悪い虫 解決編
ルイとの決着がついた後、俺たちはすぐさまログアウトしてルイを追いかけていた
「こっちですカズナリさん」
負けた時のことも考えていたルイは自分の忠実な部下であるイエスマンがいるステージ内に俺たちを一纏めに閉じ込めておくことで
万が一負けた時にも力尽くでねじ伏せて自分だけ逃げようと考えていたようだ。
しかも、エルディナによると奴は出口に近い管理室の方面からログインしていることもわかった
ログアウトしてすぐルイの兵隊が襲いかかってきたがエルディナがいち早く脱出経路を割り出し、
ルイのヘッドセットを探知してくれたくれたおかげで安全に追い詰めることに成功した
「奴は裏口から逃げるみたいです。俺の仲間が先回りしているのでそこで挟み撃ちにしましょう」
「さっきから気になっていたのだがその娘は一体何者なんだ?」
シラユリ氏が疑念を抱くのも当然だろう。ここまで安全にルイを追跡できたのも彼女のおかげだ
正直な話、俺も彼女の正体や仕組みはよくわかっていないところは多い
「安心してください、私達の友達です。」
説明に困っていた俺に、アキナが助け船を出す。娘の言葉に彼も納得してくれたようだ
「いくつかの扉の電子錠をロックしておきました。店長さん達のいる場所まで誘導できます」
「でかしたぞ、エルディナ!」
逃走ルートが分かり切っている手前、奴を追いかけるのにそれほど苦労はしなかった
表入り口にたどり着くとそこにはむりくりこじ開けようとしているルイがそこにいた
「くそっ、もう来やがったのか」
「八方塞がりだな、ルイ。」
「私を騙し、娘にこんなことをしてくれた以上ただでは済まないことは君もわかってるだろうね」
「カズナリさんや父に迷惑をかけた罪はきっちり払ってもらいますよ」
「クソっ・・・!」
ついには俺たちに詰め寄られ逃げ場を失った
・・・かに思えた
天井をぶち抜いて笑顔の仮面を被った女性が現れたのだ
「僕が何かあったとしても助けてもらえるようにいろんな経歴を持っている人間と付き合っていて正解だったよ。元特殊部隊の彼女のようにね
誇らしげに自分の妻を紹介するルイ、しかし彼女の顔は笑顔の仮面で隠されていた
「カズナリさん、あの仮面は」
「あれは確かイエスマンの仮面」
「おい、なんでお前がその仮面を被っているんだよ、イエスマンじゃあるまいし」
どうやらこの仮面はルイが被せていたわけではないのか
何かがおかしい、その場に緊張が走る。その時
「まったくえらいことをしてくれたね、ルインくん。お陰で我が社の信用も失墜しかねないよ。」
店長とサキちゃんの後ろから声が聞こえる。人を小馬鹿にしたような声のトーン忘れはしない
「ヤガミ!!」
ルイの妻が開けた穴からヤガミが顔を出したのだ
ろくに運動もしていなさそうな彼がカッコよく降りれるわけもなく
落下した時に尻餅をついた
「ヤガミ様!どういうこと!?助けに来てくれたの?だったらこいつらをどうにかしてよ!」
痛そうに尻をさするヤガミにルイは縋り付くように助けを乞う
しかし、ヤガミの反応はあまりにも非情なものであった
「それで自分だけは助かろうと思っているのかいルイくん?でもね、君はもうアカウントを持っていないじゃないか」
GBOにてキャラクターの死はアカウントの消失を意味する。運営のお抱えもアカウントを失えばただの人なのだ
「社長に食べさせてあげられるだけの『悲劇』は手に入れられたから君はもう用済みだ。ということで君には然るべき処置を受けてもらうよ」
悲劇を食べさせる?一体何のことだ?
すると、また穴から女性が落ちてきた。
それも一人、二人ではなく十数人単位でだ
受け身もせず、ボトボトと落ちてくる様はなんとも不気味だった
それも、全員が全員笑顔のお面をつけている
目の前の奴らを捕らえよ!違う、僕じゃなくてあいつらをやるんだよ!やめろ、離せ!」
「一体なんだ?仲間割れをしているのか?」
ルイの妻らしき仮面の女性たちに取り押えられたルイ、振り解こうとしゃにむにもがいていると
その肘が女性の顔に当たり、マスクが外れた
「ど、どういうことだ、まさか全員」
「カズナリさん、あの人たちの顔」
「あ、あぁ」
一人の顔が露わになった時
一人一人次々と仮面を脱ぎ捨ていく
皆がその異様な光景に凍りついている中、ヤガミだけが嬉しそうにニヤニヤと笑っていた。
「な、なんでぇ!?ここは現実世界のはずなのに、どうしてお前たち同じ顔なんだよぉ!」
なんと、その女性達の顔は皆アキナとそっくりなのだ
CGを被せて他人になりすますゲームの世界とは違い、この世界は現実なのだ
「ルイ様、ヤガミ様のご厚意で整形させていただきましたの|この顔が好きなんでしょう?痛みくらいなんてことありませんわ」
「私たちはルイ様のために全てを投げ打った身、顔だって喜んで捨てられますわ」
「それにヤガミ様が私たちのために素晴らしい世界をご用意してくださいましたの」
偽者のアキナ達はさながらゾンビのようにルイにまとわりつくとどこかに連れて行こうとする
「まさかあの世界に?やだ!!僕は行きたくない!!」
「怖がらなくていいのですよルイ様。これからはずっと一緒ですもの」
「争いも苦しみもない素晴らしい場所なのですから楽しみましょう」
「おい、なんのことだ!ルイ・・・」
ふと我に帰った俺はルイに問い詰めようとする。
もしかしたらエルディナの正体がわかると思ったからだ
しかし、危ないとシラユリ氏に止められてしまった。それだけ彼女達は狂気に満ち溢れていたのだ
「嫌だぁー!アキナぁ、助けてくれぇー!!」
「ふふふ、私たちがアキナなのにおかしな方」
偽アキナたちがルインを引きずり闇へと消えていった
あまりにも非現実的で残酷すぎる光景を目の当たりにした俺たちはただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった
だが、次第に俺の中でまた怒りが込み上げてきた
「こんなことのために私はVRを作ったのではないのに」と口走ったシラユリ氏の言葉からだろうか
こんなことになったのも全てこの男の仕業だと、この男がいる限り世界は悪くなっていくと思っていたのかもしれない
「ヤガミゲンジュウロオオオオオオオオオオ!」
気がつけば俺は走っていた
渾身の力を込め、ヤガミの顔に拳を叩きつけていたのだ
ベゴッ
「ぶげっ!!」
殴られた肥満体の体がボールのように転がり続ける様を見て俺の怒りはヒートダウンした
「痛っ」
その直後右手に鋭い痛みが走った
拳を見てみると、プラスチックの破片が刺さっていたのだ
さっきまでヤガミがいたはずの場所には割れた仮面を被った中年が転がっていた
「マスクに立体映像投影していたのか」
とどのつまり、この男はヤガミの影武者なのだ
シラユリ氏が娘のフェイク映像に騙されたのと同じことをイエスマンのマスクでやっていたのだ
もはやヤガミの顔が映らない歪んだマスクでは表情がこそわからなかったが、雑音混じりの声は怒りが込められていた
「君という奴はつくづく僕を怒らせるのが好きなようだね。自分がどういう立ち場に置かれているのかわかっているのかな?」
「カズナリさん!上の穴からイエスマンが」
「室内せ撒いた連中もこちらに来るぞ!」
俺を捕まえようとイエスマン達がにじり寄ってきたその時、誰かがドアをぶち破り、ドア側にいたイエスマンが宙を舞った
見れば店長とサキちゃんがイエスマンと戦っている
「迎えに来たわよ、カズナリちゃん。」
ゼエゼエと仮面の男を絞め落としながら店長が言う
「外に車を回してるから早く!」
「ありがとう、店長、サキちゃん」
建物の外で店長とサキちゃんがイエスマンを次々と倒していく。まさか格闘もイケる口なのか
俺達は車でイベントホールを脱出、かくして日本を揺るがす小さくも大きな事件は幕を閉じた
しかし、この事件はこれから起こるだろう運営との苛烈な戦いを予感させていた




