心の支え
刑務作業とルイとの戦闘を除けば数日ぶりのログインとなる
依頼をこなす以外はVRチャットを推奨してる風潮のせいでギルド街の広場は普段はほとんど人のいない状態であったが
この日は数千規模の人が集まっていた
「おかえりカズナリさん。みんながカズナリさんの帰りを待っていたんだって」
「おいおい、ちょっと大袈裟すぎるだろ」
俺が話したわけでもないのだがどこからともなく俺が出所した報が知れ渡ったらしく他のプレイヤー達が俺を出迎えるためだけにわざわざ集まってくれたのだ
「大袈裟ってことはないよ、カズナリさんは俺たちの希望なんだ」
この獣人族の男は以前に俺の意見に賛同し依頼をボイコットしてくれた人だ。その時同行していたエルフと有翼人の人も一緒にきてくれたそうだ
「そうだよ、お前が説得してくれなきゃ俺たち危うく良識を失うところだったしな。みんなお前に感謝してるんだ」
この人は黒蛇党の一味だったギム・リンギットの依頼で同行していた人、隣には黒蛇党のギルドマスターであるギルデロイに対し喧嘩を売った時、俺の後に続いて勇気を振り絞って本音を伝えた勇者だ
他にも、全体依頼にてギルドに味方を殺されたプレイヤーや、理不尽な依頼によって仲の良かった兄弟と絶縁状態になったという人もいた
「やはり俺の目に狂いはなかったな」
彼もここの社員とプレイヤーの被害者の一人
元もとは別のMMOのユーザーであったがネガキャンなどの彼らの妨害行為によって売上は激減。場所を追いやられた人間だ。
俺と共に戦いたいがためにわざわざアカウントを作ったそうだ
しかし特に驚いたのは
「君がカズナリ君か、ゴルとメリダから聞いてるよ。あの八綺衆を二人も倒したんだって」
「まさか俺たちが抜けた後に〈ドンガメ亭〉であんなことがあったなんてな。バオさんのことは残念だったな」
「大丈夫よ、ここにいる人たちは私と一緒に辞めてきた人だから」
〈ドンガメ亭〉という名前を聞き、以前のクランの乗っ取り事件を脳裏を掠めたが、店長がフォローしてきた
確かに〈ドンガメ亭〉に入った時、若干の人数が空いていた。ここにいる人たちは店長含めて五人いる。
今まで俺は運営と戦うために躍起になって戦っていたがそれが無駄にならなくて本当によかった。
こうして共に戦って
「悪い、サキちゃん。みんなを集めてくれ。これからみんなに伝えなきゃいけないことがある」
「でもカズナリさん、戦いの後だし疲れてるんじゃあ」
多少緊張していたが、皆の声を聞いていたら次第と疲れは取れていた。
まさか大人数ので話をすることになるとはいつぶりだろうか
「みんな、忙しいところ俺のために集まってくれてありがとう。ここに来てくれた人は多分、運営や奴らの息のかかったプレイヤーたちに理不尽な思いをした人たちだと思う」
「実際俺もそうだ。ゲームマスターが悔しい思いをしたくないという理由のためだけにマスター権限でゲームの判定を捻じ曲げられ俺は一度死にかけた。」
一同は静まり返る。それはそうだ
本来マスタリング行為は不正を含めたプレイヤーの問題ある行為に対しゲームマスターが行う権限だ
VRMMOの自由度が高いのもゲームマスターが然るべき処置を行えるから成り立っているところはある
「前のクランマスターが庇ってくれなければ俺は多分ここにはいなかったと思う。」と付け加え、話を続けた
「次に俺は運営のトップであるハチマングウとヤガミに直談判した。その時はまだ運営は良識のある人間で、適切な処罰があると思っていたからな
だが、結果から言えば問題を起こしたゲームマスターは友達のよしみで不問にされ、俺と仲間は『ゲームごときにマジになってんじゃねえ』と一蹴された」
「運営はいつもこうだ!俺たちを楽しませようとしちゃいねえで逆に俺たちをコケにして楽しんでやがる!」
聴衆から怒りの声が上がる。
「しかもあろうことかヤガミはその顔データを悪用し、それが原因で犯罪にまで巻き込まれた。詳しくは言わないが、多分みんなも知っているあの事件だ」
信じてもらえないなら証拠のテープを出そうかと考えていたが、皆納得していた。おそらく皆それに似たことをされたのだろうか
「なんとか切り抜けることはできたが、今度はここに居る誰かがこう言った被害が被|るかもしれない。運営は反対する人間に対して手段は選ばない連中だ。チート行為で殺しにかかってくるなんてのはまだ可愛い方、もしかしたら君か君の愛する人たちが現実で犯罪に巻き込まれるかもしれない。
それでもいい人だけ聞いてくれ。俺はMMOを初めて二週間も満たないプレイヤーだ。皆の思い描いてる英雄ではない。俺に皆の人生をくれ」
しばらくの沈黙が流れる。
正直、この演説で皆が離れるということも覚悟していた
「いいぞカズナリ。お前はレジスタンスの象徴だ!お前がいなきゃずっとモヤモヤしたまま毎日送るところだったよ!」
「俺も付き合うぜ、ポヨロコで運営批判をしてたら信者どもに連日メール爆撃された挙句、訴訟までチラつかされたからもう怖いものはねえからな。」
「信者達を使って俺たちを黙らせた上で犯罪行為を隠蔽する運営を許すな!」
思った以上に演説は成功した。
「すまないみんな、これから頼むぞ」
そして俺は帰路についた。
先日の事件により住所を特定されてしまった俺のためにシラユリ氏はタワマンの部屋を手配してくれたのだ。
ここまでしてきたのもヤガミたちへの牽制もあるのだ
荷解きもほどほどに必要最低限の準備を済ませて寝ようとした俺の部屋にアキナが遊びにきた。
「カズナリさん、今日はお疲れ様です」
「アキナこそお疲れ様。聴取で大変だったろ。これ店長とサキちゃんから」
店長からもらったお土産を渡し、彼女を労う。
今日一番の功労者は彼女だ。
彼女の転機によりシラユリ氏との衝突による最悪な結果も免れたし、ルイとの決戦も彼女がいなければ勝てなかったかもしれない。それに聴取などで大変だったからな
「今回ばかりはどうなるかと思ったけど、本当に助かったよ。ありがとな」
アキナは横に首を振る
「いいえ、礼を言うのは私の方です。
あの時私がああやって動けたのはひとえにカズナリさんを救いたいと思ってたから。他の人だったらダメだったと思います」
「アキナ・・・」
特別な存在、というのだろうか。照れくさいけど嫌な気分ではない。むしろ俺と同じ気持ちで嬉しかった。
それから俺たちは他愛のない会話で盛り上がった。
社畜時代は会社と妹以外しばらく異性と会話していなかったので免疫はなかったが彼女とならいくらでも話していられる。
彼女と一緒ならなんでも出来そうな気がした




