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悪役令嬢妹のために悪役を演じ続けた公爵令嬢でしたが、すべてを知った辺境伯が『あなたこそ王国の宝だ』と言って離してくれません  作者: 折本装置


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3/5

三話

「私の妻として、エンヴィー様をお預かりします」



ミミクの言葉に、舞踏会場は騒然となった。



「辺境伯が悪女を娶るだと?」


「何を考えている!」


「正気か!」



 ざわめきの中、当のエンヴィーだけは困ったように首を横へ振った。



「辺境伯様、お気持ちはありがたいのですが」



 エンヴィーは全くありがたくなさそうな声音と表情で、ミミクに声をかける。



「私は悪女です。私と一緒にいると、あなたまで評判を落としてしまいますよ?」



 その声は穏やかだった。

 まるで、自分の価値など初めから決まっていると言わんばかりに。

 ミミクは顔をかすかにゆがめた。



「評判など気にしません。私はあなたに報いるべき恩があります」

「恩なら、もう返していただきましたが」

「いいえ」



 ミミクはゆっくり首を振る。



「あの日、私は命を救われました」

「ですが、あなたはその代わりに悪評を受け入れた。」



 エンヴィーは目を伏せる。


「私が選んだことです」


「ならば」


 ミミクは一歩近づいた。



「今度は私に選ばせてください。」


 その真っ直ぐな視線に、エンヴィーは思わず息を呑んだ。


 こんなふうに真正面から見つめられたのは、いつ以来だろうとそう考えて。


「王太子殿下」


 ミミクはラグラへ向き直る。


「婚約は正式に破棄された」


「ならば、この方がどなたと婚姻を結ぶかは自由なはずですね?」


 ラグラは一瞬言葉に詰まる。


「……好きにしろ。」


 そう答えながらも、彼の表情はすぐれない。

 未練か疑問か、エンヴィーにその感情の正体はわからない。

 その違和感を振り払うように、彼はバーシャの手を強く握った。


「バーシャ。」


「私は君を幸せにする。」


「……はい。」


バーシャは笑顔を作った。


けれど、その視線は姉から離れない。


姉は最後まで、自分を責める言葉を一つも口にしなかった。


幼い頃、熱を出した夜。


眠れず泣いていた自分の手を握ってくれた温もりが、不意によみがえる。


(どうして……。)


(どうして何も思い出せないの……。)


その頃。


舞踏会場の外では、一台の馬車が待機していた。


「すぐに辺境へ向かいます。」


ミミクが扉を開ける。


「長旅になります。」


「ご不便をおかけしますが。」


「……ありがとうございます。」


エンヴィーは静かに頭を下げた。


馬車が王城を離れる。


窓から見える王都は、夕日に赤く染まっていた。


(終わった。)


そう思うはずだった。


王太子妃になる未来も。


公爵令嬢としての人生も。


すべて失った。


だから胸は空っぽになるはずだった。


なのに。


「寒くありませんか。」


ミミクが自分の外套を差し出してきた。


「え?」


「辺境は夜になると冷えます。」


「先に羽織っていてください。」


「ですが……。」


「私は慣れています。」


有無を言わせぬ口調だった。


エンヴィーは戸惑いながら外套を受け取る。


ほんのりと木々の香りがした。


戦場を駆けた騎士らしい、どこか安心する匂いだった。


「辺境伯様。」


「どうして、そこまで私に親切になさるのですか。」


しばらく沈黙が流れる。


やがてミミクは、小さく笑った。


「十年間。」


「ずっと、あなたを探していたからです。」


エンヴィーは目を見開いた。


「……え?」


「あなたは私の恩人です。」


「ですが、それだけではありません。」


「あなたに、もう一度会いたかった。」


「ずっと。」


馬車はゆっくりと王都を離れていく。


そしてミミクは、まるで長年胸に秘めてきた想いを解き放つように告げた。


「エンヴィー様。」


「私は恩返しのために求婚したのではありません。」


「あなたを、一人の女性としてお慕いしています。」


エンヴィーの思考は止まった。


人生で初めて向けられた、偽りのない好意。


その言葉を、彼女はすぐには信じることができなかった。

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