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EX5 sideラスカ

 エンフィの動きは迷いがなかった。

 あと少しでも制止の声が遅かったら、彼女の短剣はシシュの首を深く裂いて命を確実に刈り取っていただろう。

 瞳孔が開いているエンフィは、シシュがリーリーを助けようとしたのだと知るとその瞳に一瞬後悔を宿す。しかし瞬きの間にそれは消えた。

 彼女の行動を、シシュは当然のことと受け入れて傷つくような素振りさえなかった。

 シシュの視線は意識を失ったリーリーに向いていて、首筋の傷だけでなくもっと酷い状態になっている腕の裂傷にさえどうでもいいといった様子。


「何か妙なことをしたと判断したら、すぐ首でも何でも斬り落とせばいいです。いまさら信じてくれなんて都合のいいこと言いません。私はリーリーを助けたい。ただ、それだけなんです」


 きっぱりと言い切ったその姿に感じたのは、痛々しいほどの健気さだった。

 リーリーが懐いていてシシュもそれを悪く思っていなかったにしろ、ラスカたち獣人はシシュを五百年も湖の底に封じていた一族の末裔であるし、封印から解放されても魔封じの腕輪で自由を制限されていた。

 少しずつ打ち解けてきたと感じていたが、ラスカとシシュの関係は縛る者と縛られる者である。

 心の中までは見えない。シシュが内心ではラスカたち獣人をやはり殺したいと思っていたら、そういう懸念がわずかでもあったから、ラスカは腕輪を外すことだけは絶対にしなかったのだ。もちろん、そのことはシシュだって察していることだろう。


 それなのに、腕輪を無理矢理に破壊してでもシシュはリーリーを助けることを選んだ。

 エンフィが危険と判断してシシュを殺そうとした判断は誤っていない。その気になればすぐにでも腕輪を破壊できるとわかったシシュの危険度は、あのとき確かに跳ね上がっていた。

 ラスカも制止する直前までは、シシュの逃亡が脳裏を過ぎった。自分が動くよりもエンフィのほうが若干早いかと、瞬時に考えていたくらいだ。

 その判断が覆ったのは、リーリーに向けられたシシュの瞳に、この世の不幸をすべて詰め込んだような絶望の色が見えたからだった。


 この少女は、獣人を呪ってなんかいない。

 それどころか、人間から疎まれている獣人のことを深く愛している。


「……俺もまだまだ幼いな」


 その呟きは、シシュには届かない。

 獣人の聴力で聞こえただろうトールとエンフィだけが、同じ思いを抱えていた。

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