人の心を動かすもの(後編)
「この距離からでは何を話しているかはわからないが何やら揉めているぞ。」
「さすがマンサム様だ。マンサム様のいう増援とは一般人の介入のことだったんだな。」
レイドボスの介入は
事情を知らない第三者を呼び起こすことで、反乱軍は予期せぬ足止めに繋がった
足止めだけではない、彼らを味方につければこの戦局を塗り替えることもできる
安堵し、喜ぶカイト軍
「・・・」
遠くの喧騒を見て、喜ぶ兵士たちに
マンサムだけが、戦場での違和感を感じた
この男はこれまで人々の無益ないさかいを見てきた
いさかいというのはヒステリーを起こし、だんだんと感情的になって、お互いがどうしようもない罵声の掛け合いになるのが普通なのだ
しかし、一般人とカズナリ派のどちらもがヒステリー気味になっていなければおかしいのに
そのお互いが冷静に話し合っているように見えたのだ
「カイト軍総員、撤退の準備をしろ。」
まず、誤解のないように説明すると
マンサムは兵の安否など考えるような男ではない
だが、自分の作戦に何らかのイレギュラーが起こったことを悟り
おなじ違和感を手駒たちが察する前、出まかせを言ったのだ
「ですが・・・」
歯切れの悪そうに黒い球を見た。
あの中に入っている人間は曲がりなりにも上司
いくら人望がないとはいえ、歯向かうのも面倒なのはわかる
「元々は奴が蒔いた種だ。諸君らがログアウトするまでの時間として殿になってもらう
以後、君達は私の指揮下に就くことになるが、身の安全は保証しよう異論はないな?」
部下たちが一斉にログアウトの準備に取り掛かると、黒い球が割れ、崩れ始めていった
◆◆◆
閉鎖空間が崩れて、空の光が視界に広がっていく
たちまちスキルが使えるようになったカイトは再び部隊に戻ろうと天に向かって飛び立とうとしていた
「ハハハ!お前が建てたルールに従うものか!スキルさえ使えればこっちのものだ!!」
このまま体勢を取り直し、もう一度総攻撃をかけようというのだろう
水を得た魚のように奴は元気になった。
「みんな、見ろ!カイトがあそこにいるぞ!」
俺たちが一対一で戦っている間に
レイドボス戦も佳境に入り、人通りも増え始めていたのだ
レイドボス討伐に来たプレイヤーたちが一斉にカイトを指差した
「ハハハ。渡りに船とはこのことだな。天は俺を見捨ててなかった!
レイドボス討伐のためにプレイヤーが集まってきたようだな!」
俺を小馬鹿にするように
カイトは翼をはためかせ、勝ち誇った顔で本隊に戻ろうとする
「この状況を何も知らない人間が見たらどう思うだろうなぁ!
お前たちは一方的な殺戮を行う愉快犯!俺はそれから逃れる可哀想な被害者だ!
マンサムの策がここまで効くのはシャクだが。民衆から叩かれるがい・・・」
その時だった、魔力の蔦がカイトの脚に絡みついた
「い!!」
地面にたたきつけられて悶絶する八綺衆様に怒れる民衆が押し寄せる
「運営と癒着してRMTしてる不正プレイヤーだ!捕まえてとっちめようぜ!」
カズナリが一般プレイヤーに叩かれるというマンサムの目論見ははずれ
人々のヘイトはカイトにむけられてしまったのだ
「ま、待て・・・!戦う相手が違・・・ぐっ!!」
「よくもチートツールなんて流通しやがったな。お前らがこんなものをばら撒いたせいで俺の遊んでいたゲームがサービス終了したんだぞ!」
「そうだ、責任はとってもらうぞ!」
蔦の呪文で奴の足を捕らえ、一斉に袋叩きをはじめた
「おい、不良少年!学校サボってゲームとはいいご身分じゃねーか!お前のような奴がいるから本当に学校に行けない人間の肩身が狭くなるんだよ!」
殴る、蹴る、叩く。まさにそれは袋叩きといってふさわしい光景だ
「がっ!ごッ!おぉ!!ど、どぼじで・・・」
「ここにいるプレイヤーたちは俺たちの味方についてくれたようだな。カイトの軍も撤退していく」
他の参加者たちが動けないカイトを囲んで蹴り飛ばすのを傍観し、奴が抵抗できなくなるのを待った
◆◆◆
「起きろ、カイト。お前にはいくつか聞かなければならないことがある」
ボコボコにされた暴君の頰を叩き、無理矢理目を覚まさせてやる。
袋叩きにした際に麻痺や速度低下などのバッドステータスがこれでもかというほどかけられているのでもはや逃げることも叶わない
「ぐっ、クソ・・・なぜだ。なぜ民衆はお前なんかの味方をするんだ」
尋問するって言ってるのに、お前が先に聞くのかよ
ため息をつき「そんなことは簡単なことだ」と、説明してやった
「SNSやメディアで自分らの都合の悪い言葉だけ消して、自分を持ち上げる情報だけ垂れ流すような連中が相手なんだ。
どんな手を出してくるか容易に想像できる
だから事前に手を打たせてもらったのさ」
「一般人の中にお前の仲間をに紛れ込ませたってのか」
「その通り、学校サボって遊び呆けてる割には察しがいいじゃないか」
その中には、彼のチートツールによって遊んでいたゲームを荒らされたGBO外部の人間、運営が差し向けた工作員によって被害を受けたアンチなど彼らに恨みを持つ人間たちもいる。
そういった人たちから出てくる日常での彼の立ち振る舞いや、MMOで不正ツールとアイテムを売買していた話は、人々の感情に訴えかけ、ヘイトをカイト側に向けさせるには効果的だった
「カイト、一つ聞きたいことがある。」
大の字になり、身動きのできなくなった悪ガキに詰め寄る
今度は俺が質問する番だ
「どうして、チートコードをばら撒くようなことをした。売り上げが欲しいんだったら、プレイヤーに嫌がらせなんかせずにプレイヤーに寄り添うよう努力すべきだろ!」
俺の問いに対し、男は邪悪な笑みを浮かべて笑い出した
「売り上げだと、そんなちゃちい理由だと思っていたのか。俺たちに楯突くわりには何も知らないんだな!」
追い詰められながらもその横柄な態度に、腹の底に火がついたような怒りを感じた
ゲラゲラと笑い出したカイトの首根っこを掴んだ
「ヤガミ様ははじめから金儲けのことなんて考えちゃあいない!金なんかいくらでもあるからな!弱体化さ、GBO以外の全てのゲームを自滅させるためのな」
なんだと?
カイトの襟首を掴み手に力が入る
「お、〈大いなる計画〉を達成するためにはほかのMMOの存在が邪魔なんだよ!
ぐぅ、人の、心の在りどころ。他の娯楽を狭める必要がある」
「大いなる計画?何だそれは!」
くだらない。大いなる計画だと?学生の絵空事みたいなことを言いやがって
「それはーー」彼が口を開く前に空が暗くなった。
慌てて空を見上げると。
レイドボスの巨体がこちらに吹き飛んできたのだ
◆◆◆
「こっちに来る・・・まずい!!」
いくら防御特化といえど大型のモンスターが倒れてきてはひとたまりもない
ここまでなのか?
そんな時、何者かが俺の背中を掴み、勢い任せに何かに引っ張られた
「・・・!?うわあああ!!」
直後、魔物が地面に叩きつけられる衝撃に煽られ
俺の体は宙を舞った
乱暴に投げ出され、地面を何度もバウンドしながら転がった。
「・・・うっ、痛てて」
何度転がったのだろうか
自分が今地面に伏せているのか、仰向けになっているのかすらわからない。
全身が痛み、視界も回っている
何とか体を起こし、辺りを見渡すと
おそらく俺のいた場所には轟音と砂煙が上がっており、何も見えなかった
慌てて、カイトのステータス欄を見ると
奴の名前の横には死亡と書かれていた
カイトはレイドボスの下敷きになった
「ったく、やっぱりオレがいなけりゃ何もできねえのか?」
「あなたは」
そのぶっきらぼうな憎まれ口には懐かしさを感じた。
俺がゲームをはじめ、よく聞いた声だ
「ゴルさん!!」
「よう、顔合わせないうちに大層なことやってるじゃねえか」
久しぶりの再会
俺がクランを追い出された後、姿を消した男が俺の前に現れたのだ




