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ゆがむ世界

「おねがい、みんなを・・・みんなを元に戻して。どうして、あなたは自分勝手なの?」

「大丈夫だエルディナくん。ここにはカズナリくんたちもいる。私達がなんとかしのう」


俺が神の心臓の名を出してからエルディナはうわ言のようにつぶやいていた

エルディナと神の心臓の関連性はわかったが先日俺が殴ったヤガミの影武者の正体といい彼女についてまだわからないことが多い


「う、そ・・・き・・・」

「えっ?」

「カズナリくん、携帯の同期を切るんだ!!」


社長が止めようとした瞬間、エアコンが爆発した


「ウソつきウソつきウソつき!!!!」


ボンッ!ボンッ!ボンッ!

「うわっ!」

「きゃあ!!」


部屋中でコゲくさい匂いとともにコンデンサが(はじ)ける音が鳴り響く


「エルディナさん!私達はあなたに悪いことはしません!だから、落ち着いて」


アキナの必死の説得の甲斐もあり、周辺の機械の暴走は止まり、機械に負荷がかかったことでエルディナは休眠状態(スリープ)に入ってくれた



「ごめんな、今日はここまでにしよう。エルディナ。お疲れ様」



これ以上のコンタクトは危険だと感じ俺は携帯の電源を落とした。


「つまり、会社員時代に君が手がけたプログラムの応用でエルディナを携帯に移行させることができたと」

「その時はまさか神の心臓の技術だとは思っていませんでしたからね。」


シラユリ氏に問われて考えてみれば人間の魂を携帯の中に移せるなんてこと自体妙な話だ。

自ら意思を持って機械の中に入り込みデータそのものを書き換える能力なんて文字通り神のような力だ

おまけに記憶を保った状態でネット回線や無線通信を介してほかの機器に飛び、その機能もハッキングできるなんてそれこそチートだ


ヤガミ達が何を目的でこれを作ろうとしたのかはわからないが、彼がやりたいことができるのはプログラムはエルディナだけだろう


だが、向こうにはエルディナほど使い勝手はよくないとはいえデータを書き換えるアイテムを持っているのも確かだ

俺は運営が売っていたチートコードについてAI技術の一人者目線でシラユリ氏はどう思っているのだろうか?


「仲間たちの報告だとGBOだけでなく様々なMMOに流通しているし、データを書き換えられる点で観たらこのチートコードも実質エルディナみたいなモノじゃないですか?」

「向こうが壊すこと『しかできない』プログラムならエルディナが治すこと『もできる』プログラムだ。それに見方によればエルディナの効果で無効化できる唯一の手段ともいえるだろう」


シラユリ氏はそう話した


「とにかく、これ以上チートコードを流通させるわけにもいかない。」

「いよいよもって大元であるカイトを倒さないといけませんね。だったら今日にでも・・・」


「そんな犯罪行為、それこそネットで知らしめればいいじゃない!!」


俺達が意を決した時サキちゃんは立ち上がりダァン!と机を叩いて思いの丈をぶちまけた


ギャルとはいえ本来は彼女は場をわきまえられる人間だ。

今までの反抗活動が無意味に終わるのが癪だったのは痛いほどわかった


「サキちゃん。もう一度言うがねSNSの常識とあっても現実ではあまり話題にならないものだよ」

「けど!!」

「私もサキちゃんと同意見です、人の生き死にも関わってることなんですよ?いくらメディアが抑えられてるからと言ってお父さんは悲観的だと私は思います」


アキナが助け舟を出したことに父、シラユリユウトは面を食らっていた


それもそうか、この親子は仕事の都合であまり顔を合わしていない

おそらく父親の中ではまだめそめそ泣いている気弱な少女で終わっているのだろう

そんな彼女が二週間くらいで自分の意思を持って話している姿を見れば驚いて当然だろう


アキナ、強くなったな



体裁を取り繕うとシラユリ氏は軽く咳払いをし


「アキナ。あまりにも残酷な話だが、どんなひどい事件であれ当事者でなければ意外と深刻視はしないものだよ」

「そんな」


店長も俺も嚙み砕いてはいたが、まだ学生である二人にはあまりにも残酷な内容であった


「たとえ一時的に炎上したとしてもそれはあくまで『一時的』な話だ。一年、いや半年もしないうちに事件は風化してしまう。ネットニュースにそういう炎上騒動が載ってもニュースでは流れないのなら特にな」


サキちゃんは食い下がる

「けど、ネットで炎上した人が現実世界でひどい目に遭わされることだってあるじゃん!この運営だってすこしは痛い目に・・・」

「遭わないわよ」


しばらく黙っていた店長がピシャリと言い放つ。・・・至極残念そうな顔で

「たしかに一個人だったら面白半分にたかる人間が出るでしょうね。でもそれは相手がなんの後ろ盾のない一個人の話よ」


「業界でトップクラスのシェアがいて弁護士が弁護士が数十人いて、火消し対策もばっちりの会社相手にそんなことするような人間はいないわよ。そういう会社には大型掲示板に【爆死】とか【終了のお知らせ】みたいな見出し付けたスレッドで『終わったな』遠吠えをするだけよ」

「う・・・」


サキちゃんは軽く立ち眩みをした後椅子に座り込んでしまった


「気を落とすなよサキちゃん。SNSや大型掲示板のようなものは全体から見れば人口が多く見えても実態は同じ好き者同士で固まった小さな集まりの集合体に過ぎないってだけの話だ。ネットの中で完結させず

教育委員会でも倫理委員会にでもいいから現実世界の人間にも広げることができれば俺達の勝ちなんだからさ」


ちょっと前までエンタメや娯楽界隈はおろかSNSも疎かったのに俺は見落としていた

SNSやネットの検索エンジンは基本的に自分の興味のある情報や人間を優先的に取り入れる機能がある。

俺達が世間に拡散していたつもり(・・・)でいた情報もシステムによって導き出された一部の人間の中に知れ渡っていた『だけ』だったんだ



7000よくないねと10000以上の拡散。一見大きな数値だが、あまりにも少ない数字だったんだ


「つまり、いくら拡散しようがVRMMОに興味を持った人間にしか見てもらえないってことですか?」

「その通りだアキナ。付け加えれば人の生き死にに関わるセンシティブ(繊細かつ過激)な話題だ。そういったフォロワーたちに配慮してあえて拡散されないこともある

だからこそ(・・・・・)公表する場所は考えなくてはならない。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シラユリ氏の会社から戻った頃にはもう夕方になっていた。俺たちはカフェでたそがれていた

未だにエルディナは塞いでいたし

先のやりとりで(こた)えたのだろうサキちゃんは珍しく沈んでいた


俺も携帯を見て改めて情報操作の恐ろしさを知らされていた


『このゲームの悪口を言ってるのはアンチの仕業。格上の敵から生き延びるスリルがたまらない。GBO最高!』

『たしかにシナリオに癖はあるけどメリーバッドエンドなのが普通に面白い。文句を言ってるのはハッピーエンド過激派』


最善を尽くそうとして正しい過程を踏んだ結果それが望まない終わり方になるのならまだいい、こちらはギルドの行き当たりばったりな命令に沿って分かりきった結果に行き着くのだ

この文章を書いた人間は絶対にプレイなどしていない

一方で

「最近のゼクストウォーカーの依頼意味不明すぎ、理不尽に敵も強いしつまらない」

「幻想学園、ほのぼのとした世界観で始めたのにいじめとか重いテーマばかりでウンザリ。おまけにプレイヤーが介入したせいで悪化したのに判定は『大成功』とかなんなの?」

ほかのVRMMOを卑下する書き込みで埋め尽くされていた。

おまけにこの擁護コメントとアンチコメントは同一人物のものだ。なんのギャグだ?

唯一叩かれていないGBOが際立って見えた


さすがにこんな書き込みはサキちゃんに見せられないな


「そんなに落ち込んでいると滅入っちゃうわよ。テレビでも見て気分転換しましょ」


落ち込む俺たちに見かねた店長は店のテレビに電源をつける。


しかし


「今、(ちまた)で話題になっているフルダイブ型VRMMO、ギルドバウトオンライン!今日は人気の秘訣に迫ります!」


よりにもよってGBOの話題が取り沙汰されていた。


「そりゃやっぱり世界一売れてるMMOだからですかね」

画面の中で最新型のヘッドセットを買った若者が話す


「ここの運営はちゃんと問題あるプレイヤーを罰してくれるので安心して子供に勧められるところですね」


今度は見た目でわかる教育ママだ。


激昂し、テレビのリモコンを投影装置に投げつけようとするサキちゃんを俺は押さえつける


「やめろって、そんなことしてなんになるっていうんだ!」


「うるさい!こんなの見て落ち着いていられるわけ―」


「てめぇ!もう一度言ってみろ!!!」


俺達がカフェの中で喧噪を起こしてる中でもはっきり聞こえるくらい外で怒鳴り声が聞こえた

まったく、今の世の中どうなってるんだ


「ヤガミ様の悪口を言うとはなんだ貴様は!」

「何度でも言ってやるよ!GBOやっている奴はクズばかりだってな!!」


怒鳴り声からしてGBO擁護側が中高生でアンチ運営派は小学生。

彼らのケンカを見て改めて今が午後五時になっていることを思い出した

しかし、ヤガミを侮辱されただけで子供相手にブチギレるとは世も末だ。そんな素晴らしい人間ではないだろう


「・・・ちょっと注意してくるわ」

「いや、俺に任せてください」


店長に面倒を起こさせるわけにはいかない。

俺は店の外に出た


「おい、営業妨害だ。ケンカするにしても場所を考えろ!」


その時にはすでに高校生行くか行かないのかの人間数人が小学生につかみかかって殴ろうとしていた


「げ、カズナリだ!」

「小学生相手に寄ってたかってどうするつもりだ?」


俺がにじり寄ると不良たちは怖気付いた。まったく勢いのわりに大したことのない連中だ


「その子を放してさっさと失せろ、クソガキ」


クモの子を散らすとはまさにこのことだ。不良たちが散り散りと逃げて行った。


俺は尻餅をついたまま硬直してる子供に声をかける


「大丈夫か?一人でケンカを売るなんて無謀すぎるだろ。一体どうしたんだ?」


「あ、ありがとうございます。まさか本物のカズナリさんに助けてもらえるなんて光栄です」


まるでヒーローみたいな言われようだ

俺もずいぶん有名人になったな。

それから子供は俺に向かってとんでもない頼み事をしてきたのだ


「カズナリさん、僕の街を救ってください!!」

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