家出娘
「それじゃあ、つまり家出したってこと?」
アキナは申し訳なさそうに頷いた
店長とサキちゃんを出迎えるために家の掃除とお茶の準備をしておいたのがこんな形で幸いするとは
カップ麺とコーヒーの容器とゴミ袋に囲まれた普段の部屋では彼女を招き入れることはできなかったもんな
こういう時、どんなふうに接すればいいんだろうか、オオニタならもっと彼女に対して適切な接しかたができるのだろう。
しかし、俺はオオニタじゃない。俺は少しでも動揺してるのをみせないようお茶菓子を準備に手間取るフリをした
「でもさ、君くらいの年頃ならそういう親のトラブルなんて」
クッキー菓子を皿に並べながら俺はできる限りクレバーに話そうとする。お茶菓子はもうすでに出ているというのに
「・・・『どうして家出したのか』聞かないんですか?」
「え?」
ドキッ、という音が俺の中で聞こえた。
「君のお父さんが結婚相手を?」
すみません、隠すつもりはなかったのですが・・・」
思わず俺も正座して聞いている。
聞けばアキナはシラユリ電機の社長令嬢だという
シラユリ電機はAI技術とCPU技術で急成長を誇る会社だ。昨今のVR技術だってこの会社のおかげとでも言っても過言ではない
そんな折セキトバグループの会長を名乗る人物から結婚の申し出が来たというのだ
「父は結婚には肯定的でこれからの会社の発展のためにも結婚したほうがいいって言ってきたんです」
頭の処理が追いつかない。アキナが大企業の社長の一人娘で、親から提案された結婚を断るために家を出たって。元社畜の人間にはあまりにもスケールがでかい内容だ
「そんな急に言われても私はまだ学生だし、結婚はまだ早いって思ったんですが、会社のこととか父のこととか考えたら何で答えたらいいかわからなくて、私は、私は・・・」
アキナは俺に抱きついてきた。いや、正確に言えば俺の胸で泣いていると言ったところかー
「カズナリさん、どうしたらいいんですか」
どうって、どうしたらいいんだ俺
何で声をかけたらいいんだ
動揺する頭の中でも、エルディナが介入しないよう空いた片手で携帯の電源を切る判断だけはなぜかできていた
俺は会社を辞めようか考えてた時のことを思い出していた
あの時オオニタはなんて言ったか
「家族でも会社のことでもなく、まず自分を優先しろ」って言っていたんだよな
そうだよな、俺もつい最近まで同じ状況だったんだ。
親の期待に沿えるように勉強だけ頑張って、就職に失敗した後は社畜として命令されるだけの人生を送り、やっとこせ自由を手にしたと思った時にはあんなプレイヤーが振り回されるゲームをやるハメになってしまった。
どこまでいっても誰かの思惑通り、俺の人生には『自分が何をしたいのか』なんてものがなかったのだ。
だから、誰もが自由になれるはずのVRMMOの世界に踏み込んだにもかかわらずギルドバウトオンラインであんな理不尽な思いをしたから俺は誰よりも怒ったんだ。
俺は意を決してアキナの両肩に手をかけて彼女の目を見て話せる体勢にする
「なぁアキナ、お前が嫌だと思うならやめろ。そんなこと誰も強制される権利なんてないんだ」
「・・・」
「会社がとか、向こうが好きだと言ってるからとかそんなことは関係ない。お前が嫌ならそれを突き通していいと思う」
「カズナリさん」
言っては見たが、なんか変な雰囲気になってる
これからどうなってしまうんだ俺たち。こんな時どうしたらいいんだ
「たしかに留守じゃなさそうなんだけど」
「カズナリちゃん、入るわよー!」
そう、ドアの外で二人が待っていることなどもはや気付きもしなかった
ガチャ
「あっ」
「あっ」
やってしまった。
アキナに抱きしめられてるのを二人に見られた
一番最悪のタイミングで入ってきた




