人の心を動かすもの(前編)
「スキルが使えないように追い込んで何が一騎打ちだよ、この卑怯者ぉ!!」
「チートアイテムを売買してるお前が言うな!」
剣を構え、じりじりと間合いを詰める
「自分がやるのはよくても、やられるのは嫌ってか?卑怯者らしい言い分だな!」
球状の閉鎖空間の中、一対一の大将戦
影に隠れせこせこと悪事を行い、安全圏から卑劣な方法で戦いを行う敵を
ようやく戦いの場に引きずり出したのだ
「いくら俺の攻撃力が低いとはいえお前のような素早さに特化した有翼人が相手なら!」
慣れない戦闘と、揺れる足場に辛うじて剣撃を受け止める
腐ってもランカーだろう。
だが相手は指揮官タイプの後衛職。いくら決め手に欠ける俺の職でもスキルを使わない正面からの殴り合いなら勝機はある
それに
「あ、足場が揺れ・・・!?」
「今だ、このぉ!」
俺には何度も不利な状況下での修羅場を潜り抜けた経験がある
一瞬の隙をついてまずは一発、斬撃を卑怯者にお見舞いした
◆◆◆
「どうすんだよ、これ」
カイト派の誰かがつぶやいた
トップランカーのいうことを聞いていれば勝てると思っていた彼らは
リーダーとの連絡が途絶えたことで士気は低下していた
そんな時
「—えるか?聞こえるか諸君」
彼らの頭上から天啓—
もとい、もう一人の八綺衆のジェネラル・マンサムの声が聞こえた
「マンサム様!?どこにおられるのですか?」
先ほどまで絶望しきっていた兵たちの目に光が点る
彼は八綺衆二位の男、迷い子のように兵たちはマンサムに助けを請う
「マンサム様、このままでは負けてしまいます。どうかお力添えのほどを」
「それなら問題ない、増援はもうすぐ来る」
「えっ?」
装備でも兵の質でも一切負ける要素のなかったはずの間に合わせのチームに負ける現実に直面した手前
それだけの言葉ではまだ気休めにもならなかった
「しかし、将軍。我々でも歯が立たないのです。並大抵の兵では奴らに勝つことなど・・・」
天の声は完全に戦意を失った彼らをやさしく諭した
「戦争で勝つための要因とは、個々の強さでもなければ戦略でも兵力差でもない。決定的な要因それはー」
「それは?」
「民意だよ」
◆◆◆
「敵の勢いが弱まっている今がチャンスだ!」
カズナリの影武者が味方を鼓舞し、
破竹の勢いで敵軍を押しのけて本陣をも攻め落とそうと駆け抜けていく。
レイドボスの乱入も相まって
初めは苦戦を強いられるかと思われていたが
カズナリが絶妙なタイミングでカイトを孤立させたことで
おそらく決め手にしていた【ミスリルレイン】の一斉射が不発に終わり、押し返す形となったのだ
レイドボスを怯ませ、敵側も背を向け、撤退を始めている
罠はなく、敵の増援もなく
そしてなにより敵の戦意もない
攻め落とすにはまたとないチャンス
「RMTとチートツールの証拠を押さえるためにもここで一気に叩くぞ!」
「おう!!」
勝てる。いや、何としても勝つ
しかし
「おい、アレって」
「みんな見ろ!カズナリ派がカイトを襲っているぞ」
「一方的に攻撃を仕掛けているみたいだ」
そこに現れた伏兵
報酬と経験値目当てに討伐にやって来た一般プレイヤーであった。
◆◆◆
「ふふふ。揉めているようだな。」
作戦通り。反乱軍は一般人とかち合ってくれた
運営会社のオフィス内、仕事の片手間に
ジェネラル・マンサムは
モニター越しに戦局を見て優越感に浸ってきた。
トラブルというのは被害者側に立った方が有利に働く。
向こうから手を出したと言う事実があれば周りから同情され、協力者を得ることができ事が有利に働くからだ
今回、部下のカイトを餌に反乱軍を呼び出すことができたので
八綺衆を追い回す反乱軍の構図を作ることができた。
「さぁ足掻け、いくらでも弁明するがいい。もっとも話を聞けるほど正気ではないがな」
ヒトとは単純で扱いやすい生き物だ
不安は伝播し、人々の誤解は強まっていく
感情的になった人間の視野は狭まり、人の話など聞こえなくなる
それを駆使することでヒトは簡単にコントロールできるのだ
人々の心を動かし、大局を変え、自らを正義とし、勝利へと導く
それこそが私を将軍たらしめる理由だ。
「私の勝ちだよ、カズナリ。君はケンカを売る相手を間違えた。」
モニターの向こう、前線で軍を率いているカズナリは偽物だろう。
同じく不在のカイトを見るに、うまいこと出し抜いて一騎打ちに持ち込んだのだろう
敵ながらあっぱれだ
お前ほどのカリスマ性と指揮力があれば
我が社に付いていればヤガミ様のお気に入り・・・いや、幹部クラスの人間になれただろうに
だが、ケンカを売る相手を間違えたな
「そう、いつの時代だって、力と狡猾さを併せ持つ人間が正義なのだ。事実とは、見える側によって変わる。カズナリ、貴様は悪になるべくして歴史の闇に葬り去られるのだよ!」
この悲劇はハチマングウ様の供物とする
◆◆◆
場所は変わってシェルターの中。
「どうしたカイト、これまで一回も攻撃が当たってないぞ」
「ふん、抜かしたことを!調子に乗っているのも今のうちだ!」
虚勢を張るカイトだったが。明らかに両肩で息をしている。
基本、空中戦での戦闘しかしなかった有翼人に
足場の不安定な閉所での戦闘は不得手であったのだ
八綺衆は肩で息をしながらトップランカーらしからぬ動きで見当違いのところに剣を振り下ろす
「へたくそ、どこを狙っているんだ!」
続けざまに一閃、返しの剣撃をカイトに浴びせかける
「ぐあああっ!!調子に乗るなよぉ、卑怯者め!」
「卑怯だ?どの口がいいやがる!」
シェルターの副次効果でお互いスキルが使えない状況下で、火力は互角
打たれ強さに特化した俺のクラスなら、このまま押し通せば十中十負けることはない。
「いい加減観念しろ、もう勝負はついているぞ」
しかし、目的は証拠を抑え、奴の目的を吐かせること
降参を促す俺に対し
奴の反応は思ったものではなかった
笑ってやがるのか?
「勝負はついた?ハハハー!ちがうね」
奴は剣を構え振りおろした
初めから奴は俺ではなく俺の張った『壁』を破壊するのが目的だったのか
「今まで、空振りをし続けてきたと思っているのか。バカが、これが僕の逃走ルートだ!!」
カイトは渾身の力を振り絞り、シェルターの側面に剣を突き立てると
魔力の壁にヒビが入り、一気に閉鎖空間が崩れだした。




