。
周囲の冒険者達が少しだけ姿勢を正す。
「ギルド長」
受付嬢がそう呼んだ。
やっぱり偉い人だった。
ギルド長は俺を見下ろす。
「坊主」
「はい」
「冒険者になるらしいな」
「なります」
「死ぬかもしれねぇぞ」
「そうですね」
「怖くねぇのか?」
少し考える。
怖くないわけじゃない。
痛いのは嫌だし。
死ぬのも嫌だ。
でも。
「街一番にならないといけないので」
それしか答えがなかった。
ギルド長は数秒黙った。
それから少しだけ笑う。
「そうか」
馬鹿にした笑いじゃなかった。
なんとなくだけど。
試されていた気がした。
「なら好きにしろ」
「はい」
***
その後。
俺は地下の一室へ案内された。
「適性検査を行います」
受付嬢が言う。
「適性?」
「魔法の才能を見るの」
魔法。
少しだけ期待した。
街一番になるなら強い魔法の一つくらい欲しい。
火とか。
雷とか。
格好良いし。
「この水晶に触れて」
俺は言われた通り触れた。
水晶が淡く光る。
そして。
すぐ消えた。
「あれ?」
受付嬢が首を傾げる。
もう一度。
さらにもう一度。
結果は変わらない。
「どうでした?」
聞くと受付嬢は微妙な顔をした。
「えっと……」
言いづらそうだ。
そんなに悪かったのだろうか。
「属性魔法の適性なし」
「はい」
「回復魔法の適性なし」
「はい」
「補助魔法の適性もかなり低め」
「はい」
なるほど。
あまり良くないらしい。
でもまだ何かあるだろう。
そう思った。
しかし。
「魔力量も少ないわね」
そこで終わった。
沈黙。
受付嬢が申し訳なさそうに笑う。
「ごめんなさい」
「?」
「魔法の才能はほとんど無いと思う」
なるほど。
才能が無いのか。
少し残念だった。
強くなる近道かもしれなかったから。
でも。
別に終わりではない。
「他には?」
「え?」
「使えるものはありますか?」
受付嬢が瞬きを繰り返す。
「身体強化なら使えると思うわ」
「身体強化?」
「魔力で身体能力を高める技術よ」
冒険者の基本。
誰でも使える技術。
そう説明された。
「なるほど」
俺は頷く。
「それを極めればいいんですね」
「……え?」
「街一番になるなら」
魔法が無いなら別の方法を使うだけだ。
それだけの話だった。
俺は少し考える。
街一番。
冒険者。
身体強化。
きっと。
やることはたくさんある。
なんだか少し楽しくなってきた。
「分かりました」
受付嬢は何故か困った顔をしていた。
***
ギルドを出る。
昼の日差しが眩しかった。
魔法の才能は無かった。
少しだけ残念だった。
でも。
やることは変わらない。
街一番になる。
リリアナ様との約束を守る。
そのために強くなる。
それだけだ。
俺は歩きながら考える。
身体強化ってどう使うんだろう。
どうやったら強くなれるんだろう。
どうすればもっと速くなるんだろう。
考えることが増えた。
それが少し嬉しかった。
「まずは試してみるか」
そして俺はまだ知らない。
魔法の才能が無かったこと。
魔力量が少なかったこと。
それが後に。
誰とも違う戦い方を生み出すことになるなんて。
今の俺はまだ。
知らなかった。
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