アキナ
「ふぅ、今日の刑務作業終わり」
今日の分の草むしりを終え俺は体を伸ばした。受けたダメージだけでなく筋肉痛まで再現するとはなかなかセンスがある
現実世界なら草をぬけばそれだけ綺麗になるがゲームの中では一定時間ごとに草が生えてくるのでいくら抜いても綺麗になることはない
昔、収容所で穴を掘らされたあとその穴を自らの手で埋めると言う警務作業があるのを思い出した
おそらく運営はそうやって反抗の意思を削がせようとかんがえているのだろう。
あの事件で俺の他にも五十人近く収容されている。他の人たちがどうなっているのか心配であった
今回のノルマを終わらせた俺はそそくさと現実世界へと戻った
いくら外出できないとは言え仲間を呼び出して面会室で会話することも可能ではあるが俺はあえてやらなかった
ここは問題行為を起こしたプレイヤーを収容している牢獄、再犯や外部との繋がりを警戒して盗聴や監視くらいはやっていてもおかしくはない
幸いメンバーとは全員近所にいるのだからわざわざこんなところで話をするメリットはない
「悪い、アキナ。遅くなった!」
「お疲れ様です、私も準備はじめてたところなので大丈夫ですよ」
俺は足早にログアウトを済ませるとお隣のアキナの部屋にお邪魔した。
まさか賃貸で妹以外の異性の部屋にお邪魔することになるとは思ってもいなかった
謹慎がとけるまでの間、俺は彼女の部屋でプレイングをアドバイスをすることになったのだ
しかし、現実世界にいる俺が、どうやってゲーム世界のプレイングを見るかって?それは簡単だ。
アキナのヘッドセットに外部出力を繋げてモニターで出力し音声は携帯を同期しているのだ
携帯の同期至ってはゲーム中になんらかのトラブルや急用のためにだいたいのVRMMOに標準的に装備されている
|(さすがに依頼の攻略などで意図的に使っていたりすれば厳罰な処分も科せられるが)
アキナがやったのは同業者もいない完璧なソロで行う討伐ミッション。スライムの群れを倒すといった内容だ
滑りやすい足下を転倒防止の付与呪文で安定させたのち、飛びかかるスライムを次々とかわしていく
途中【攻撃強化】顔面くらいまでの高さまで飛び上がる敵もいたが威力を高めた杖でスイングしてやるとスライムが吹き飛んだ
「よし、今!」
スライムの群れが着地したところを慣れた手つきで複数の魔物にターゲットをつけて呪文で焼きはらっていく
ギルドバウト特有の嫌な敵の配置にも動じずそつなくこなしてしまった
・・・
「終わりました。どうですか?私の立ち回りは」
昔ほどではないとはいえまだおどおどしてる彼女だが
ゲーム内の動きは繊細で確実な動きをしている。無駄な動きもないしこのままでも大丈夫だろう。ただ
「攻撃の出の時、対象を選ぶのに手間取っているな。マクロは使ってるか?」
「マクロ?」
俺はマクロについて説明した
言わばマクロは簡単なプログラムのようなもの。一つの特殊な動作に複数の動作を割り当てたり、一定の条件にあった動作やアイテムを自動的に行うなどする行為だ
「それってチート行為みたいなものではないんですか?」
「基本的にはNGになってたりするがゲームによっては公認のやつもあるな。今回使う奴はギルドバウト公認のマクロだから大丈夫だ。」
プレイヤーに散々嫌がらせを行う運営公認ともなれば信頼感はゼロだが、俺自身ゲーム開始から使ってなんの問題もなかったので問題はない
「アキナのスキルには複数の敵に対して攻撃する呪文が多いしロックオン短縮のためにもロックオンの優先順を2、3パターン用意しておこう」
「ありがとうございます」
それから俺はアキナのデバイスにアプリの紐付けを行った
「これは?」
「ゲームの中で何かあった時のためのお守りだ」
第三者に悟られず遠くの相手とやりとりする方法は【テレパシー】もあるのだがとにかく制約が多く使いづらい。
そのため電話の機能を同期する要領で通話アプリにも紐付けを行った
「電話だとどうしても一対一になるからな。エルディナのことや《黒蛇党》周りの事件とか何かわかった時とかこれを使えば離れた場所でも通話できる」
グループ通話や招待できれば複数人と同じ話題で話すのはかなり便利だ
しかしこれも敢えて非常用のものだ。電話の機能よりもかなり厳しく取り締まられているし
オープンチャットで流すと音声がダダ漏れになってしまうことを忠告した
場所は変わって都内某所
東京の一角でマイホームを持つどこにでもいるカップルだ
男の方は上機嫌でスマホをいじってはいるが、女性の方はくたびれているようだった
「ねぇ〜、アミぃ〜。新しいガチャ回したいからお金ちょうだ〜い。」
猫撫で声で女性に甘える血色のいい男性。それに対してアミは思い詰めた表情をしていた。
「ねぇ、ルイくん。ゲームに使うお金、もう少し減らしてくれないかな?」
ため息をつきながらアミはソファーに寝転びながら携帯をいじるルイに語りかける。
「あなたを養うお金、もう払えないの。お父さんも働かないならもう縁を切るって・・・」
「エーーー!!!!!僕のこと嫌いになったの!?ヤダヤダヤダヤダ!」
年甲斐もなく駄々をこねるルイ
「そうじゃないけど・・・いいよ、今回だけだからね。私バイト行ってくるから、大人しくしていてね」
「ヤッター!!!」
女が出て行った頃合いを見て、男の態度は豹変した
|(ケッ、この女ももう限界か)
この男、ものすごい女癖の悪さで八綺衆の中でも有名な人物だ。
人懐っこい性格を装い、庇護欲をくすぐり、最終的には周りから孤立させ、搾取するだけ搾取して後はポイ、だ
彼によって人生を狂わされた女性も少なくはない
そんなある日のこと。彼の元にプロデューサーのヤガミからメッセージが入った
ゲーム内外で貢献する見返りとしてゲーム中で優遇してもらえるほかに今のヒモ活動を全面的にバックアップしてくれるといったのだ
ある時はコネを使って著名人に口裏を合わせ、ある時には施設まで貸し切った。
ヤガミ自体にすごいコネがあるそうだが何故ここまでして協力的なのかそんなことはどうでもよかった。
政治家顔負けの話術を持つ自分だけではどうにもならかっただろう、大企業の娘さえ自分のものにできたのなら一生金には困らないのだから。
ソファに転がりながら携帯を覗くルイ
「くそっ、あいつが逃げてから一週間。ナヨナヨした女だから押し通せばなびくと思っていたのに」
ルイが覗く携帯には現実世界のアキナの写真があった
向こうの父親にはうまいこと言いくるめてこの女には内緒で結婚の縁談もうまいことすすんでいたがまさかこんな行動力を見せるとは
今や娘のことに電話が鳴りやまない
ぼんやり考えてると携帯に着信が入る
ヤガミ様か?一体なんだろうか電話をとれば「いいニュース」と「悪いニュース」があるという
「君の大好きなアキナちゃんだけどね、どうも最近このゲームで遊んでいる子だよ。登録時の情報と照らし合わせたが間違いない」
(マジかよヤガミ様。それ犯罪だぜ。こんなことのために個人情報まで開示するなんて、上級国民とかいう噂も本当かもな)
それで、悪いニュースとはなんだろう?軽い気持ちでルイは聞いてみる
「実は一度彼女には会っていたんだけどね。どうも彼女、カズナリくんのガールフレンドなんだよ」
「何ぃ!?」
こんな形でたてつくとは。
「奴は僕の手で潰すしかなさそうだな」




