外伝 帰路
時間を少し巻き戻してグラディスと会うちょっと前の話
俺達は《黒蛇党》が来るまでの間に依頼に参加していた
「皆様、先日の発表は見てくださったでしょうか?」
呼び集めたギルド員達の前で夢見の巫女は
皆の顔がどんな顔をしているのかもちゃんと見ずに依頼の説明をした
「本日一般人に手を出さないと言う協定を結ぶために《黒蛇党》の一団がギルド街を目指して向かっていました。」
それだけ言えば聞こえはいいが、実際は民間人の命のために《黒蛇党》に対して一切の危害を加えないという不平等条約だ。一般人を人質に捕らえられて的に屈服されたとでも言ってもいいだろう
巫女は話を続ける、どうもまた魔物が現れたらしく、ギルド街に向かう《黒蛇党》の乗っていた馬車を襲撃、護衛の数人が足止めのために応戦したそうだ
「しかし、慢心したところを狙われ、現在は追い込まれてます。このままではー」
「そこに介入するメリットが俺たちにあるのか?」
彼女は俺の方に顔を向けた。
協定はあくまで件の連中に手を出さないというものであって、助けるまでは協定には入らない。
少女は俺の顔をじっと見たあと話を続けた
「近辺住民の安全や安心も脅かされてますし、これは《黒蛇党》に恩を売るチャンスとも考えられるでしょう。このまま有利に進められたなら
魔物は第一護衛対象である護衛達を執拗に狙って来ますので共闘してください」
何が恩を売るチャンスだ。パシリに使われたいじめられっ子がいう言い訳じゃあるまいし
そもそもこいつらが共闘できる戦力に・・・戦力に?
「そいつらは戦えるのか?さすがに抵抗できるくらいの余裕は残っているだろ?」
嫌な予感が頭をよぎる。この世界で友人以外のものをアテにはできないのだ
「先ほども言った通り追い込まれています武器も壊され、スキルも使い切り現在は戦意を失っております」
ざわつく参加者たち、この時俺が質問していなければ危うく彼らをアテにして戦闘を疎かにしたスキル構成にするところだった
せめてものの救いは連中が悪い意味で有名なギルドであったことだ。彼らに畏れをなした一般人が近寄らなかったお陰で人払いはしなくて済んだのだ
「ユルシマセン!!ユルシ、マセン!」
現場に着くと魔物がギルド員二人を襲っている最中であった。
敵はヒトの頭に置き変わった二足歩行の象のような魔物だ、特筆すべきは両腕が象の鼻のように体のわりに細長く自在に曲げ伸ばしできるところだ
低級の魔物は知能が低いらしくうわ言のようにヒトの言葉のようなものを連呼するのだが今回は
彼らに対しての怒りかしきりにユルシマセンと連呼している。
「ここまでは夢見の巫女が話のとおりだな。打ち合わせの通りに行くぞ」
「了解」
作戦は簡単なものだ
俺と店長は前衛、アキナとサキちゃんの後衛で分かれ
俺と店長が魔物の注意を引いてる間に護衛対象を後衛まで呼び寄せ
そのあと前衛二人でノックバックのスキルを使い後衛を射程圏から引き離す。あとは後衛二人の魔法攻撃を浴びせて終わり
完璧な作戦のはずだった。実際に戦うまでは
「助けてくれー!」
「おい、ウロチョロ回るな!」
まず真っ直ぐに逃げてくると思った護衛対象二人が蛇行したり交差したり不規則な動きで俺達は翻弄されてしまった
「殺される〜。タスケテー!」
「ちょっと、どこ触ってるのよ!」
「こら、離せ、守れないじゃないか!」
「そんなこと言ったって〜」
黒蛇の兵士たちは俺の服を掴み離さない。
システム上はスキルを阻害するはずはないのだがそれでも鬱陶しい
「か、カズナリちゃん!前」
「なっ!?」
その直後俺たちの目の前に魔物の腕が俺たちに襲いかかる
バキャオ!!
「きゃあ!!」
「うおっ!!」
前衛二人は触手によって吹き飛ばされた。これはノックバックの効果だ。
「くそっ、防御できなかった」」
流石にヒトのせいにはしたくはなかったが
守りの体勢を崩され完全に陣形は崩壊してしまった
「あれ、あの二人は?」
「ちょっと、後ろ回んなし!」
「なんですかあなたたちは!?離してください!」
「こっちだって命がけなんだよ頼むよー」
いつの間にか護衛対象は後衛側に移動し、しつこく絡んでいる
ビュイッ!
「くそっ、こんどこそ!」
魔物のしなやかな腕が飛ぶ。
いつの間にか魔物の腕の射程距離が後衛を捉えていたのだ
俺達は庇うために間に立つが
【かばう】のスキルで後衛を守ったにもかかわらず腕は弾かれることもなく俺を無視して横切っていく
紐でくくりつけたものが手繰り寄せられたかのように二人を攻撃した
ビュイ、ギリリリリ
「う、ううっ!?」
アキナは触手に締め上げられ、
ビィッ!バァン!!
「ぐぁっ!?」
ホビットの肉体であるサキちゃんの体が宙を舞う
「アキナ、サキちゃん!!」
「ぐっ、うっ、ううっ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!」
蔦のように絡み付いた魔物の腕がアキナの体を締めあげ、肉か骨がダメになっていく音を鳴らしている
サキちゃんは痛みに耐えかねず悲鳴をあげてのたうち回っている
ついでに言えばこの阿鼻叫喚にアイテムインベントリの中のエルディナもずっと悲鳴をあげている
ドサッ!
「おい、アキナ!しっかりしろ!」
「す、すいません。何故か避けることができなくて」
アキナこそ今は慣れているが
MMOは数あれどダメージが実際に痛みとして反映されるのはこのゲームくらいだ
普段は前衛の守りが完璧なため彼女はまだこのゲームの痛みには慣れていない。
おまけにホビットと僧侶はどちらと打たれ弱い。少しの攻撃でも致命傷になりかねなかったのだ
それでも気絶しなかったのはあまりにも不幸すぎた。せめて気を失っていたならここまで苦しむこともなかったのに、どのみちこれでは回復も支援射撃も期待はできない
状況をまとめるとこうだ
・触手の攻撃はノックバックの効果を持っており、さらに俺が守りの態勢をとってもなぜか代わりにダメージを受けることができない
・護衛対象二人に加えサキちゃんは虫の息、実質戦力マイナス1で三人を守ることとなる
・うち二人はランダムに移動して俺達に対して積極的に〈かばわされる〉
・僧侶の機能は停止しており回復役は見込めない
足手まとい二人に翻弄されながら、こんなものは共闘とは言わない
協定が結ばれたとしてこれからもずっとこいつらに庇われながら魔物と戦うのか。
・・・かばわされる?
なにか引っかかるな
「カズナリちゃん、何か変よ。」
「たしかに、あいつの攻撃が何故か直撃する。気が散っているのを差し引いても何か変だ。エルディナ、あいつらインチキしてるんじゃないのか?」
「それはないです。全て仕様通りに動いてます」
考えろカズナリ、あの兵士が俺たちの後ろについた時に決まって攻撃が飛んでくる。
おまけにこれほど派手に攻撃を仕掛けられてもあの二人は無事だ。
「うおおい、お前らだらしねぇぞ!」
「本当に俺たちを助けに来・・・」
「【シェルター】!」
どこからともなく現れた二人の体に頭にきた俺は大玉の中に閉じ込めた。
この魔法は俺が新たに習得したスキル。重量制限はあるが自分の近くにいる全周3メートル内にあるものを任意でバリアの球の中に入れる呪文だ
「すいません店長、アキナを頼みます。」
今度こそ攻撃を受けたらサキちゃんの命は危ない。
スピードこそ遅いが、【かばう】スキルを使えば3メートル先の味方のダメージは引き受けられる。・・・ちゃんと発動できればの話だが
「わかったわ、アキナちゃん。私の後ろに隠れて今のうちに回復してちょうだい【回復付与】はまだ使えるでしょ?」
「サキちゃんに付与するくらいはできます」
今更陣形がどうと言ってる状況ではなかった。
幸いあのトラブルメーカー達は球の中だ
「ユルシマセェェェン!」
魔物の腕が振り上げられた。俺は全速力で痛みに悶える仲間の元に駆け寄る
「やめて!」
「おい、エルディナ。危ない!」
カバンからエルディナが飛び出し守ろうとする、が
が、魔物は手負いの僧侶には目も暮れず魔力の球を親の仇のように狙う
「どういうことだ?」
魔物は元々黒蛇党二人だけを狙うようにしているのか?
じゃあどうして俺たちだけがダメージを受けるようにしているんだ?
まさか、『俺達はかばわされている』?
【かばう】動作を行なった場合、そのプレイヤーは避けることはできず、他のプレイヤーからかばってもらうことはできない
仮にあのNPC二人が相手を強制的にかばうの動作を引き起こしていたのなら
俺の【かばう】行動が無効化され、サキちゃんがあっさりやられたのにも辻褄が合う
不意に攻撃を受け後衛二人を守ることができなかった自己嫌悪で考えていなかった
俺はUターンし、未だにメッタ打ちされている球の方に向かった
「アキナ、俺の攻撃力を強化、メリダさんは俺ごとノックバックで魔物に向けて吹き飛ばしてくれ。」
「えっ、はい!?」
「わ、わかったわ」
少し戸惑ったのちにみんな俺の考えに乗ってくれた
「この!」
俺はバリアに組みかかる。バリアの反発力と魔物の打撃を一身に受けることとなるが体力と打たれ強さだけは自信がある。これらを耐える
「いま、力を付与しました。」
「思いっきりいくわよ!」
痛みの中俺の筋肉が活性化していくのがわかった。エンチャンターであるアキナのスキルが発動したのだ
バゴォン
直後、自動車がぶつかってくるような衝撃が走った。メリダさんのノックバックで俺は魔力のバリアごと吹き飛ばされたのだ
腕をすり抜け魔物目掛けて吹き飛ばされる
ここまでくればあとは仕上げだ
「これでもくらえぇ!」
バリアを【シールドバッシュ】で吹き飛ばす。
二段ロケットのように勢いをつけたボールが魔物の上に落下したのだ。
最強の武器である腕も遥か先、戻すには間に合わない
「ユッ!!」
グシャア、という音とともに魔物はバリアに潰されたのであった
「大丈夫ですか?」
「ごめん。あたし今回助けられてばかりだったね。あいつらは?」
アキナがサキちゃんに肩を貸してこちらにくる
「二人とも生きてるよ。『無事』じゃないけどな」
怪我こそしていないが、様々な衝撃を受けたせいでバリアの中は悲惨なことになっていた。少なくとも食事中には見たくはない光景だ
「協定ができたらこれを毎回やるの?冗談じゃないわ」
協定が蹴られたことで事なきを得たが
もしこのまま通っていたらどうなっていたことだろうか
まだこれから起こる事を知らない俺達は帰路に向かう




