カズナリ、叛逆の父になる
「え、じゃあ今年の暮れも来れないって言うの?」
俺と通話して残念がっている彼女は妹のエミリ、妹とは言っても八歳も年は離れており、未だにお兄ちゃん離れできていない。
「今まで仕事で帰ってこなかったから今年くらいは帰ってくると思ったのに」
困った妹だ。俺のことなんて放っておけばいいのに
「もしかして、お父さんのことまだ怒ってるの?」 「・・・子供じゃあるまいし根に持ってないよ。それで家に帰って何を話せって言うんだよ。『就活に失敗してブラック企業に入った挙句仕事辞めました』ってか?」
「それは」と
「お前がまだ小説続けてたのは安心したよ。お前は俺みたいに勉強ばかりするんじゃないぞ」
「じゃあな、母さんによろしくな。」
俺は一方的に電話を切った
ギルドアークライト本部
「カズナリ、これから何をするの?」
「俺たちの敵と会うのさ」
状況を知らないエルディナが聞くのも無理もない
この日、《アークライト》はいつになく緊張感が高まっていた。
それもそのはず、要注意ギルド《黒蛇党》の首領グラディスが協定を結ぶためにはるばるやってくるのだ
大規模な集まりということもあり、ギルド員たちも多数呼ばれている。アキナたちもどこかにはいるはずだが人混みでわからない。
おまけに普段は何をしてるかもわからないあない顔も名前もしらない味方のNPCが大物ヅラして並んでいる
相手は王国の影を牛耳る犯罪者組織、なんなら何度も交戦している仲だ
それでもなお我らがマスターであるギルデロイ第三王子は彼らとの仲を取り保とうとしている
「いいか、彼らとの良好な関係を維持するんだ。できる限り無駄な犠牲は払いたくはないからね」
彼の言い分は至極真っ当に聞こえるが、その《黒蛇党》の情報を信じて一度は、探索に行かせたギルド員を全滅に仕掛けたことさえあったのだ。ギルデロイは俺たちなら死んでもいいと思っているのだろうか。
その一方で《黒蛇党》と相反する、民間で治安維持を行うギルド《ジュラ自警団》は敵対してるのだ。
あくまで政治を建前に使っているがただ勝てないことを理由に戦わない口実を作っている様にしか聞こえない
『けど、そうするしかないんだ。俺たちは弱いから』
「そんなんでいいのかよ・・・」
「?」
ギルデロイの聞き苦しい言い訳を前にして、昔同行したギルド員の言葉を思い出していた。
「どうしたの、カズナリ?」
「すまん。昔の仲間を思い出していた。少しの間しか同行できなかったか、いいやつだった。結局ギルデロイの無能さによって死んでしまったが」
「ギルデロイ様、グラディス様がお見えになりました」
「よしなに」
犯罪者組織のトップ相手に随分丁重な扱いだ。
「よぉ、《アークライト》のみんな元気にしてたか。」
まさにファンタジー世界のギャングの親玉と言わんばかりのいでたちをした男がさながら親戚のおじさんのようなフレンドリーな接し方で現れた。
「もちろんですよ、グラディスさん!」
それに対する《アークライト》の人間たちの反応もひどい
学生時代、どこにでもある自分の武勇伝ばかり語ってる先輩のご機嫌伺いしてる後輩たちを思い出すほどのプライドの捨てっぷりだ
「相変わらずパッとしない連中だな。」
「さすがにグラディスさんには敵いませんよ」
だが、彼らはこうするしかないのだ、真正面から戦っても十発十中勝てるはずがないのだから
「カズナリ、顔が怖くなってる」
思わず顔が険しくなっていたようだ。エルディナに指摘されるまで気がつかなかった
「ん?あれは」
睨みつけていたのに気づいたのかグラディスがこちらを向き、俺の方に近寄ってきた
「よぉ、お前が《アークライト》のお騒がせ坊主か噂には聞いてるぜ」
ならず者の王が近寄ると俺の頭をワシワシと撫でてきた。正直不快だ。
「やめてっ」
止めようとしたエルディナを掴んで懐に入れた。
彼女が知られたら色々と面倒なことになる。
「自分が何か?」
「ほぉー、俺を見ても怖がらねぇと、他とは違って随分と肝が座ってる。噂通りだ」
睨みつける俺に対し悪びる様子もなくグラディスは自分の顎を指で撫でた
「さっき言いかけた噂ですが、どんな内容なんです?是非とも聞いてみたいですね」
「まぁ、どうってこたぁねーよ。俺が適当に流した情報に引っかかっておめおめ逃げ帰ったマヌケがいたって話だよ」
嫌な笑みを浮かべ、わざわざ高い身長をかがめて俺の顔を見て嘲笑う。
正直、他人の悪意に慣れていた俺はわりと冷静に返した
「おたくのギルドは部下の失敗も他のギルドのせいにするんですね」
ギスッ!!!
世界全体が色褪せるレベルで空気が凍った
グラディスが引き連れた幹部たちも一斉にカズナリを取り囲む
「言ってることがわからんな?もう少し分かりやすく言ってくれや」
「俺たちはそちらのリークを信じて探索したまでだ。あなたは適当なデータだと仰るが、そちらの諜報員に問題があったんじゃないのか?」
しばしの沈黙。グラディスの顔が険しくなった。
さしものギルデロイも何かを叫んでいるが距離が開いてるのでわからない
所詮こいつもステータスとゲームマスターの特権を振るってイキってるだけの人間だ。
「そもそもこの協定だって悪趣味なカラス仮面や変態博士が殺されて危機感覚えたからだろ?たった二人殺されて日和るとはとんだ腰抜け組織だな」
「貴様・・・」
グラディスの顔に青筋がたち、俺に掴みかかった
「絶対に勝てる土俵でしか喧嘩を売らない上に、力を誇示してプレイヤーに媚を売らせる。お山の大将もはなただしいな!」
「・・・たかだか二人殺した程度で調子に乗るなよ。あれは俺の組織でも末端の兵士だ!見せしめにテメェを血祭りにあげたっていいんだぜ!」
幸いまだ協定を結ぶ前だ。こっちもむざむざ死ぬつもりはない。一矢報いてー
「待てよ!」
一触即発、剣を抜こうとした瞬間、人混みから声が聞こえた
「この人の言う通りだ、この協定はおかしい」
一人のプレイヤーが俺とグラディスの前に現れた
「そもそも俺たちだって殺されたくないからお前にヘコついてたんだ。」
「あ?」
この男は震えていた。グラディスの恐怖と重圧に抗っておるのだ。そして、今にも潰れそうになりながらも涙と共に声を絞り出す
「・・・でもこの人を見て俺の考えは変わった。お前がこのロールプレイに飽きて倒させる機会を与えられるまで一生媚び諂って人生なんて死んでもゴメンだ」
「きさま・・・!」
「そ、そうだ!アークライトをなめるな!」
「ゲームマスターだと思ってお高くとまりやがって!」
「みんな」
次々と思いの丈をぶつけるプレイヤー達
グラディスの顔が怒りで頭に血がのぼり顔が真っ赤になった
この勢いに任せプレイヤーたちは俺も俺もとグラディスの前に現れ、場の収拾がつかなくなったかと思われた
「待たれよ!!」
赤べこの仮面をつけた侍の職業を冠する犬の半獣人、八綺衆の一人『アカベコ』である
「グラディス殿、一部の反乱分子どもの無礼をお許し願いたい!どうか、その剣をお納めくだされ」
アカベコは完璧なフォームで土下座をし、そのまま視界が歪んだ。依頼が終わった時の感覚だ。
かくして《黒蛇党》との会合は中断されたのだ
それからすぐ俺をはじめとしたプレイヤーたちは投獄され、二週間の刑務作業が義務付けられ、一切の依頼の参加ができなくなった。
ちなみに今回投獄されたプレイヤーは五十人。普段は一回に一人程度なのでこれは新記録だ
「カズナリさん!もうこんな危ないことはしないでください」
アキナは大粒の涙を流しながら俺を叱る。エルディナも彼女の涙を拭うので精一杯
地味にこれが一番効いた
「まぁ、これに懲りて危ないことをしないでね」
「今回の行動はあまり褒められたことじゃないわね、
・・・でもお陰でスカッとしたわ。私たちが今まで言えないことを言ってくれて。」
俺は二度と無茶なことはしないことをみんなの前で誓った
「そうだ、協定は?」
「あれからギルドの半数が抗議をしてね、ナシになったわよ。《黒蛇党》に協力する人は自由だって言ってたけどね」
この状況でも諦めない運営の執念は見上げたものだ
「あれから私達カズナリさんの投獄を取り下げるよう署名を集めたんだけどダメだったよ」
サキちゃんは嘆願書の束を見せてくれた。俺のために大勢のプレイヤーが動いてくれたという事実を見せてくれたのは嬉しかった
「ここだけの話、結構感謝してた人はいたよ。もしかしたら運営に屈した人間ばかりじゃないのかもね」
かくしてギルドを二分する戦いが静かに始まろうとしていたのはまた別の話だ




