第一話 初恋
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
※この作品は『初恋は最強の剣!~公爵令嬢に恋した平民は彼女の難題をすべて乗り越える~』のレオサイドになります。
レオサイドは冒険譚、リリアナサイドは恋愛、ラブコメをメインとしておりますので、ご了承ください。
まるで雪のように輝く銀髪。
それでいて、抜き身の剣のように凛とした後ろ姿。
それが、彼女との最初の出会いだった。
かっこよかった。
綺麗だった。
美しいという言葉は、きっとこういう人のためにあるんだと思った。
初めてだった。
誰かを、こんなふうに思ったのは。
初めてだった。
誰かに救われたのは。
だから。
僕は思った。
この人の隣に立ちたい、と。
◇
「好きです! 私と結婚してください!」
今思い返しても、我ながら勢いだけだったと思う。
教会の出口。
護衛達を押しのけて飛び出した。
手には朝から作った花束。
雑草だけど。
俺に用意できる花なんてそれしかなかった。
でも綺麗なやつを選んだ。
一番綺麗なやつを。
そうして。
彼女の前で片膝をついた。
すると。
「お嬢様に近づくな!」
次の瞬間。
世界が回った。
「ぐっ!?」
地面に叩きつけられる。
息が詰まる。
痛い。
めちゃくちゃ痛い。
でも。
不思議と後悔はなかった。
ちゃんと言えたから。
「ヴァル、待ちなさい」
顔を上げる。
そこには彼女がいた。
近くで見るともっと綺麗だった。
本当に同じ人間なのかなと思うくらい。
そして。
彼女は俺へ手を差し出した。
「立てる?」
一瞬だけ迷う。
自分の手が汚れていたからだ。
でも。
待たせるのも失礼だと思った。
「……はい」
そっと手を取る。
柔らかかった。
温かかった。
俺の手とは全然違った。
「痛い思いをさせてごめんなさい」
「い、いえ!」
慌てて首を振る。
痛かったのは本当だ。
でも。
そんなことはどうでもよかった。
だって。
彼女が心配してくれている。
それだけで十分だったから。
「でも、もうこんな無茶は駄目よ」
彼女が少し困ったように言う。
「今回は運が良かっただけ。貴族によっては命を落としていたかもしれないのだから」
「はい」
素直に頷く。
言われてみればその通りだ。
次からはもう少し上手くやろうと思う。
ただ。
後悔だけはしていなかった。
ちゃんと言えたから。
「それと、告白ありがとう」
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
だから。
次の言葉は少しだけ怖かった。
「でも、ごめんなさい」
胸が痛かった。
覚悟していたはずなのに。
思っていたよりずっと。
苦しかった。
当たり前だ。
好きな人に振られたのだから。
「……はい」
なんとか返事をする。
断られること自体は仕方ない。
俺には何もない。
ただ好きになっただけの子供だ。
だから。
それは分かる。
「私はあなたの気持ちに応えられないわ」
胸がぎゅっと締め付けられる。
だけど。
「もっと自分を磨いて、私なんかより素敵な人を見つけてね」
その言葉だけはよく分からなかった。
だって。
そんな人、いるんだろうか。
少なくとも。
今の俺には思いつかなかった。
だから。
気付けば口が動いていた。
「どうしたら」
彼女が目を瞬く。
「どうしたら、お嬢様に振り向いてもらえますか?」
無理だと言われるより。
何をすればいいのか知りたかった。
頑張るから。
やれることは全部やるから。
すると。
「そうね」
彼女は少し考えた。
そして。
「まずは、この街で一番の冒険者になってみなさい」
街一番の冒険者。
なるほど。
それなら分かる。
やることが決まった。
「街一番……」
思わず呟く。
難しいだろう。
大変だろう。
でも。
だから何だというのだろう。
「なります」
「え?」
彼女が聞き返した。
「俺、なります」
迷いはなかった。
やることが分かったのだ。
後はやるだけじゃないか。
「それができたら、また課題をあげるわ」
「はい」
「全部達成できたら、あなたとのことを考えてあげる」
「はい!」
「でも、いつ諦めても構わないのよ?」
「諦めません」
間髪入れず答える。
すると彼女は少し困ったような顔をした。
何か変なことを言っているんだろうか。
でも。
その顔も綺麗だなと思った。
◇
やがて彼女は馬車へ向かった。
俺は見送った。
花束を握ったまま。
ずっと。
見えなくなるまで。
そして。
馬車へ乗り込む直前。
彼女が振り返った。
一瞬だけ。
目が合う。
だから。
思わず手を振った。
大きく。
届くように。
彼女は少しだけ苦笑して。
そのまま馬車へ乗り込んだ。
扉が閉まる。
馬車が動き出す。
それでも俺は見送り続けた。
姿が見えなくなるまで。
◇
馬車が小さくなった頃。
ふと思った。
「街一番の冒険者か」
どうやったらなれるんだろう。
冒険者ギルドに行けばいいのだろうか。
訓練が必要だろうか。
よく分からない。
でも。
考える順番が違う気がした。
「まずやってみるか」
やり方は後で考えればいい。
やることは決まった。
街一番の冒険者になる。
そして次の課題をもらう。
全部達成する。
そうすれば。
いつか。
いつかきっと。
この人の隣に立てる。
そんな気がした。
◇
家に帰る。
狭い部屋。
古い机。
いつもの景色。
だけど今日は少し違って見えた。
机の上に花束を置く。
捨てるつもりだったのに。
なぜか捨てられなかった。
しばらく眺める。
そして椅子に座った。
「街一番の冒険者、か」
誰もいない部屋で呟く。
もちろん答える人はいない。
だから自分で考える。
今の俺は何も持っていない。
お金もない。
家柄もない。
才能があるかも分からない。
だけど。
目標だけはできた。
人生で初めて。
本気で叶えたいと思う目標が。
自然と笑った。
「よし」
この日。
俺の初恋は始まった。
お読み頂き、ありがとうございます。
リリアナサイド:プロローグ 幼少期の夢
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