悪い虫 決着編
運営お抱えの八綺衆によってアキナの父親と一時は敵対していたが娘の機転により、和解することができた
「娘に向き合わなかったばかりかあんな男の言葉を鵜呑みにして結果的に君まで巻き込んでしまった。やはり私はロクな親ではなかったよ、本当に申し訳ない」
「頭を上げてください、ルインは俺たちを潰し合うためにこんなことをしたんです。俺たちのやることは二つ、ルインを倒すことそしてー」
「カズナリさん!!」
知らなかったとは言え、今回の件には俺にも非がある。今はアキナを助けるべきだ。そう伝えようとした時、彼女は姿を現した
「アキナ、無事だったのか・・・」
先に駆けつけたのはシラユリ氏だったが、すぐに思いとどまった。
今回の事件も自身が作った精巧なCGによるなりすましにひっかかったばかりなのだから当然だろう
「お父さん、私のことを信じてくれないのですか?」
「シラユリさん」
「あぁ」
俺たちは警戒を緩めず周囲を見回した
すると
「あーあ、さすがに二度目は通用しないか」
俺たちが警戒したことで業を煮やしたのだろう、どこからともなくルイが姿を現した
ウソがバレたときは本当に半狂乱になっていたが、開き直ったのかまだ余裕そうに見えた
「お義父さん、もうちょっと頑張ってよ。わざわざ強いキャラ用意したんだからせめてライフ半分くらい削ってくれなきゃ困るんだよね」
「君にお義父さんと呼ばれる覚えはないがな、ルイくん。自分が何をしているのかわかっているのか?」
シラユリ氏の声は荒げこそしないが、怒りに満ちていた
「ルイ、シラユリ氏とアキナに謝れ。お前のくだらないエゴのために家族関係も悪化しかけたんだぞ」
彼の表情は悪びれてるようには見えない。むしろ明らかに不機嫌になった。
「何を謝るって?むしろ君たちが僕への無礼を詫びるんだよ!!」
直後、彼の後ろに十数人ほどのローブを着た人物が現れた。
そして、彼らは魔法を唱える体制に出た
が
「その前に騙し討ちの餌にも使えない偽物は処分ー、と」
その矛先はアキナの偽物に向き、ルインが片手を上げるとバックにいる護衛たちが一斉に魔法の矢を放つ
「くっ!」
「シラユリ社長、一体どこに!?」
「たとえ偽者だと分かっていても、娘が死ぬ様を黙ってみているわけには行かない。私はアキナの父親なんだ」
「この世界はあまりにリアルすぎる」と呟き
俺の静止を振り切って偽アキナにむかって駆け出した。
必死に止めようとしたが、【フレイムアロー】の雨に阻まれ、二人は獄炎の中に消えてしまった
「シラユリさああああん!!!」
集中砲火が止み、硝煙が晴れ、俺は二人のいた場所は焦げ、シラユリ氏はカケラすら残っていなかった
「ハハハハハ、やっぱり引っかかるのかよ。バカな大人だよ!」
「ルイ!!」
ゲタゲタと笑うルイの方を向き、烈火の如く俺は沸き立つ怒りをぶつけた
「何?VR技術の第一人者が何度も同じ手に引っかかってるのに笑っちゃいけないのかよ?」
「ちがう!」
悪魔のような陰湿で下劣な笑い声をあげるこの男に反論した
「あ?」
「違うぞルイン!この人はニセモノだと知って引っかかったんだ」
怪訝そうな顔で見る彼に俺は話を続ける
「たとえニセモノと分かっていたって自分の娘が目の前で危機に陥っていれば助けるのが親なんだ。偽物だとしても放っておけなかっただけだ!」
俺の言葉を聞き、うんざりしたような顔をしてパチパチと拍手した
「かっこいいぜカズナリ、そういう熱血漢は見ていて吐き気がする。
その薄っぺらい感情論がどこまで通用するかな?」
ルイは、一団に目配せをすると身につけていたローブを脱ぎ捨てた
「!?アキナ」
そこにいたのはアキナだった。そう、十数人すべてがアキナだった
「タネはわかっててもビックリするだろ?ステータスの数値からアバターの顔立ち、身長、爪の長さまで全部彼女のデータを元に作り出されてるんだからな!」
装備も顔も全てが似せてある偽物たちが俺ににじり寄る。若干の恐怖も覚えた
「カズナリさん、しつこいですよ。」
「私、ルインさんのことが好きなんです。どうか撃たないで」
「もうやめてください。そして、私の目の前に現れないで」
俺の動揺を誘っているのか、偽物たちは口々に俺を拒絶する旨の言葉を放つ
「悪趣味だな、イエスマンに操作してもらっているのか」
「フフ、ラジコンにこんな君の悪いセリフをインプットするわけないだろ。これは全部僕の妻僕の面倒を見てくれる財布兼召使い兼アクセサリーさ」
「こいつ・・・ッ!」
もう既にアキナ以外の女性と付き合っていたのか。
それも、アキナの面なんかつけさせて
「こんなバカな真似はやめろ!こんな男のために今付き合おうとしてる女のアバターに変装する必要はないだろ!気付け!お前たちが利用されていることに」
怒りのまま偽アキナたちに捲し立てた
しかし、彼女らの反応は意外なものであった
「そんなこと百も承知でしてよ」
「自分の人生を棒に振ってまで愛した人ですもの。どんな願いだって叶えるのが普通でしょう?」
「たとえそれが今付き合っている女になれという内容でも。原理としては今死んだ殿方と同じでしてよ」
違う
偽物たちが口々に彼への忠義を唱える。でもこんなものは忠誠はない。ただの主人と奴隷の関係。ただ支配されているだけの関係だ
「説得しようが無駄だよ、彼女らは僕のために全てを失った人間だ。逆に言えば僕を失ったらそれこそ生きる意味を失うも同然だからみんな必死なんだよ」
この男一人のために財産も大切な人たちも失い、自らの心まで壊され、挙句本来恨むべき人間のために命を捧げることになった悲しい存在。それのどこに妻という要素があるのだろうか
「さて、茶番は終わりだ。エンチャンターの真の力を見せてやるよ」
そう言うと今度は偽アキナたちは今度は詠唱を始めた
そのスキルを俺は知っていた。
アキナが拐われる前日に覚えた近接戦用に特化した強化スキル
本来、強化スキルの重ねがけには限度があるのだが、さりげなくチートを使用しており
みるみるうちにルイのステータスがありえない数値になっている
「いいぞ、今ならグラディス、いやカロンにだって勝てるぞ!」
俺がカウンターの構えに入ろうとした瞬間、偽アキナたちが俺に組付き始めた
数にものを言わせて動きを止められたことに
勝利を確信したのかルインは勝ち誇った顔をしている
「お前はシラユリ社長が偽アキナを庇おうとしたのを親子がどうとか言っていたな?」
ルイは否定するように頭をふった
「それこそお前の思い違いというものだよ
あいつは内心彼女が本物である可能性を捨てきれなかったのさ」
身動きの取れない俺に対し奴はヘラっと笑った
「どうするカズナリ、もしかしたらこのうちの一体は本物かもしれないぞ?それでも君は抵抗するのかい?」
だが、万策が尽きたわけでは無い。
むしろここから反撃の時だ
俺は叫ぶ。新しいスキルの名を
「【リアクティブ・アーマー】」
「!?」
俺の身につけていた鎧が赤く輝くと熱を帯びたパーツ四散
組みついていた偽物たちを微塵に吹き飛ばし、間一髪ルインの攻撃を回避した
このスキルはナイトの持つ数少ない有効打を出せる攻撃スキル
反面、味方を巻き添えにするリスクとパーティの半数が戦闘不能になった場合強制的に失敗扱いにされる本ゲームの仕様上
残念なスキルとして扱われた
しかしそれは依頼での話だ
「なっ!?こいつ、どうしてこうも迷いなく!」
動揺を誘うつもりで出した偽者がやられたことで逆に虚をつかれたのがめにみえた
再び強振が放たれるもその一撃は【パリィ】のスキルによって空を切った
「当たらなければ意味はないぞ」
「うるさい!」
ルイは立て続けさまに三連撃を放つ
一発でも直撃をもらえばこちらが負けという圧倒的な状況であったが
それでも確かな勝算が俺を奮い立たせてくれた
三連撃の一打目を盾で防ぐ
ミシッ、という鈍い音と共に盾の損傷率が100%に達した
手ごたえを感じ、不意に笑みを浮かべる奴に
俺は二打目への搦め手して【カウンター】と【シールドバッシュ】の合わせ技で外道を押し飛ばした
対象を外した二、三打目は空振りで終わり
結果的に盾を壊しただけで終わってしまった
「やられるまでの時間をいたずらに伸ばしてるだけだと自覚しろカズナリ」
立ち上がりゼエゼエと息をしながらルインは俺に降参を促す
「あぁ、十分に時間は稼がせてもらった。」
「なに!?まさか、あいつは!」
俺が指し示す先には、そう。本物のアキナがいたのだ
彼女が来賓席からたどり着くまでの時間をこうして稼いでいたのだ
「すみませんカズナリさん。待たせてしまって」
「フン!今更一人来たからなんだ。僕の圧倒的有利は変わらないよ」
「自分ステータス欄を見ても同じこと言えるのか?」
慌ててステータスを開くルイ
散々エンチャンターの真価がどうと宣っていたこの男は一つ見落としていた
「なぜだ、僕についていたバフが全部消えている」
「エンチャンターはバフをかけるだけが能ではないんです。」
スキル【リムーバー】
エンチャンターのみが覚える妨害スキル。
その効果は付与したバフとデバフ効果を解除するというもの。
これによりルイに上乗せされたバフの効果が消えたのだ
「覚悟しろルイ、まずはこの世界で報いを受けてもらうからな」
「ま、待って!悪かったよ。反省する、反省するから!」
当然、許されることではないアキナのスキルによって力を付与した剣で
奴に向かって一閃を放った
「ぎゃあああああああ!!!!」
八綺衆が一人、ルイの悪事はこうして潰えたのであった




