第2話 敵じゃない男
間違えてアップしてしまったので差し替えました。
最近、少しだけ平和だ。
ランチも再開した。
前みたいに毎週ではないけれど、山本さんと昼を食べる時間が戻ってきた。
前と同じようでいて、少し違う。
でも、その違いは嫌じゃなかった。
むしろ。
思い出すだけで顔が熱くなるので、あまり考えないようにしている。
仕事中だし。
社会人だし。
大人だし。
……たぶん。
そんなことを考えながらコピー機へ向かう。
午後二時。
眠気との戦いが始まる時間帯だ。
印刷ボタンを押して待っていると、
「朝倉さん」
後ろから声がした。
振り向く。
遠藤だった。
相変わらず顔がいい。
なんか悔しい。
「どうも」
軽く会釈する。
正直、少しだけ気まずい。
あの噂騒動以来だ。
遠藤もそれを察したらしい。
「あのさ」
珍しく真面目な顔をした。
「ちょっと謝りたいことあって」
朝倉は瞬きをする。
「謝る?」
「うん」
遠藤は頭をかいた。
少し言いづらそうに。
「例の噂」
ああ。
やっぱりそれか。
「たぶん俺きっかけなんだよね」
思ったより素直だった。
朝倉は少し驚く。
「え」
「いや、その」
遠藤が苦笑する。
「和食屋で見かけたじゃん」
「ああ」
「面白い組み合わせだなーって思って」
そこで遠藤は気まずそうに続けた。
「軽口で言ったんだよ」
朝倉は思い出す。
あの日。
和食屋で話しかけられた。
その後、なぜか社内に変な噂が広がった。
「まさかあそこまで広がると思わなくてさ」
遠藤は肩を落とした。
「ごめん」
素直だった。
言い訳もしない。
誰かのせいにもしていない。
ただ謝っている。
だから朝倉は、あっさり言った。
「別にいいですよ」
「え」
「もう終わったことですし」
実際、その通りだった。
噂は腹が立った。
山本との距離も一度離れた。
でも。
今はちゃんと話せている。
だからもういい。
遠藤は少し拍子抜けした顔をした。
「怒らないの?」
「今さらですし」
「優しいなあ」
「そうですか?」
「俺なら根に持つ」
それはそうかもしれない。
朝倉は少し笑った。
すると遠藤も笑う。
思ったより普通だった。
もっと軽薄な人かと思っていた。
もちろん軽い。
それは間違いない。
でも悪意はなかったらしい。
ただ空気を読まずに話題を振ってしまっただけだ。
「山本さん怒ってた?」
遠藤が聞く。
「怒ってないと思います」
「だよなあ」
遠藤は苦笑した。
「あの人、怒らなそうだし」
その言葉に朝倉も頷く。
確かに。
山本が怒っているところは想像できない。
困った顔ならできる。
少し眉を下げて。
苦笑して。
それでも相手を責めない。
そんな顔。
「いい人ですよね」
思わず口から出た。
遠藤がにやっとする。
「あ」
「なに」
「今の顔」
「どんな顔ですか」
「好きな人の話してる顔」
朝倉は固まった。
「……」
「分かりやす」
「うるさいです」
遠藤は声を上げて笑った。
腹が立つ。
でも少しだけ気が楽になる。
この人は敵じゃない。
ただ距離感がおかしいだけだ。
印刷された資料を受け取りながら、朝倉は小さくため息をついた。
「遠藤さん」
「ん?」
「余計なこと言わないでくださいね」
「努力します」
たぶん努力しかしない。
改善はしない。
そんな気がする。
それでも。
少しだけ見方が変わった。
悪い人じゃない。
ただ――。
ちょっと軽いだけだ。




