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悪い虫

「アキナさんが見つかりました。・・・どうも彼女、悪い男に騙されていたようで、ハイ。今はその男のアパートに住んでいるみたいです」


「・・・ええ、怒る気持ちはごもっともです。ですが、あなたの立場上人を殴るなんてことはできない」


「そう思ってお義父さんにはその男気兼ねなくブチのめせる最高の場所を提供しました。与えたダメージがそのまま痛みとして反映し、死の恐怖さえリアルに味わわせられる素晴らしいゲーム




     「ギルドバウトオンラインをね」




平日の昼前、手早く買い物を済ませ、俺はアパートに向かった


アキナが家出してから数日後、

彼女がVR技術でトップシェアを誇るシラユリ電機の令嬢ということもあり世間では失踪した話で持ちきりだった。

外出などできるわけもない彼女のため

隣人である俺が買い物を頼まれたのだ


「いくら埼玉のはずれにある安アパートといえど特定されるのは時間の問題か・・・」


今までカップ麺とコーヒーばかり買い込んでる人間が急に食材を買いだしたら怪しまれるのではないか?バレたら管理人にまで迷惑がかかるのでは?

さまざまな心配事が浮かんでは消えていく


それでもれ俺以上に悩んでいるかもしれない彼女の前では明るく接していかなければならなかった


「アキナただいま。」

「・・・」


返事はない

「頼まれてた炭酸水、メーカーがわからなかったから適当なやつ買ってきたぞ。」

「・・・」


やはり返事はない。

買い物中、彼女に何回か電話をかけた時も一向に出なかった。何か別用があったのかと考え気にしてはいなかったが、何かがおかしい


「入るぞ?」


彼女の借りている部屋にはカギがかかっていなかった。

まるではじめからアキナがここにいなかったかのように部屋はきれいになっていたのだ


「なんの紙だ?」


狐に化かされた気持ちになっていた俺に

玄関に置かれていた一枚の紙が幻ではないのだと俺を現実に引き戻した


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アキナは預かった。

12時、◼️◼️◼️ホールで君を待つ

         八綺衆 ルイン

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「連中め、嫌がらせのためには犯罪さえ平気で行うのか」


八綺衆、これはギルドバウトオンラインにて運営のお気に入りであるトッププレイヤーたちの総称だ。

つい先日、そのうちの一人を策略に嵌めて殺してきたばかりだが

とうとう現実に報復をしはじめてきたのだ




「この場所で間違いはないが・・・」


そこはちょっとしたゲームの大会で使われているイベントホールだった。カレンダーには休館日と書かれており(当たり前だが)電気もついておらず到底ここで何かをできるような場所ではなかった。


イタズラかと思い引き返そうとすると


「カズナリだね、本当に来てくれて嬉しいよ」


電子式のロックが解除され、建物の電気が一斉についたではないか

俺が呆気を取られていると

いつの間にか黒いスーツの男が入口のドアに立っていた


笑顔のお面を被っており顔はわからないが体つきからして三十代くらいの男性だ。


「ホントに一人で来てくれたんだねカズナリ。こないだはリンドのやつが世話になったね、まぁ上がりなよ」

「!?」


馴れ馴れしい口調で話す声は、見た目に反して若々しかった。

よく見るとその声は男の口から発してはおらずネクタイにはカメラとスピーカーが付いていた。おそらくルインはこの男を通じて俺に会話しているようだ


「ふふっ、驚いたろう。これはヤガミ様が用意してくれたラジコン『イエスマン』さ。こいつで案内してやるか

ら着いてこい」


狂ってやがる。

ただのごっこ遊びの延長か本当に脳か何かを改造されて遠隔操作されているのか

笑顔の面で隠された男は自分の口では何も語らない


「大人しくついてこい。この男を操作(・・)するのは慣れてないんだ。おかしなことはするなよ、僕が冷静さを欠いてコントロールを失えばうっかり(・・・・)君を殺しかねないからね」


目の前にいるスーツの男は斜め前の通路を昔のポリゴンゲームみたいに壁の方を向き、右半身を壁に擦り付けながら先導している




目的地であるホールのステージに着くと向かい合わせになった筐体が置かれていた

歓声も拍手も鳴らない無音のステージを一人で渡っていると

誰もいない観客席のなか一席だけ誰かが座っていたのを確認した


「アキナ!?」


俺は思わず叫んだ。しかし、返事はない。


「いくら叫んだって無駄だよ彼女の意識はゲームの中だからね。こんなところで油売ってないでさっさとヘッドセットを付けろ」


よく見れば彼女はヘッドセットをつけられているではないか

ルインの言う通り彼女の意識はゲームのサーバーの中なのだろう

あたりを見渡せば同じような仮面をつけたスーツの男たちが機材を動かしている

仮にここで戦わず彼女を連れ出すのはあまりにも望みは薄い

ここは黙って従うしかないか


「・・・ログインしている間、俺の身の安全の保証はあるのか?」


俺の問いに対しルインは「勿論だ」と答えた


「ヤガミ様は|君がゲームに敗れることを望んでいる。それに社長も君が敗北し屈辱満ち溢れた顔を食べたがっている」

「?・・・わかった、そう言うことにしておこう」


最後の言い回しはよくわからなかったが

俺が負けるまではなにがしらの妨害はないということだろう

ヘッドセットを装着し、ゲームの世界にダイブした


現実とは違い仮想空間ではコロッセオの中は満員御礼だった。照りつける太陽の下歓声が鳴り響く


「八綺衆である僕の権限で君には恩赦を与えてある。せめてもの手向けだ。僅かな時間だけでも外の空気を吸うといい」


ルインの声だ

ようやく奴の声を聞かないで済むと思っていたのに天の声として俺に恩着せがましく語りかけてくるとはな


そう、俺は少し前に敵対ギルド(黒蛇党)のボスに啖呵を切ったことで刑務所に入れられていた、本来なら依頼はおろか外には出られない身だ。

それをさも『俺のおかげだ』と言わんばかりに



ということは対峙する相手はルインではないのか?


ふと目に入れた来賓席にアキナの横にルインもいる。

彼女も俺に気づいたらしくこっちを見て何かを訴えかけているが何も聞こえない

「ルインの挑発に乗るな」か?「助けて」か?


「決闘前によそ見をするとは随分余裕があるな」


その一言でふと我に返ると目の前には髭面の体格のいいドワーフ種の男がいた。

2メートルはあるだろうか。隆々とした筋肉、巨大なハンマー、近接格闘に特化した構成だ


「これから君はこの男と戦ってもらう。勝ったら」


「ふざけるな!俺はお前と戦いに来たんだ!なぜ見ず知らずのの相手と戦わないと・・・」


ルイに反論する間もなく目の前の男が言葉を遮った


「見ず知らずだと?人の娘を弄んでおいて随分な物言いだな貴様は知らずとも私は知っているのだぞ、タカナシ カズナリ」 


今、娘と言ったか

まさか、この男は

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