サイド:カイトのちマンサム
「ゲームオーバーか」
ヘッドセットに映る死亡通知を見て、俺は八綺衆として運営の庇護が断ち切られたことを察した
これまでヤガミ様の後ろ盾を利用して町内を牛耳り、幅を利かせていたがそれももうできなくなることを意味していた
「くそぉ!!クソックソックソックソッ!クソッ!!」
ひとしきりに部屋中のものをひっくり返して、平常心を取り戻した俺は
さっそくあの男に電話を入れた
「どうした、今自分・・・」
「どうしたもこうしたもない!無能な味方をよこしやがって!」
開口一番、マンサムに怒鳴り込んでやった
苦情のひとつでも言って特別にアカウントを復活させてもらうしかないので俺も必死だった!
「一万ぽっちの兵隊しか遣さなかったうえに、勝手にナーフしやがって落ち着けだと!?
お前がもう少しまともな兵隊を・・・事前にナーフの事実を伝えてくれれば俺は反乱軍を倒せたんだぞ!」
苦情を捲し立てて、肩で息をしていると、すぐさまにこの男は反論してきた
「まるで私が報連相のできない人間のように宣ってるいるが、それは元々君が必要な情報をよこさなかったからだろう」
「あぁ!?」
ここにきて説教か。自分のやることを棚に上げ
「君はカズナリがレジスタンスが結成していたことを知っていて私にそのことを黙っていた。私やストレンチオを出し抜いて手柄を独り占めしようとは思ってはいないが、情報共有は組織として基本的なことだろう?」
・・・!?知っていたのか
「だから私も|ナーフすることを黙って兵とレイドボスを送り出した。数人ぽっちの相手なら十分だったから
まさか敵が一万人ほどの勢力になっているとは思っていなかったからね。」
言葉にこそしてはいなかったが、この男の話っぷりから
「手柄を横取りする人間に対して、敢えて目を瞑った上ここまでの施しをしたのだから文句を言われる筋合いないな?」
という圧力があった
ぐうの音も出ずにいると、男はもう一つ、ナーフのことについて語り始めた。
「さっきからお前は『ナーフされたから負けた』ような口ぶりでモノを話しているが、カズナリの方が条件的に不利だったはずだ。」
「なんだと?」
ふと、カズナリとの戦闘を思い出した。
確かにあの男もスキルがナーフされていたようなことを言っていた
「彼は敵ながら素晴らしい男だと思うよ。まさかナーフされたスキルを逆に戦術に組み込むなんて芸当をみせてきたのだからね」
そうだ。『内部ではスキルが使えなくなる』という弱点がついた閉鎖空間を展開するスキルによって俺は負けた
「それに比べてお前はどうだ?そんな不利な条件を背負った人間を相手に真正面から戦って負けたのだ。
お前は一切下方修正の影響を受けていないにも関わらず、だ。
勝てると思ってあぐらをかき、自己研鑽を怠った結果ではないのか?」
十分な兵が送られ、準備が万全だったとして、俺はあの男に勝てなかったというのか?
ウソだ、そんなはずはない
彼はカズナリに入れ込んでいる。そうだ。ひいき目で見ているだけ!俺はあいつに負けてはいない・・・断じて
「君とは違って私は忙しい。言い訳はこれ以上聞きたくないのでな」
「あ、おい。待・・・」
「今日限りでお前を八綺衆から除名する」
そう切り出されて、一方的に通話を切られてしまった
カイトはこれ以上追及するのはやめた。相手は舌戦のプロなのだ。
怒りで頭に血が登っていたとはいえ、この男に口答えをするのは失敗であったのだ
「切られたか・・・」
何度呼び出しても応答はない。
これで俺は一般人に逆戻り
まぁいい、RMTとチートアイテムの流通については何も問われなかった
それだけでよしとしよう
「兵隊どもに連絡だ。」
中学生という年齢の都合、アルバイトができない彼らを高収入という謳い文句で釣り
胴元でいた間にコントロールできる子分を育てておいたのは正解だった。
なにせ俺に付き合わされて勉学や部活どころではなかったから今更解放されたところで日常への復帰は絶望的
俺が運営の後ろ盾がなくなったとして、俺なしでは生きていくことはできない
兵隊どもと、運営にいたころのバイヤーとしてのノウハウを使えばいくらでも金を稼ぐことができる。
手始めに転売ビジネスから始めてみようかな
そんな時
「なんだジジイ、ババァ。部屋に入るときくらいノックくらい・・・」
「・・・」
「・・・」
さながらゾンビのように生気のない二人の顔には場違いなお面がかぶされていた
そしてニタニタ笑いの顔が印刷された仮面には見覚えがあった
運営の手駒として遠隔操作している人間の成れの果て〈イエスマン〉に付けられるマスク
「おい、なんだよそのお面!一体どこから持ってきたんだ。悪趣味すぎんだよ・・・」
彼らのかぶる仮面に火が付き、みるみるうちに両親の体が燃え上がった
じりじりとにじり寄る親に、普段なら強く出られる俺も後ずさりをせざるを得ない
「おい、やめろ・・・来るな!!」
やめろ!・・・
「もう悪いことはしない、しないから!良い子になります!・・・だから」
やめてくれっ!!
そう悲鳴を上げるまでもなく、力いっぱい俺の首は絞めつけられる
そして、薄れゆく意識の中、家が黒煙に包まれていくのを見た
◆◆◆
夕方未明、とある一軒家が全焼する火災が起こった
その焼け跡から三人の遺体が見つかり、連絡が取れなくなったとある中学生とその両親であるものと判明した
一家は生前、子供のネットリテラシーの甘さから個人情報が流出、自宅を特定された後
ネットでは罵詈雑言、子供が引きこもりであることを拡散されたという
「警察は『連日によるネットでの嫌がらせ行為に耐え兼ね無理心中をした』と断定・・・か」
「い、いかがでしょう。これで御社のイメージも保たれるかと」
来賓室、ホログラムに浮かんだ老人たちの一人が手もみをしながら私の顔色をうかがっている
「つけあがるな」
私は気休めにもならないおべっかは嫌いだ。
私の一言に老人たちは年甲斐もなくすくみあがる
「言葉を慎めよ。不用意な言葉は局の破滅、貴様を社員もろとも露頭に迷わせることになるぞ」
「はい、存じております。」
超情報化社会と呼ばれる現代で、化石となったテレビ業界が未だにメディアたらしめているのは
すべてヤガミ様のおかげだというのに、未だに自分たちが力を持っていると考えている。
(それにしても、ゲームの評判を保つだけでは〈あの計画〉を果たすことは困難になりつつあるな)
カイトの死によって世間の注目を運営から逸れさせること、ネットで誹謗中傷できなくする風潮にすることができたが
そんなことで人々の怒り、悪評を止めることはできない
これではテレビ局をはじめとしたメディアを抑え、印象操作してまでこのゲームを宣伝する意味がなくなる
奴がつけた傷はあまり楽観視できることではない
「時に、例のアレは」
「もちろん・・・抜かりはございません。」
そうでなくては困る
すぐさま番組制作に取り掛からせるよう命じると
彼らのホログラムは平身低頭のまま消えていった
私もこうしてはいられない。
「マンサム様、SNSに不買運動を呼び掛けるつぶやきに賛同する声が上がり始めています」
「次のガチャの目玉はスカーレット装備の再録だ。カイトにも流通させなかった虎の子だ
SNSにガチャの大当たりのスクショを流し『今引いておかないと損だ』と情報を流せ」
さいわい運営に都合の悪いワードはトレンドにはならず
書き込みも自動的にタイムラインから自動的に消えるが、その違和感に気付かれると面倒だ
「あいついで引退する旨の書き込みも上がっております」
「構わん。どうせ教育の済んでいる人間は他ではやっていけん」
問題は、遊んでいない側の人間、遊び始めた人間。
彼らを一人でも多く引き込み、留まらさせなければ我々の計画は失敗に終わりかねん
「イベントシナリオの準備をしろ、今入っている一億の新規ユーザーだけでも教育する」




