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EX3 sideラスカ

 慎重に瞼を上げると、視線の先ではシシュがベッドの上で丸くなっている。監視目的もあって寝室を同じにしたのだが、魔女の墓所から連れ帰った日から何か企んでいるような様子はない。

 それにもし良からぬことを企んでいたとしてもきっとすぐわかってしまうだろう。

 ラスカはそっと立ち上がって、穏やかな寝息をたてるシシュの寝顔を眺める。


 この一見可愛らしい少女は、獣人を憎み呪う災厄の魔女。

 しかし、すべての感情が顔に出すぎている。本人は隠しているつもりのようだが。

 それにラスカからすると暴言ですらないような言葉でも、言い放った後に少し気まずそうな表情となる。

 きっと愛されて素直に育ったのだろう。


 起き出さないようにそっと部屋を出て、そのまま外へ出るとエンフィが家の前で立っていた。

 ラスカの姿を映すと、貼りつけたような笑みを浮かべる。


「とても可愛らしい方ですね」

「そう思うならもっと優しくしてやれ。おまえの殺気に怯えていたぞ」

「はい」


 エンフィは女性だが、戦闘能力に特化して成長した獣人だ。集落の荒事を担当しており、一人で魔物狩りにひょいひょい出て行くほど実力がある。加えてその性格から魔物に怯え震えることもない。

 強者と対峙することに喜びを覚えていそうな、少々面倒くさい面を持つ。


「思い描いていた災厄の魔女と、まったく違っていたもので……」


 それはラスカも思っていたことだ。

 トールは相変わらず怯えているし、魔女という印象に怯えて近寄って来ない他の獣人たちは未だにシシュを遠ざけているようだが、傍で見ているラスカからすればただの人間の少女に見える。

 極悪非道で悪辣な魔女とは思えない。

 相手を油断させるためにそう演じている場合もあったが……。


「あれは素だろうな」

「私もそう思います」


 エンフィは自分の仕事がないときは、姿を見せずにシシュを監視していた。幼いリーリーは気づかないし、当然シシュも気配に気づくことはなかった。

 ラスカの目がないときはエンフィがシシュを観察していたのだが、彼女から見てもラスカと同じ意見のようだった。


「しかし、そうは言っても封印されていたのだから災厄の魔女であるのは変わりないのでは? 魔法を使えるのは偽りではないのですから」

「そうなんだけどなあ……」


 シシュは何かを隠しているようであるし、しかしそれを打ち明けてもらえるほど信頼関係は構築できていない。


「まあまだ交流は始まったばかりだ。問題が起きないよう、見ていてやってくれ」

「はい」

「それから——」


 エンフィは優秀だ。そして同族への愛情が深い。

 だからこそ、釘はいくらでも刺しておかないといけない。


「何度も言うが、殺すなよ」

「はい」


 本当にわかってんだろうな、こいつ。

 ラスカは重い息を吐いた。見上げた空には星々が散っている。

 それらはラスカを労わるように、優しい光を放っていた。

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