第十二話 積み重ね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
その日。
レオはいつもより早く目を覚ました。
まだ外は暗い。
鳥の声も聞こえない。
普通なら寝ている時間だった。
だが。
目が覚めてしまったものは仕方ない。
「……よし」
布団から出る。
木剣を持つ。
庭へ出る。
そして振る。
何度も。
何度も。
何度も。
***
最近。
変わったことがある。
依頼の後。
ただ疲れるだけではなくなった。
前は剣を振る。
終わり。
身体強化を使う。
終わり。
だった。
今は違う。
考える。
試す。
書く。
また試す。
その繰り返しだった。
「ん」
木剣を振る。
腕だけ。
身体強化。
発動。
停止。
発動。
停止。
まだ遅い。
でも確実に前より速い。
***
朝食後。
ギルドへ向かう。
最近はギルドに着くと挨拶されることが増えた。
「坊主」
「おはよう」
「今日も来たのか」
最初は笑われていた。
今は少し違う。
まだ認められてはいない。
でも。
見てもらえるようになった気がした。
***
依頼掲示板を見る。
そこへ剣士の男が近付いてきた。
以前パーティを組んだ男だった。
「レオ」
「おはようございます」
「今日暇か?」
「依頼受けます」
「そうじゃなくて」
剣士は頭を掻いた。
「模擬戦しないか」
「模擬戦?」
「訓練だ」
少し考える。
実戦経験は欲しい。
強くなるためにも。
「お願いします」
即答だった。
***
訓練場。
木剣を持つ。
相手は二十代前半。
Eランクだが経験は俺よりずっと上。
「本気で来いよ」
「はい」
開始。
剣士が踏み込む。
速い。
角兎より遅い。
でも人間の動きは読みづらい。
身体強化。
脚。
一瞬。
距離を取る。
木剣が空を切った。
***
「おっ」
剣士が少し驚く。
再び来る。
今度は横薙ぎ。
回避。
腕。
一瞬だけ強化。
反撃。
届かない。
「まだ甘いな」
剣士は笑う。
強い。
本当に。
猪ほどじゃない。
でも今の俺より上だった。
***
模擬戦は十分ほど続いた。
結果。
全敗。
一回も勝てなかった。
地面に座り込む。
「はぁ……」
悔しい。
でも。
嫌じゃなかった。
理由が分かる負けだった。
***
「お前変だよな」
剣士が言う。
「そうですか?」
「普通負けたら落ち込む」
「悔しいです」
「落ち込んでねぇだろ」
確かに。
その通りだった。
「なんでだろうな」
少し考える。
そして気付いた。
「次にやることが分かるので」
「は?」
「足りないところが分かりました」
「ああ……」
剣士は遠い目をした。
「そういう奴だったな」
よく分からなかった。
***
帰宅後。
ノートを開く。
『模擬戦』
『剣士』
『人間は魔物より動きが読めない』
『反撃が遅い』
『回避後の踏み込み不足』
『改善』
書き続ける。
止まらない。
頭の中にやることがどんどん浮かぶ。
***
その時だった。
ふと。
ノートの端が目に入る。
以前書いた文字。
『街一番』
その横。
『リリアナ様』
ずっと消していない。
少しだけ笑った。
「まだ遠いな」
街一番。
今のままじゃ全然届かない。
模擬戦でも負ける。
猪にも勝てない。
でも。
最初の日よりは進んでいる。
それだけは確かだった。
***
夜。
寝る前。
窓を開ける。
風が入ってくる。
空を見上げる。
「明日は何を覚えようかな」
強くなる方法はまだたくさんある。
知らないこともたくさんある。
だから。
少しだけ楽しみだった。
街一番への道は遠い。
けれど。
その遠さすら、今は嫌いじゃなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




