神の心臓
アキナ誘拐事件の翌日、俺達はシラユリ氏の会社に招待された
「朝早くからすまない。」
シラユリ氏が頭を下げる。
会社の代表直々に頭を下げることだけでもそうそうないことだが
それにしても学生であるアキナやサキちゃん、これから朝の仕込みであろう店長をわざわざ朝一番に呼び出すのだから野暮用ではなさそうだ
・・・少し覚悟する必要がありそうだな
「今朝方病院から連絡があってね。当事者のルイが亡くなったそうだ」
「・・・えっ?」
「もっとも医師の話では『生きてはいない』状態だったそうだが」とシラユリ氏は話を続けていた。
現実で人の死に直面した時、人間とはあまりにそっけない反応をしてしまうものだ
その一方で内心ではゲームの中で散々人の死を直面していたせいかその実感が薄れてしまっていたからだとは考えたくなかった
搬送された時点で意識はないと言っていたんだ。あんな悪党気にするだけ無駄か
「それとこれも見てほしい」
続けてシラユリ氏は今日の朝刊を渡してきた
何も変哲もない一面記事を見て俺達は目を疑った
内容は(株)ショコラ•オ•ノワゼットのプロデューサーであるヤガミがルイの個人情報から誘拐犯を捕まえたと言ったものだった。
なんとこの運営、自らの潔白とともに逆に自らの武勇のように語って罪から逃れたのだ
「これ、ヤガミが誘拐犯を逮捕って」
「運営がプレイヤーの犯罪を察知して立てこもっていた会場に通報ですって?」
「なにこれ、全部嘘っぱちじゃん」
おそらく本来ならルイのほかに俺にも罪を着せるつもりだったのだろうが
先の戦いでシラユリ氏と和解したことによりこれ以上の衝突は不可能だと思ったのか
俺たちの記事は書かなかったことだけはせめてものの救いだろう
「この記事だけではない。他の会社の新聞全ての一面がこれだ」
「奴め、自分のイメージを守るためだけに自分の部下を切り捨てるのか」
まさに死人に口なし。
シラユリ氏からGBO運営を相手取って裁判を起こすことで運営との決着もつくかと思っていた矢先の出来事だった
「でもですよ社長。SNSで定期的に炎上してるような会社ですし、ダマされる人なんていないですよ!その証拠に・・・」
社長のためにSNSアプリの画面を宙に投影した
「あっ、ポヨロコの書き込みまでヤガミの賞賛つぶやきで埋め尽くされる!」
SNSアプリの書き込みに絶句した
そんなはずはない。今朝はずっと起きていてSNSの書き込みを調べていた俺が見ていた時には
こんな書き込みはなかったのだ。
それも踏まえて俺はシラユリ氏に弁明をした。しかし
「もちろん疑っているつもりはないが、SNSや大型掲示板では有名な炎上話と言っているがね、私は初耳だが」
その時のサキちゃんの顔はおそらくこれから忘れることはないだろう
「まぁ無理もない。SNSの常識とあっても現実ではあまり話題になっていないことは多々あることだが・・・カズナリ君、朝調べ物をしていたとは言っていたが、何かしていたのかね?」
そこで俺は今朝あったことを話した。皆が寝ている時、レジスタンスを引き連れて違法な取引を取り締まったこと、そしてその大本をSNSのログを通して特定したことなど
俺はおもむろに今朝方、レアアイテムとチートコードを売買しているチームの名簿
そしてそのリーダーであるカイトの動かぬ証拠をみんなの前に出した
(直後皆から『ちゃんと寝ろ』と言われてしまったが)
「考えようによっては発信方法をうまく制限させられれば奴らに悟られずに悪事を公表することはできるってことですよね。」
「確かにそうなるが・・・向こうがああいった手段を取ってくる以上致し方ない。私もできる限りのことはしよう」
社長が腹をくくってくれると宣言し
皆が喜んでいる中ひとり不安そうな顔をしたアキナのためにも
運営の悪事を公に公表する一番いい方法を探さないとな。
「それはさておき、君たちをここに呼んだのはこれとは別の理由でね、カズナリ君」
俺?シラユリ氏に問い詰められるようなこと何かしただろうか?
「君があの時ハッキングに使っていた『エルディナ』というプログラム。あれは君が作ったものか?」
「えっ?」
俺は軽く動揺してしまった
「待ってくれ、確かにルイを追い詰めるとはいえ会場内のセキュリティ内に侵入していたけどそれは・・・」
「そういう意味で聞いたのではないよ。むしろそれよりも以前。この人格プログラムについて知りたくてね」
エルディナが不安げに自分に指をさした
「そうは言うけれど今のAI技術なら人間じみた動きだってできるんじゃないの?」と店長
その問いに社長は首を横に振った
「我が社の深層学習技術をもってしてもあそこまでの物は作ることはできない。あれは本物の人間だ」
「まさか!」
驚き戸惑うエルディナに対し社長はあいまいな動きが人間のようだと話した
AIには正確な行動や瞬時な意思決定ができる一方、逆に動揺したり日和ることは難しいという
エルディナと初めて出会った時のこと、彼女が記憶を失う直前に言った「昔は人間だった旨」の話
ルイが連れ去られる前に話していた「あの世界」の話
ピースが徐々につなぎ合わさり、それは一番考えたくもない答えへと導きだされる
「人間の魂をデータ化させる実験・・・」
そう、人間の魂をコード化し、プログラムの一部にすることで文字通りゲームの中に入り込むこともできたと思えばすべての謎も納得いくだろう
そんなはずがない。一度頓挫になった計画を引き継げるような技術力や財力が
ゲーム開発会社にあるものか
「会社名を偽装し、一つの企業をでっち上げ、挙句メディアまで操作できるような会社なら何が起こってもおかしくないと思わないか?」
ウソだ、この社長の考え過ぎだろう
「でも、そんなの危なすぎるんじゃあ」
「サキさんの言う通り、危険だったんですよ。人間の頃の記憶が失ったり、戻れなくなったりして」
引き気味に会話する二人の会話など気にせずシラユリ氏は話を続ける。
「このプログラムにはほかの携帯や携帯に同期できる機器にも行き来できる機能があるね、
つまり彼女はこのカギを使ったに過ぎない。詳しいことは後日調べる必要はありそうだがね」
「カギ・・・」
「直接は関係ないがそして君達にもう一つ聞きたいことがある」とシラユリ氏はプラスチック製の仮面を取り出した
ってこれはイエスマンの仮面じゃないか!
「あの誘拐事件の時、ルイが妻に抵抗をした時落としたもの。わが社が総力を挙げてこの仮面について調べてみたが、わかったのはこれを作った工場と架空の元請けの名前のみだ」
知っているのは小さなおもちゃ工場と架空の会社って
一企業が調べて出てこなかったようなことを俺がわかるわけ
俺はメモを見て何かに気付いた
・・・いや、知っているぞ
「・・・神の心臓」
「え?」
俺の発言に俺までおかしくなったのかと思ったのか、一斉に俺の方に顔を向けた
そんなこと気にもせず、俺は話を続ける
「この会社の名前俺の社畜時代、仕事を受けていた元請けの名前だ・・・
〈神の心臓〉はその会社で作っていたプログラムの名前だ」
俺が、俺の友達、同僚たちが不眠不休で作っていた謎のプログラム
それがアイツらのクソくだらない計画の為に使われようとしていたなんてッ!
「うっ、ううっ・・・」
俺が憤りを覚えている中、エルディナはすすり泣いている
「どうしたのエルちゃん!?」
「その心臓とかいうのにひどいことされたの?」
「ちょっと、カズナリさん!!変なこと言うからエルちゃん泣いちゃったじゃん!」
「うぅっ、ううっ・・・!うぅぅ・・・ッ!!」
いや、違う。彼女は怒っていたのだ
自分でも覚えていない過去に何らかの因縁があったのは確定した瞬間であった




