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中年サラリーマンの俺だけど、会社の斜め向かいの席のギャルになぜか懐かれている  作者: 只野 唯
第2章

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第3話 恋の相談相手


 最近、遠藤によく捕まる。

 それも仕事の話ではない。

 朝倉からすると、だいたい八割くらいは余計な話だ。

 その日も昼休み直前だった。

 メールを返し終えて一息ついていると、隣の部署から遠藤がふらりとやって来た。


「朝倉さん」


 嫌な予感がした。


「なに?」

「ちょっと」


 そう言って、手招きをする。

 朝倉は眉をひそめた。


「仕事中ですけど」

「俺もです」

「じゃあ仕事してください」

「二分だけ」


 二分だけ、と言う人間を信用してはいけない。

 だいたい十分はかかる。

 それでも遠藤は諦める気がなさそうだった。

 朝倉はため息をついて席を立つ。

 会議室前の通路。

 人通りは少ない。

 山本の席からも見えるけれど、声までは届かない距離だった。


「で?」


 朝倉が腕を組む。

 遠藤はなぜか満足そうだった。


「最近どうですか」

「何が」

「山本さん」


 やっぱりそれだった。

 朝倉は額を押さえた。


「もう少し隠す努力してください」

「だって気になるじゃないですか」

「なんで」

「応援してるから」


 悪びれない。

 本当に悪びれない。


「勝手に応援しないでください」

「無理です」


 即答だった。

 遠藤は少し身を乗り出す。


「で?」

「だから何が」

「進展」


 朝倉は視線を逸らした。

 進展。

 そう言われると困る。

 ランチには行っている。

 話もする。

 前みたいに避けられてもいない。

 でも。

 それ以上はない。


「ないです」

「ないの?」

「ないです」


 遠藤は意外そうな顔をした。


「告白したんですよね」

「しました」

「山本さん嬉しいって言ったんですよね」

「言いました」

「なのに?」

「なのにです」


 遠藤はしばらく考えた。

 それから納得したように頷く。


「あー」

「何ですか」

「山本さん、自分からいかないタイプですよね」


 朝倉は思わず顔を上げた。

 その言葉が妙にしっくり来る。


「そうなんです」

「ですよね」

「なんかもう」


 言葉を探す。


「優しいんですよ」

「うん」

「ちゃんと話聞いてくれるし」

「うん」

「一緒にいて落ち着くし」

「うん」

「でも来ない」


 遠藤が吹き出した。


「来ないか」

「来ないんです」


 朝倉は真顔だった。

 遠藤は笑いながらも頷く。


「それは分かる」

「分かります?」

「めちゃくちゃ分かる」


 少しだけ真面目な顔になる。


「あの人、自分のこと後回しにするタイプでしょ」


 朝倉は黙る。

 確かにそうだ。

 仕事でもそうだった。

 誰かが困っていたら手を貸す。

 面倒な仕事も引き受ける。

 でも、自分の話はあまりしない。

 欲しいものも言わない。

 我慢することに慣れている人。


「だから」


 遠藤は続ける。


「好きだから行動する、って人じゃないと思う」


 朝倉の胸が少し重くなる。


「じゃあどうしたらいいんですか」


 気づけば聞いていた。

 遠藤は笑う。


「相談になってるじゃないですか」

「……ほんとだ」


 朝倉も少し笑った。

 遠藤は壁にもたれながら言う。


「待ってたら進まないと思います」


 その言葉は、予想以上に真っすぐだった。


「山本さんみたいな人って」

「うん」

「自分の気持ちより先に、周りのこと考えそうだし」


 朝倉は黙って聞く。


「年齢差とか」

「うん」

「会社の噂とか」

「うん」

「そういうの気にして止まるタイプ」


 全部、その通りな気がした。

 遠藤は軽い。

 でも、人を見る目は意外とあるのかもしれない。

 その時だった。


「朝倉さん」


 遠くから声が聞こえた。

 二人が振り返る。

 デスクの方から山本がこちらを見ていた。


「あ」


 朝倉は思わず姿勢を正す。


「昼行かない?」


 穏やかな声だった。

 ただランチの誘い。

 それだけなのに。

 胸がどくんと鳴る。


「行きます!」


 思わず即答する。

 山本は少し笑って席に戻った。

 遠藤が隣でにやにやしている。


「よかったじゃないですか」

「うるさい」

「でもさ」


 遠藤は小さく言った。


「今の見た?」

「何を」

「山本さん」


 朝倉が首を傾げる。

 遠藤は少し笑った。


「いや、やっぱ何でもない」


 その頃。

 山本は席に戻りながら、ほんの少しだけ眉をひそめていた。

 最近、遠藤と朝倉がよく話している。

 楽しそうに。

 距離も近い。

 内容は聞こえない。

 聞こえないけれど。

 なぜだか少しだけ気になった。

 理由は分からない。

 分からないまま、モニターに視線を戻す。

 けれど胸の奥には、小さなざわつきが残っていた。


 一方、朝倉は遠藤の言葉を反芻していた。

 ――待っていたら進まない。

 その一言が、不思議なくらい胸に残る。

 どうやらこの恋は。

 思っていたよりも、自分から歩かなければいけない恋らしい。

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