続悪い虫
八綺衆のメンバーであるルインの卑劣な手段によってアキナが誘拐されたことを知った俺は
奴の指示通り休館中のイベントホールに向かった
しかし、そこに待ち受けていたのはルインではなかった。
「タカナシカズナリ、よくも散々娘を誑してくれたな!ルイ君とアキナとの婚約をそんなに気に入らんのか」
ドワーフの男が叫ぶ
娘と言ったか?あの男は
俺の体に悪寒が走る。
こいつだ、自分の地位と権力のために娘を売り飛ばし
この騒動を引き起こした根源
シラユリユウト
VRとAI技術の著しい発展に貢献した男であり、アキナの父であるシラユリ電機の社長だ
ふつふつと怒りが沸き立つ。
「貴様!!」
剣と盾を構え俺は飛びかかる、が
ズゴッッ
「ぐ、はっ!」
刹那、俺の横腹に強烈な衝撃が走り俺の身体は天高く舞い上がった
俺が激昂した瞬間、その隙を突いて脇腹から掬い上げるようなハンマーによる一撃をモロに受けたのだ
「これ以上うちの娘と関わるな!!アキナには婚約する男がいるんだぞ!」
下からアキナの父親が叫ぶ
その婚約のためにアキナはどんな思いで家を出たのか
彼女はどんな気持ちで泣いていたのか
この男はわからないのか
「あんな男とくっつくのが幸せだっていうのか!!」
体勢を立て直し、俺は腕に取り付けていたバックラーを外すとドワーフの顔めがけて投げつけた。
ナイトの数少ないアウトレンジ攻撃だ
ゴッ!!
「ぐッー!」
直撃ー!
実際の痛みに慣れていなければ立ちくらみするだろう。そんな効果は本来この技にはないのだが
続けざまに縦一文字にドワーフの胸から腹にかけて一文字の傷をつけた
腹に斬撃を受け、咆哮に近い悲痛な声が聞こえる
あの男が発した攻撃は高い威力の代わりに大きく隙ができる。本来はその弱点を〈ノックバック〉の効果で埋め合わせているのだが、それを上に打ち上げるために使った。
間違いない、キャラクターのステータスと装備は優秀だが、肝心のプレイヤーは素人だ
「少なくとも彼は貴様よりもためになる人間だ!二度と娘の前に現れないでもらおうか!」
よろけながらも巨大な拳が迫り来る
「そんなことアキナは望んじゃいねぇ!」
負けじと俺も【カウンター】を使い盾で殴る。
男の顔面に盾がめり込むと男の体は地面に叩きつけながら遥か向こうに飛んでいく。
これがノックバックの正しい使い方だ、覚えておけ
相手の気迫と戦意は目を見張るものがある。
執念で立ち上がってきた
だからと言ってこちらも譲るわけにはいかない
「まるで娘を知ったような口を聞くな!貴様はアキナのなんだっていうんだ!」
「・・・えっ?」
GBOをはじめてすぐに知り合った初めての仲間、いつも側にいてくれて俺に勇気をくれた存在。きっと彼女がいなければ運営やその取り巻きたちと戦うこともできなかっただろう
引っ越してきて一緒に住めると思った時は嬉しかったし、その一方で自分とは違う世界の人間だと分かった時には遠ざかっていくようで辛かった
「俺はーーー」
直後、ハンマーが目の前に飛んでくる
一瞬の隙を突かれ俺は慌てて盾で攻撃を受け止める
ゴガ!!
「ぐっ!」
武器の投擲を防ぐことに成功し、盾を下ろすと今度は殴りかかってきた
間に合わなーーー
ドォッッ!!
脳が揺れ、骨が砕かれんばかりの強力な一撃が顔面に入った
なんのスキルでもないただのパンチだが
俺が動揺するのを狙っての作戦か
「妬みか嫌がらせ目的かは知らないが、たかだかゲーム上の付き合い程度の他人が幸せに水を差さないで欲しいものだな。」
「家族ならなんだ、子供のことを全て知った気になったような口を叩きやがって」
親ってのはどうしてこうも卑怯な人間なんだ
「我が子の幸せを思わない親がどこにいる!」
「!?」
アキナ父の追撃を【パリィ】で受け流し顔面に拳を叩き込む
「自分の子供の幸せのためなら娘の尊厳も無視するのか!?お前が、お前が勝手に縁談を進めるからアキナは家を出たんだぞ!」
「なに?」
男から闘志が揺らいだのを感じた
この男はら娘が自分の意思で家を出たことを知らないのか?
「出まかせを言うな!アキナの口から『好きな人ができた』とルイ君を紹介してきたのだぞ!?私はそれを尊重して縁談を進めたに過ぎない」
この戸惑いよう、ウソは言っていないようだ。
彼の話が本当ならこの男もルイに騙されたことになる
「・・・それは本当にアキナの口から聞いたのか?」
「仕事柄直接会う機会があまりなくてな、ビデオチャットで彼女と連絡をとっていた」
その翌日アキナが家を飛び出したとルイの口から告げられたと言う
ゲームで知り合った男性に騙されたというデマと共に
その時にはアキナは家を出てアパートに転がり込んできたばかりの頃だ。あの日は夜通しでGBO内でレベリングしていたのだからビデオチャットなどできないはずだ
『いい加減、観念したらどうだ!』
ルイの声がどこからともなく聞こえる。
ルイがうっかり〈音漏れ〉をさせたのだろうか
『テメェ程度の女なんざ他にも掃くほどいるんだよ。ヤガミ様の命令だから仕方なく付き合ってやってんだ!自惚れんじゃねぇぞ!』
いや違う、おそらくアキナが筒抜けにさせたんだ
俺たちの戦いを止めるために
こちらに音声が筒抜けになっているとは気付かず、ルインは毒づいている
「こんな男との婚約を推し進めていたんだぞ、そのためにアキナは家出までした!それでも結婚させるつもりか!?」
「そんなバカな、あの映像は確かにアキナそのものだったのだぞ!どうやって短期間のうちにモデルを用意できたと言うのだ!」
『そうだよ!以前にお前が社長とヤガミ様に直談判した時、その時の顔データを使わせてもらったのさ!今の時代顔を出すだけでもリスクはあるんだよ!』
なるほどな、奴らはアキナの会社を狙ってこいつを送りつけたのか。おそらくは会社を乗っ取ってVR技術を独占しようという腹だったのだろう。いずれにせよ〈顔〉を盗むのは犯罪行為だ。証拠も収めることはできた
『お前の親父もフェイク映像で俺のことをすっかり信用している。もう俺の言う通りにするしかないのさ』
絶句するアキナ父、当然だ。先程まで心の底から信用していた人間の裏切りを受けたのだから
『聞こえますかカズナリさん。あなたからいただいた〈お守り〉のおかげです!』
さしものルイも自分が大墓穴を掘ったことに気づいたのだろう後ろから悲鳴と怒号の混ざり合った彼の声が聞こえる
「観念するのはお前の方だぜルイ!さっさと俺たちの前に姿を現しやがれ」




