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悪い虫外伝



・・・




私の目の前にはつい先日までプレイしていた街の中ではなく闘技場が広がっており

その隣には知らぬ間に婚約者となっていた男、ルイの姿があった。


「いったい私を連れてきて何をするつもりなんですか」


「そう怒らないでよ。とっておきの出し物を用意したんだからさ一緒に楽しもうよ」


私の機など知らず男はヘラヘラと茶化すように言った

「こんなことをしてタダで済むと思っているんですか?カズナリさんだって黙ってませんからね」

「そうだろうね、今さっきカズナリのやつもホールに入ったのを確認したよ。言いつけ通り一人で来るなんて笑っちゃうけどさ」


君は撒き餌だ、と言わんばかりにルイは語る。



「今回決戦に使うコロッセオはね、GBOよりも前にやっていたゲームの対戦会イベントで使われていた場所なんだ。」


突然何を言い出すのだろうか

それにしても配慮のかけらもなさそうな運営が対戦会とは何か意外ではあった


「驚くのも無理ないか。だって今はプレイヤーの交流はおろか友達を作るのも大変だしね、そんな連中がイベントなんてするのは意外か」



ルイは「これを企画したのは開発側(・・・)だけど」と付け加える

前々から開発と運営が不仲であることを匂わせていたが

そこに根付いていた問題は思ったよりも深い


「当時のダメージ判定は体が痺れる程度、対戦会だって今とは違って勝って嬉しい負けて悔しいお遊びみたいなもの。僕から言わせればクソ茶番だ」


あの人(カズナリ)が運営側に操られ危うく同士討ちに遭ったときの事、つんざくような悲鳴をあげのたうち回る仲間(サキ)の姿、様々な地獄絵図が脳裏にフラッシュバックする


「ヤガミ様も同じ考えだったんだろうね、開発に廃止させて痛みや傷の表現をリアルにするように強要させた。それに対して口うるさく反発する人間も出てきたけど操作性や自由度を昔のゲームみたいにしたら黙ってくれたよ」


強い目眩と吐き気がした


運営はそういう危険な依頼を意図して用意していた。

それがまさかゲーム性を投げ捨ててやることとは

本当に人のやることなのだろうか


「そうだ、君にはカズナリの対戦相手が誰か話してなかったね」


もう一秒でも早く家に帰りたかった私に

この男は追い討ちをかける一言をかける


「今日この日のためにGBOにデビューしてくれたシラユリユウト。僕と(・・)君のお父さんだよ」


嘘だ。

仕事の都合、我が子である私ですら直接会う機会がない父親がこんなところにいるとは信じたくはなかったし信じられなかった



「彼の中じゃアキナがカズナリに騙されていることになってるからね、かなり乗り気だったよ。対戦用に特化したキャラのアカウントを渡した時のお父さんの反応見せてやりたかったなぁ」


私の人生でこれほど他人を憎んだことはなかった。



「なんてこと・・・っ!」

その時、片方の門から彼は姿を表した。

なんとかしてこの二人を止めないと


私は二人に止めるように叫ぶ

だが、声は届かない


「残念ながらここからじゃ声は届かないよ。それにこの空間は外部サーバーから独立してるから第三者がここに割り込むことはできないし戦ってる二人が外部チャットを拾うこともない。もちろん決着がつくまでは途中離脱不可能ー!ここから会場まではかなり時間もかかる」

 

ルイはいやらしい笑顔を浮かべる



直後、カズナリの体が宙を舞った。もう見ていられない。私は思わず顔を手で塞いだ



煽るようにこの男は私の顔を覗き込んで私を責め立て

「君が悪いんだぞ、カズナリの家なんかに逃げるから!

だから大好きな二人のどちらかがやられることになる」


確かにそうだ。まったくの偶然とはいえカズナリさんと同じアパートにいればそういう誤解もうまれるのだ


「どうしてもやめてほしいっていうならあること(・・・・)をしたらこの戦いを止めてやるよ」


あること?

藁にも縋る思いで私は問いかける


「・・・そうだな、ここはひとつ僕に『愛してます』と言えば考えてやってもいいかな。カズナリに『今までのことは全部あなたを騙すための罠だった』と言う。簡単な事だろ?」



「!?貴方って人は!」



カズナリさんはいつも私のために戦ってくれた

それに比べて私は顔を塞いで泣いてばかり

こないだだってお守りまで用意してくれたのに・・・


お守り?



拐われる前日に彼からもらったお守り

仲間うちでのみ使える専用回線。

これさえ使えば今戦っている二人にも伝わるかもしれない


そうだ。今は泣いている時ではない。




私も戦うんだ



侮蔑を込めた笑みを浮かべるルイに対し冷ややかな笑みで返すと態度が変わった事に戸惑いを見せた


「八綺衆というからどんな人かと思ってましたが、父を利用しなければカズナリさんと戦えない腰抜けだとは思いませんでしたよ」


先ほどまでヘラヘラ笑っていたルイから笑顔は消え、私の裾を掴みかかった


「あまり調子に乗るなよ?僕は君にチャンスを与えてやってる(・・・・・・・)んだ。僕がいつまでもニコニコ黙って聞いていると思ったら大間違いだぞ」


首の骨をへし折らんばかりにルイの手に力が加わる。


『立場を弁えろよ!いいから黙って俺に好きだと言えばいいんだよ!』


私は二人を戦わせるための人質だ、なら殺せる道理はない。勇気と声を振り絞り煽り立てる


「私を殺せるんですか?わざわざ愛してます(・・・・・)なんて言わせようとしてるのに」


『調子に乗るな。俺はお前の財産と会社が欲しい。別にお前なんざどうでもいいんだよ』


お前の価値など財産のついでだと捲し立てながら


『テメェ程度の女なんざ他にも掃くほどいるんだよ。ヤガミ様の命令だから仕方なく付き合ってやってんだ!自惚れんじゃねぇぞ!』


ダァン!

ルイは私をそのまま地面に叩きつけると剣を抜いた

冷静さを欠いてる今情報を引き出すには



「・・・そうですか、私が死んでもあなたには策があると」


『そうだよ!以前にお前が社長とヤガミ様に直談判した時、その時の顔データを使わせてもらったのさ!!今の時代顔を出すだけでもリスクはあるんだよ』


怒りながらも勝ち誇ったような顔で私をみてこう言った


『お前の親父もフェイク映像で俺のことをすっかり信用している。もう俺の言う通りにするしかないのさ』


ここまで余裕の表情を崩さない私にようやく気づいたのだろう

八綺衆の男はハッと気づいたように無駄口を止めた


「おい、お前!まさか外部に」

『聞こえますかカズナリさん。これがこの男の本性です!あなたからいただいた〈お守り〉のおかげです!』


戸惑う男には目も暮れず私は二人に呼びかける

二人の声が声が聞こえる予定通り(・・・・)音声が漏れていた証拠だ



「あああああああああああああッ!!!!」



半狂乱になった黒幕はログアウトした。

それはつまりカズナリさんたちも離脱できるという事だ

かくしてもう一つの戦いの幕を閉じたのであった


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