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私の言葉に、リーリーはパアッと表情を明るくさせる。
「本当に? どうにかなる?」
「……必要な物が揃えば」
「やったー! シシュ様大好き!」
私は自分がどういう感情の対象なのか、わからないほど呆けていない。封印から目覚めて、自分を魔女と恐怖する者がいることはトールの態度や他の獣人の様子から察している。
ラスカはシシュを災厄の魔女と呼んだ。封印される前はそのように呼ばれたことはなかった。
つまり、そういうことなのだろう。当時私を封印した獣人たちが私のことをそのように記録した。
だから、普通ならそういった存在を恐れるだろう子供に真逆の視線を向けられるとどうしたらいいかわからなくなる。
「リーリーは私が怖くないんですか」
リーリーはきょとんとして、すぐ笑顔を浮かべる。
「シシュ様はキラキラして、怖くないよ」
「そうじゃなくて」
「無駄だぞ。リーリーは魔女の伝説に怯えない豪胆だ。望む答えは得られない」
「黙れおまえと話してない」
私とリーリーの会話を面白そうに眺めていたラスカに横から口を出され、非常に面白くない。
というか魔女の伝説って、私のことか。災厄の魔女。封印するほど疎ましかったのなら、封印場所から遠く離れた場所に居住地を移せばよかったのに。この集落とあまり離れていなかった。
五百年も経てば風景も変わるけれど、私の感覚が正しいのなら封印場所の湖からこの集落の場所までの距離は、当時の獣人たちの居住地と変わらない位置にある。規模は今より大きかったが……。
「リーリー。シシュは暫くここで過ごすから、俺がいない時には面倒を見てやってくれ」
「うん!」
「えっ。ラスカ様、リーリーだけに任せるなんてあまりにも……!」
「そうか? ……シシュ、その腕輪の着け心地は?」
「最悪。死ね」
「ほら。これなら俺が少しくらい離れていたって大丈夫だろ」
「で、ですが」
「じゃあトールが一緒にいるか? リーリーだけは不安なんだろ?」
「は……、う……、ぐ……っ」
「ほら無理するな。まったく、おまえよりもリーリーのほうが勇敢だなあ」
獣人は基本的に身体能力が人間よりも勝っている。個体差はあるが、劣ることはまずない。
そして種族名の通り獣のような特徴を持っている。耳や尻尾は見た目の通りで、他に能力的なものとして嗅覚が人間よりも鋭かったり、あらゆる感覚が人間よりも発達している。
じゃあどうして人間より下の地位に甘んじているのかというと、五百年前は魔法の存在が理由として強かった。現在の状況はどうか知らないが……。まあ獣人の人数がここまで減っているのであれば単純に兵力差があるか。それに当人たちの意識の問題もある。
力を持ちながら、彼らは争いを好まない。
話を戻して、トールだ。トールは獣人としての能力の中で第六感の部分が優れているのだと思う。
腕輪で魔法を封じられている私に対して過度な恐怖心。おそらく相手との力量差をハッキリ感じ取ったせいで、いまの役立たず状態な私に対しても必要以上に恐怖を抱くのだろう。たぶん。
そう考えればトールは獣人として優秀な部類だ。
五百年前はこういった臆病な獣人の存在がとても重要だった。当時に生まれていたら重宝されていただろう。
「じゃあ、あたしがシシュ様のお世話係ね! 決定!」
シシュはカップを置いて立ち上がると、私に手を差し伸べる。
「シシュ様のお部屋に案内するね。お着替えもしよ!」
「え、ちょっと」
「ほらほら早く!」
リーリーに手を取られ、ぐいぐいと引かれる。ラスカに横からカップを奪われ、私はリーリーの手を振り払うわけにもいかず導かれるままリビングを出た。
廊下に出て向かいに一部屋、廊下の奥にもう一部屋あって、私は奥のほうの部屋に連れて行かれた。
中は物が少なく、殺風景だ。
「ここね、ラスカ様のお部屋。今日からシシュ様のお部屋にもなるよ」
ちょっと待て。誰の部屋だと?
しかしリーリーは自分が投下した爆弾に気づくことなく部屋の隅に置いてある衣装ボックスを開く。
「サイズは色々あるんだけど、シシュ様はどのサイズなのかなあ……。あっ、これ絶対可愛いよ」
リーリーが取り出したのは黒いレースのワンピースだ。裾のほうには金糸で飾りが施されている。
サイズは確かに合う。ボックスの中を覗けば、リーリーの言う通り色々なサイズの服が入っていた。
「シシュ様のお洋服のサイズがわからないから、とりあえずいっぱい用意したんだって。大きいのはサイズ直すから、楽しみにしててね」
「……サイズ直しは誰が?」
まさかラスカとは言わないだろうな。
脳裏にあの男が針と糸を持ってせっせと作業している姿が浮かんで、なんとも言えない気持ち悪さを覚える。
「まさかあ! あのね、あたしが得意なんだ」
よかった。心底そう思った。
直しておいたぞと渡された日には……。魔力の調整ミスで暴発したとしても魔法を発動させるところだった。
私は安堵しながら身にまとっている襤褸を脱ぐ。これは封印される時に着ていた服だ。私の抵抗の痕跡が残っているこの服はあまり綺麗じゃない。五百年を共に眠っていたが、あの封印は時間を止める類のものだったようで辛うじて服の状態を維持してくれている。
時間経過するものだったら私は封印の中で寿命を迎えていた。
そっちのほうが獣人たちにとってはよかっただろうに。封印系の魔法に関しては私の勉強不足で詳しく知らないからどういう効果のものがあるのかわからないけど。
でもいま呪いだ何だと私の封印を解くまで彼らが追い詰められているのだから、私が死んでいたら獣人にとって大ダメージだったのか……。すべては結果論でしかないが。
袖を通したワンピースは生地が滑らかで着心地が良い。裾がふわりと広がる。
リビングに置いてあったフワフワなクッションもそうだが、家の寂れた感じに対して一部置いてある物が高価なように思える。
リーリーが言うにはラスカがこの服を用意したそうだが、ボックスに入っている他の服も含めて決して安くないだろう。なんだか胃がキリキリとしてきた……。集落を通る時に見た他の獣人たちもここまで高価な服を着ていなかったし、家の外観もそれほど綺麗と言えなかった。
見ればリーリーの着ている服だって裾のほうで糸がほつれている。
この集落全体で金銭的余裕があるわけではないのは確定だ。
「わあ……! シシュ様、とっても似合ってるよ」
「ありがとう。……ねえ、この部屋ってあの男の部屋っていうのは本当ですか?」
「本当だよ」
「それにしては飾りが少ない。部屋だけじゃなく家として、首領にしては……集団のリーダーとしているんでしょう、部屋数だって少ないですし」
「うーん。ラスカ様、あんまり派手なの好きじゃないみたいだし。この家も、最低限だけあればいいからって大きく造る気はしなかったんだって」
「……ふーん」
五百年という大きな時の流れが、獣人からここまで力を削ぎ落としたのか。
純粋に力が強かったって生きるためにはやはり金が必要だ。そしてその金はただボーッとしていたって降ってくるわけじゃない。
他者との交流、商売が必須。
五百年前は人間の国と対等に渡り合えるほどの力を有していたため、獣人に利益を見出した商人たちが多く訪れていたものだが……。
着替えを終えてラスカ達のいるリビングに戻ると、リーリーが私の背を押して「じゃじゃーん!」と飛び跳ねる。
ラスカは視線をこちらに向けると、目を見開き、その後頬を柔らかく崩した。
私は少々居心地が悪い。この男の着せ替え人形にでもされているみたいだ。いまはどんな悪態をついたところですべて滑稽に見えてしまうだろう。
「シシュ様もっと綺麗になった! あたしが選んだワンピースだよ!」
「リーリーよくやった」
「えへへー!」
リーリーが私の真横からぎゅうっと抱きついてくる。
私は抱きつくリーリーの頭を撫で、ついでにふわふわの耳に少し欲望を動かされ、小さな毛玉を堪能していた。くすぐったいのかリーリーは少し身体をよじるけど、私の手に自ら頭を押しつけた。
可愛い。
「リーリーは効くみたいだな」
「ラスカ様、せめて小さな声で」
「聞こえてるますよボケども」




