EX4 sideラスカ
「シシュ様、なんてお優しいんでしょう……」
えぐえぐと泣きながら呟くトールに、ラスカは苦笑を返した。
つい先日まで災厄の魔女と恐れていたのに、どうやら恐怖を上回るほど尊敬が強まったようだ。
「災厄の魔女というのは何かの間違いであったのでないかと、僕は思うんですが……」
「ああ。だが、本人があの通りだからな」
ラスカに五百年前のことなど知ることはできないから、できればシシュ本人の口から真実を知りたいのだが、彼女は頑として首を縦に振らない。しかしそれを強く追及することは逆効果だとわかっているし、何より初対面時で適切な信頼関係を築くことができなかったのはシシュだけの責ではない。
シシュの言う通り魔法を断ち斬る剣を携えて「話を聞いてくれ」と言うのは相手の警戒を強めるだけだった。
ラスカにそのつもりはなくとも、相手の喉笛に剣を添えた状態のようなものだからだ。
「幸いにも、リーリーをきっかけに徐々に態度は軟化していると思うし……」
「あとはラスカ様の余計な一言二言がなければ……」
「余計なことを言ってるつもりはないんだけどな」
たまにエンフィからも「マジかこいつ」といった冷ややかな視線を向けられることがある。
まったく心当たりがないので改善しようもないのだが、そういう心持ちもまたよくないらしい。
「でも、シシュが慌てたり素が出たり、そういうところは見ていて楽しいからなあ」
「すごく嫌がられてるじゃないですか」
「だって可愛いじゃないか」
「そういうところですよ、ラスカ様」
最近ではリーリーまでラスカの言動を嗜めることもあって、まだまだ幼いと思っていた子の成長を実感する。
まあ、改善しようと思うのだが……。言われなくなったら見限られているのと同じである。
シシュは集落に馴染み始めた。
獣人たちもだが、シシュ自身も警戒に身を固くすることなく、気の休まる時間を取れているようだ。
このまま良い交流が続いて、互いに腹を割って話せるくらいになればいいのだが……。
そう何でもかんでもうまくいくばかりではないとわかっているが、やはり明るい方向へと信じてしまいたくなる。
ラスカは獣人のリーダーだ。切り捨てるべきときはそうするしかないとわかっているが、まだそのときではない。
災厄の魔女を殺したって、呪いは解けない。
その可能性がある以上シシュをどうこうすることはできないし、シシュは災厄の魔女ではないかもしれない。
「ただ愛らしいだけの少女であってくれと、柄にもないことを思ってしまうな」
このひとりごとを、トールは目を伏せて聞き流した。
恐らく同じことを思っていた。




